Case.71 いつもの子達が水着を着た場合


 透き通った青い水! 

 舗装されたコンクリート! 

 法外な値段を叩きつける売店! 高校生には手が届かん!

 ここは〝ミズパトス〟

 友出居高校のある明谷から電車を乗り継ぎ一時間。

 俺たちはプールにやって来ていた……いや、何で俺らも?


「あゆゆが来て欲しいんだって。いきなり言われても困るな〜まったく〜」


 とか言いつつもプールに来れたことに素直に嬉しそうな日向であった。

 今ここにいるのは俺と日向、それと塾がちょうど休みの日だったので初月も来れた。何か喋りかけてくれてるようだが、周りが騒がしくて何を言ってるのかは聞き取れなかった。というより日向がうるさい。

 みんな住んでいる最寄駅が違うので現地集合としたわけだが、肝心の火炎寺と雪浦がいない。

 当日チケット売場は開園して間もないというのに混んでいる。入れるなら入っておいた方がいいな、これ。あいつらはチケットあるからすぐに入れるわけだし。


 ──と、入園してから30分。

 俺は一人、休憩スペースを確保して待っていた。ギリギリ日陰がある場所を取れるには取れたが……暑い! 熱い! そしてあいつら遅い‼︎

 一応更衣室の出口が見える場所ではあるから、お互いに気付けはするだろう。

 更衣室も人で密集していたし、何か手こずってるのか? と思っていたら雪浦が出てきた。

 なるほど、日向たちは火炎寺と中で合流できたから出てこないというわけか。

 とりあえず俺は雪浦を回収しに行った。


「…………?」

「あ、そういや俺まだちゃんと挨拶してなかったか。えっと、失恋更生委員会の七海だ。よろしく」

「ああ、図書室と保健室にいた。そうか」


 ……俺はモテるために少し鍛えていた時期があった。

 そろそろ出てあげてもいいんだからね! とツンデレな腹筋は力めば現れるくらいにはある。

 がしかし! 雪浦の腹筋はエグいことになっていた! 

 なんだそれは⁉︎ そんな中性的な顔立ちをしておきながらとんでもない化け物を体に隠し生きてるな⁉︎


「ん? どうした?」

「い、いや、腹筋凄いなって思ってさ」

「あぁ。多分バイトしてるからな」


 バイトだけでそんなんなるか! まかないプロテインか!

 雪浦は学校の水着と灰色のパーカーを羽織っているが、チャックを閉じていない隙間から腹筋モンスターが今か今かと獲物が来るのを待ち侘びている。

 俺もなんか羽織ろうかな……うちのツンデレが意気消沈してる。サーフパンツだけで堂々と勝負するにはまだ早かったみたいだ。



「あ! いたいた〜! おーい! 七海くーん!」


 賑やかな場所であってもここまで届く騒がしい呼び声。

 日向がみんなを連れて──ふぐっ⁉︎

 み、水着だと……⁉︎


 ……いや当たり前か。ここはプールだ。

 しかしなんだ、やっぱり水着って最高だなぁ!

 というわけで一人ずつ解説をしていこう。


「ねぇねぇー、場所取ってくれたー?」

「あ、あぁ。あっちの荷物置いてる日陰のとこ」

「おぉ〜ナイス〜」


 日向はピンク色をベースとした水玉模様のワンピース型水着だった。

 小学生っぽい。しかし、腰辺りは引き締まるラインのものらしく、彼女のスタイルの良さを引き立たせ、快活な日向の魅力を一層引き出していた。

 そして、チラ見えする谷間。以前にも直接見たことあるが、日向は意外と胸が大きい。いわゆる脱ぐと凄いやつだ。


「七海くんありがとうございます……!」

「いやいや別にこれくらいいいよ」


 側まで近付いてくれた初月はなんとビキニだった。

 胸の中央にリボン、下がフリルスカートのクリーム色のそれは彼女らしくもありとても似合っているが、この型を選ぶのは意外だった。もっとこう、それこそ日向が着ているようなワンピース型のものだと勝手に思っていた。


「ういちゃんのビキニ似合ってるっしょ〜? ワタシが選んであげたんだよ!」


 あ、なるほど。日向に着せられたな。

 初月は胸辺りが見られることを恥ずかしいのか、手で隠す仕草をする。


「うぅ、わたしがビキニなんて……」

「い、いや! めちゃくちゃ可愛いよ、うん。似合ってるぞ!」

「あ、ありがとうございます……」


 もっと脳内で細かく分析していたのに、肝心な褒め言葉の語彙力低いな、おい。


「じーっ」

「ん?」

「七海くん、ワタシには〜?」

「えっ⁉︎ いや、まぁ……いいんじゃねぇの?」

「ふふーん。まぁ、今回はそれで勘弁してあげよう!」


 何だよそれ。

 もっといい言葉をかけろよ俺!

