#34 琥珀争奪戦

 現在、七つの琥珀の内、四つの琥珀が手元にあった。

 その中の一つは、わたしたちが手に入れた、青色の琥珀だった。


 わたしたちと同じように、この国の魔獣ハンターたちも琥珀を集めているらしい。

 しかし、フラウスが依頼したのではなく、

 ハンターたちの依頼主は、古書の国の国王……つまり、フラウスのお父さんだった。


「以前は深く説明していませんでしたよね。

 あまり、言いふらすような内容でもないので、躊躇っていた、というのもありますが。

 こうして仲間として協力している以上は、説明をする義務があるでしょう」


 四つの琥珀がテーブルに並べられる。


 わたしたちが四つ……、

 ハンターたちは、三つを入手しているらしい。


 ここから先は、暴力が軸となる、奪い合いになる。


「私の父は、世界の国々、歴代の中で、最も愚王に相応しいと言えるでしょう。

 現状、国が活発にならず、ここ数年、まったく発展できておらず、しかも、他国との交流もない。

 国内で新しい政策をする気もなく、亜人と人間の格差問題にも、目を向けようとしない。

 ただそこにいるだけの、置物です。

 あの人は、王というだけで得られる富と名声を、失いたくないだけなのです。

 それだけのために、ずっと、自分の椅子を守り続けている……」


「琥珀は元々、一つだったんだって。それ一つで、王を継承させる儀式を始めることができる。

 退位と即位ができるわけ。

 でもその愚王は、王の座を渡したくないがために、琥珀を七つに分け、隠した。

 その琥珀の位置を、愚王が知っていれば、話は早い。

 奪い合いになる前に王が回収できるわけだし。

 しかし、そうなっていないのは、あの愚王でさえも、隠した場所を忘れたってことよ」


「忘れただけならまだいいですが……、

 実際は自然現象や第三者の悪意のない干渉によって、隠し場所の座標をずらされてしまった。

 偶然によって、ですが。

 そうなると、誰にも隠し場所が分からないのです。

 なので父も、ハンターに依頼をして、回収させているのでしょう。

 私たちはもちろん、一つも知らないわけですから。

 そうは言いましても、目印はあるわけです。

 違和感がある場所を探せば、こうして四つ、見つけられます」


 サヘラが見つけた、あのゴブリンの本が、目印なのだろう。


 サヘラが抱いた違和感が、背表紙の証明のあるなしなのだ。


「フラウス様は、琥珀を探して、じゃあ……」

「ええ。儀式をして、私が、正式に王女となります」


 王女となり、亜人と人間との格差をなくす。

 それが、フラウスと、彼女が大切にしている友人が幸せに過ごせるための、第一歩となるのだろう。


「あたしたちが協力しているのもそれが理由よ。

 古書の国には貴重な本が多く、ここにしかない本も多い。

 意外とよく利用するのよ。

 それなのにこうも差別的だと、調べにくいったらありゃしないわ。

 こっちから攻撃できないというのも、ストレスよ。

 だから、フラウスが正式に王女となり、法律を変えてくれると言うのなら、協力するのは当たり前よ」


「不便な国で、申し訳ありません……」

「そう思うなら、きちんと国を変えなさいよね……あと、怒ってないから」


「あ、ちょっと素直になった」

「うっさいわね! タルト、あんたには普通に怒るわよ!」


 リューナにちょっかいをかけると、毎回反応が面白くて、楽しくなってくる。


「説明はそれくらいでいいと思いますよ。

 分からないところは、フラウス様に個別に聞く、ということで」


 ダガーさんの仕切りに、わたしとサヘラが頷く。


「この四つの琥珀を、どう守り切るか、というのが議題になりますね。

 タルトたちの話を聞くと、ハンターの一人と接触し、撃退した、と――」


 撃退したと言うより、ゴブリンが助けてくれて、相手が自滅したようなものではあるが……、

 撃退した、と言ってもいいのかもしれない。


「なら、ハンター側には伝わっていると見ていいだろう。

 琥珀も、四つ目を入手していると知られている、と考えた方がいい。

 ……今夜、襲撃される可能性が高いだろうな」


「どうするの? こうしてここで固まっているのがベストかしらね。

 交代しながら見張り、襲撃がきたら、力自慢の男二人が待ち構える、というのがいいんじゃないかしら」


「私は構わないが」

「……おれも」


「ディーロ、聞こえないわよ」


 サヘラ以上の人見知りをするディーロに、リューナが苛立ちを見せる。


 逆に、サヘラは共感して、こそこそと二人で会話をする場面を見ることが多かった。


 内容までは分からないが、友達になれたようなら、良かった。


 わたしにはあんまり喋ってくれないのが、ちょっとショックだったが……、

 ゆっくり、警戒心を解いてあげれば、いずれは喋ってくれると思う。


「――固まるのは、得策ではないでしょうね。

 一網打尽にされたら、全ての琥珀が奪われてしまい、父に琥珀が渡ってしまいます。

 そうなれば、今度はもっと見つからないように、この国の外に、ばら撒きかねません。

 ……いえ、父なら、きっとやるでしょう」


「では、どうしますか」


 そうですね……、

 と考え込むフラウスに、ダガーさんが提案を出す。


「それぞれが琥珀を持ち、ばらけさせるのはどうでしょうか。

 確かに一人一人の危険度は増しますが、その分、相手も人員を分散させるしかありません。

 戦力が落ちるはずですし、それに我々は亜人です――人間に負けるほど、やわではないでしょう」


「ですが……」


 一人一人の危険を考え、作戦決定に踏み切れないフラウスだった。

 ディーロとダガーさんは言わずもがな、心配無用だ。

 わたしとサヘラも、一緒に行動をするため、一人よりは危険ではない。


 一国のお姫様であり、王女であるフラウスを襲撃しようという相手もいないだろう。


 そうなると、危険なのは、リューナになる。


「舐めないでよ。あたしも亜人なのよ。いざとなれば、この脚で逃げられるわよ」


 一足で遠くまで飛べる脚力を持つのが、兎の亜人である。

 攻撃性能は低いが、しかし、逃亡するためにはうってつけの能力とも言える。


「フラウス様、あなたが決めてください。我々は、それに従います」


 フラウスは目を瞑る。

 数十秒の思考の末に、彼女は作戦決定を言い渡す。





 ――翌日、



 ゴミ集積所の中のゴミ袋に紛れて、リューナの姿が発見された。

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