イシ 第三話

今日は何だか大学に行く気分ではなかった、朝"あんな事"があったからだ。

何故、自分の口から意味のわからない言葉が出てきたのかさっぱり理解できなかった、あれは俺であって俺でない、しかし、確実に俺である。

感覚としては分かってはいるのだが、上手く言葉に表せない。誰かに話せるはずもなく一人悩んでいると、電話がかかってきた、非通知だ、怪しい、ここ最近のうちに色々な事が起こりすぎているせいか、つい出てしまった。


グニャリ


突然視界が歪み、激しい頭痛に襲われた。

視界が段々とハッキリしていくとそこには大学が建っていた、いや、正確には大学だったであろう建築物がそこにあった。

今の今まで俺はどこにいた?家だ。

建物の見た目は?普通だった、とりあえず壊れてはいなかった。

普段の景色は?空は青く、空気はキレイだ。

今の状況は?空が灰色で、思わず鼻を覆ってしまいたくなるほど焦げ臭い、目の前の建物は半壊している、そして家ではない。

よし、思考は正常、状況は理解出来ん。


今の状況を整理していると後ろから声をかけられた。

「おーい、そこの人ー!」

「そこにいると危ないですよ!」

男女の声が聴こえてきた。

振り返ると中学生くらいの背丈で吹けば飛ぶような華奢な女の子が一人と、俺よりも5センチ程背が高くガタイのいい男子がこちらに向かって歩いてきた。

「お兄さんはなんでここにいるの?どこの人?」と女の子が質問してくる。

「確かに今ここにいるのは不思議ですね、あ、もしかして近くにお住いの方ですか?」と丁寧な言葉遣いで男子の方が語りかけてくる。

ここに来たばかりで、今がどういった状況なのかが分からないと説明すると二人は眉をひそめた。

「怪しい、あんたもしかして政府の…」

「後ろに下がって」

二人が構えだしたので慌てて否定した。

カバンの中身を見せ、生徒証も見せた。ここの生徒だと言うと二人は警戒しつつも生徒証を眺めていた。

「信じられない…」

二人がほぼ同時に喋ると、女の子のが


「ここ、10年も前になくなったのに?」


は?ちょっと待て、10年も前に無くなっているだと?いやいや、俺はつい三日前まで大学に行っていたんだぞ、ありえないだろ。

「でもこの生徒証は本物のようですね」

そう言うと、とりあえず敵対していないと分かると二人は警戒を解き生徒証を返してきた。

そして、今起きた出来事をそのまま伝えると二人は驚いた様子で詰め寄ってきた。

「すみません、こちらにお願いします」

「こっち!ついてきて!」

と手を引かれながら車に連れられ数十分、無理やり連れてこられてきた感が否めないが、目の前には地下施設への入口のようなものがあった。

「こちらへどうぞ」

案内された先に、探していた懐かしい顔があった。


「おかえり」

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