イシ 第五話

徐々に意識が鮮明になっていくと、ポツンと一人平原に立っていた。

「あれまぁ、どちら様?」

声のする方へ振り向くと、小さな老婆がいた。


「花が夢見るこの時代、待てど暮らせど来ぬ太陽、夜ごとの闇を見下ろせば一面見事な彼岸花、残ったものはみな朽ちて…」


その言葉を聞き終わると気付けば景色が変わり、言葉通り辺り一面彼岸花だらけになっていた、生命であったであろう灰の塊。そして闇に溶けるように老婆の姿はなくなっていた。

頭が痛くなりそうだ、そう思い歩き出した。

少し歩くと再び老婆が現れた、今度は逃すまいと近付いて話しかけようとする、が。

「そも、常に闇夜に囚われ続け、行けども行けども奈落へ向かう、進みたるは無知なる者よ、知らぬが仏なのではあるが、知るも地獄の入り口なり、さて」

待ってくれ、そう声をかけようとして一歩踏み出した瞬間、地面に足がつくことなく落下していった。

恐らく下であろう方向に視線を向けると老婆がまた現れた。

「無知の旅人世界を越えて、行く先々は欠陥品、私は夢の案内人、この夢見る者深淵に眠る」

老婆が言い終えた後、その姿は無数の蟹となって消えた。足の裏に地面の感覚が戻る、見回すと左側に一点の光が見えた、すごく遠くな気がするし手に取れそうな程近い気もする、遠いのか近いのか距離感が全く掴めない。たった一歩だったかもしれないし、数時間歩いたのかもしれない、時間の感覚がおかしくなってしまいそうな空間で光に近づくと、目の前に扉が現れた。

ドアノブに手をかけると勝手に開き、中から声が聞こえてきた。

「いらっしゃい、ここまで来たのは君のような人ならざるもの以外は中々来ないんだ。君はどんな姿かな?」

そこに居たのはアイツの顔が咲いた薔薇の花だった。

「しまった、これからだったのか、真実を知るのにはまだ少し早いようだ。

その身体は特別製でね、私が作ったのだよ。いくつもの地平線の遥か先に、蜂が地を震わせ沸きたたせるかの如く、いつまで経っても泣き止まぬヤカンの中身は曇り空、さぁ部族の長は決意を固め、いざゆかん!地球の核まで行進だ!まだ見ぬ怪異を探しに行こう!アッハッハッハッハッ!」

狂気を感じとり後ずさると、背中に何かがぶつかった、あの老婆であった。

「ここまで来るのも一苦労、これから先は更なる苦痛、悲観する事なかれ、これより先は目覚めの道、進めば終わりは必ず来る、されどイバラの道を進むのみ、覚悟はよろしいか?」

頭の理解が追いつかない、起こったこと全てが意味不明だ、夢の案内人?アイツの顔をした花だと?目覚めの道?思考がまとまらない、頭痛がする。しかし、選択肢は他になさそうなので老婆に向かって静かに頷いた。


「承知しました旅人様、これより進むは過去の夢、いかなる干渉も受け付けず、結末変わらず未来へ進む、命見捨てる覚悟を持てば苦痛は少なく済むでしょう、拾う勇気があるならば、待っているのは修羅の門、自己の存在忘るるならば、いつかは溶けて消えていく。」


正直何を言っているのか分からない、考えるのをやめてひとまずついて行くことにした。

老婆について行くと扉が現れ、その先には子供の頃住んでいた家の前に出た。

懐かしさを感じていると声が響いた。


「お兄さん、誰?」

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イシ *sora, @sora0793

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