卯月陽菜 ~エピローグ~
私は自室で目を覚ます。
窓から入る日光に私は目を細める。
目覚まし時計を見るとお昼をまわっていた。
今日は休日なので目覚ましをセットしていなかったのだ。
私は伸びをしてベッドから降りる。
「おはよう、もうこんにちはかな?」
「…」
扉の前に立つ人影に私は挨拶する。
返事はない。
その人影は血まみれで顔は原型を失いかけてるほどのグシャグシャだが、紛れもない幼馴染みの慧だった。
私はあの時…
「私は…それでも慧と居たい!!」
私の大きく張り上げた声に桜の少年は驚いたように目を見張る。
「…例えどんな姿でも、大好きな幼馴染みで大切な人だから!!このまま謝れずにお別れしたら…きっと私は一生自分が許せない!!」
「…結局それは君が救われたいだけだろう?」
少年は嘲笑うように言う。
「…違う…これは私への呪い。死んで魂だけになってまで私のわがままで縛り付ける私への罰と呪い。私はこれから先慧以外を愛さないし愛せない。」
慧とは桜への願いで私が死ぬまで私のとなりに縛られる。
私の我が儘のせいで…
なら私も未来の自分を縛る。
永遠に結ばれることの無い幼馴染みだけを愛して…他の人に靡く自分を許さない。
これは私の独善的で歪んだ覚悟。
私はゆっくり慧のもとへ歩み寄る。
まだ恐怖はある。
生理的な嫌悪感も消えることはなかった。
でもソレが慧だとわかると私は躊躇いなど無かった。
触れられないとわかっていても慧の顔を手を伸ばす。
ぬちゃ
血に濡れた慧の顔に私は触れた。
とても冷たくて柔らかい肉の感触だった。
でも私は手を離さない。
「ごめんなさい、慧。私が素直になれなくて…わかっていたのに!貴方は私の為にしていてくれていたのに!私はそれに甘えていただけなのに!!誰よりも側にいた私が貴方に気付けなくてごめんなさい…私の我が儘で縛ってごめんなさい!!でも!!私はまだ貴方の側にいたいよ!!」
私は全てを慧に告げて泣き崩れた。
彼は私の頭を優しく撫でる。
それは何時も私が泣いている時に優しくしてくれた温もりがあった。
『…いつでも見守っているから…』
「っ!!慧!!」
それは間違いなく慧の声だった。
『君は…自分の幸せを考えて。いつも僕は側にいて邪魔になるかもしれないけど…僕は君が幸せになることを望むから…』
顔を上げた時、彼の顔は綺麗な笑顔で笑っていた。
卯月陽菜 END
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