イシ 第二話

まるで存在しなかったかのように俺以外は覚えていない

昨日話していたはずの友人も

「誰だそれ?頭でも打ったか」

おかしい、俺だけが覚えている


違和感は無かったアイツの両親に会った事もあったし、その時家にも行っている

俺の記憶だけが狂っているのか?それともこの"世界"こそが狂っているのか?

アイツの状況が何も分からない、とりあえず明日から土日だ、この2日間で調べられることは調べてしまおう

そう思い今日は眠りについた


次の日は朝から夕方まで、昔一緒に遊んだはずの場所、アイツの家だった場所、思い出の中にある場所に全て行ってみた

収穫は無かった

その日の夜、ふと中学の卒業アルバムを開くと


"ある"


今は誰からも存在を忘れ去られたはずのアイツの写真が"ある"

次の日、同級生達に連絡をとり卒業アルバムを見せてもらえる事になった

数人のアルバムを見たが、写真は無かった

アイツの写真を見せ、覚えているか聞くと

皆、口を揃えて

「知らない」

と、だけ


焦りを感じた、やはり誰も覚えていなかったからだ

これで振り出しに戻ったとも考えたが、俺の卒業アルバムにだけ写真があった理由が分からない

そんな事を考え歩いていると、横を通り過ぎる人影が目に入った

アイツだ

思わず声をかけてしまう、アイツの身体が一瞬反応する、しかし振り向きもせず走り去ろうとする

俺は必死に追いかけた、見失わないように、ここで振り出しに戻らない為に、アイツともう一度話す為に


走った、ひたすらに走った

息を切らしながらもなんとか追い付いた場所は二人で遊んだ公園だった

呼吸を整えもせずに聞く、どうしていなくなったんだ、なぜ誰も覚えていないんだ

アイツは答えようともせず動き出そうとする

逃がすものか、無我夢中で近づいた、そして洋服を掴んだ、と思い顔を上げる

すると、掴んでいたものは俺の部屋の布団だった

理解出来なかった、日付も次の日になっている

朝だ、大学へ行かねば、ツマラナイ、昨日の出来事は何だったんだ、憎イ、記憶が無い、出来損ナイ、役立タズ、昨日の出来事の結末は、壊レてしマエばいイ

考えを巡らせているうちに、まるで自分ではない何者かの考えが浮かんできていた

それに気づいた時、不思議な感覚に襲われた

二重人格かと思った、それとは違う、頭の中にその言葉がイシを持って浮かび上がってきたかのように感じたからだ


その時、意識とは関係なく口元が動いているのに気付いた、笑っている

そしてこう言った


「始めようか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る