イシ 第四話

そこに居たのは間違いなくアイツだった、不思議と涙が出てきかけていた。

「さて、お前は何人目かな?」

ちょっと待て、出かけていた涙が引っ込んだ。

「おっと、すまんすまんこの質問をするのはもう少し先だったな、まぁいいか次に移ろう」

「お前の名前は?俺の名前は?」


簡単だろう、俺の名前は…?コイツの名前は?いつも呼ばれていた名前、親に貰った名前、自分の証明…。


「出てこない、と、8か9人目か」

「なるほど、状況は理解した。じゃあ説明してやろう」

焦りや不安な気持ちが落ち着かないまま、今現在起こっている状況についてアイツから説明を受けた。

正直半分ほど理解出来なかったが分かったことを大体まとめると


一つ、ここは俺が生活していた世界ではない。

二つ、アイツは消えたのではなく本当に元からあの世界の住人では無かった。なぜ俺が見えていたのかは完全に謎

三つ、正直理解し難いが俺の身体は一つだけだが精神は8~9人分入っているらしい。


「いやはや本当に驚いた、本来ならば俺とはここで初めて会うはずなんだがな?」

「ねぇー、何かのミスなの?しわ寄せが来るのだけは勘弁ね!」

「いつもの事ですよ、博士曰く『実験とは成功の下に積もる失敗の事』だそうですから」

「その通り!失敗は恐れてはいるが好奇心は恐れていないのだ!」

「何それ、失敗するの恐いんじゃん!」

3人が会話しているがイマイチ実感がわかない、この世界は別の世界、考えても理解出来ないのでとりあえず周りを見る事にした。

変なもの触るなよー、そんな声に軽く手を振り返しつつ歩いた、見た事の無い機械類、大きな試験管のようなもの、そして重く閉ざされた鉄の扉、なぜだかその扉から目が離せなかった。

「近付くなよ?」

うわっ!、急にアイツが後ろに現れたので思わず声を上げて驚いてしまう。

「あそこには重要な設備が整っているから近寄るなよ?」

流石に壊したくないから近づかない、と伝えておいたが妙に引かれるものがあそこにある、と直感で感じていた。

「しかし、ここまで来るのは遥か彼方の山頂より飛び降りた古タイヤが海の底を漂うより大変だっただろう、今のうちに休んでおくといい、これからは歩くウサギや歪んだ鉄棒や空飛ぶ魚たち有象無象が大行進を始めるからな」

は?言っている意味が分からない、そう思った瞬間アナログテレビを消す時のようにプツンと意識が無くなった。


俺の後ろには銃を構えたあの青年が立っていたとは知らずに。

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