 女性の服(今回は水着だけど)を褒めるのは、当然のことだろっ⁉︎

 ダメだな、好きだと意識してしまうと、素直に言えねぇや。

 まぁ、日向は満足してそうだし、とりあえず今日はこれでよしとしよう。今日の主役は俺じゃないからな。


 続いては、メンバーの中で一番ダイナマイトボディの持ち主、火炎寺。彼女は燃える炎をあしらったビキニとホットパンツを着ている。

 隙間から垣間見えるプリッとしたお尻でついつい鼻と口の距離が広がりそうになる。

 そして隣にいる女の子はスクール水着で、って誰だ⁉︎


「お兄ちゃん! お待たせー! どう? 私の水着姿は⁉︎」

「いつも通りだな」

「そんな、いつも通り可愛いだなんて……♡」

「四郎。トイレに一人で行けたのか」

「うん! めっちゃ混んでたけど迷わず行けたよ‼︎」


 雪浦の周りに少し幼い(日向よりは大人っぽく見えるが)女の子と、顔つきがよく似ている小学生の男女がいる。

 んんんん、どちら様⁉︎


「雪浦の妹たちだ。つまりアタシの新しい家族」

「へ? チケット買ったのは二枚だけなんだろ?」

「そうしたはずなんだけどなぁ……」


 チケット一枚で複数人入場できるとかか?

 さすがにビビってたとしても家族までは呼びつけないだろう。そっちの方がやり辛くなるし同居してるならなおさら気まずい。

 ちなみに母親の零奈さんって人がいるらしいが、体調の面から今日は家で療養しているという。


「おい、どうすんだ日向。火炎寺の失恋更生しにくくなったぞ」

「うーん、なら仕方ない! ここは思いっきり身体動かして案を捻り出すしかないみたいだね!」

「遊びたいだけだろ‼︎」

「よーし、どこから行こっかな〜」


 園内を見渡して、狙いを定めている日向。見るだけでウズウズしてるのが分かる。


「「わー! おねぇちゃんたちと遊ぶー!」」

「フッフッフッ、未来の失恋更生委員会のメンバー諸君! プールマスターのこのワタシが遊び方ってものを教えてやろー!」

「「いえっさー!」」


 すぐに小学生たちと馴染んだ日向。やっぱり知能レベルはそれくらいなんだな。

 あとプールマスターって何?


「ね、ねぇお兄ちゃん。なんか美人さんがいっぱいいるけど、お兄ちゃんとどういう関係なの?」

「ほぼ初対面」

「ふーん……けどお兄ちゃんを狙ってるのかもしれないよね。あの女と一緒で……!」


 雪浦の妹にめっちゃ睨まれて、火炎寺は少し困ったような素振りを見せた。

 後で聞いたが、彼女は現在中学三年生の二美という名前らしい。小学生の方は女の子が三葉、男の子が四郎の双子だ。


「ま、まぁ! とりあえずだな雪浦。七海が取った場所に荷物を置いてプールで遊ぼうぜ……!」

「ああ。だが、もうすぐで合流できそうだ」

「あ? 合流? もうアタシら全員揃ってるぞ」


「──なっ⁉︎ 何故貴様らもここに⁉︎」


 どっかで聞き覚えある声。

 見るとそこにいたのは……ってPURE⁉︎


「はっ⁉︎ 何でお前らがここに⁉︎」

「おいそれはボクのセリフだったろ! ボク達は依頼で来たのだ。彼女、五十嵐芳穂の依頼でな」


 一目見た時は未亡人のバカンスかと思った。

 おい俺はバカか。彼女は年下の高校一年生だぞ!

 何事にも穢れない真っ白なビキニにパレオを巻き、麦わら帽子を被った五十嵐は大人の色気ムンムンで登場した。


「ええっ⁉︎ い、五十嵐……⁉︎ てことはなんだ、雪浦が待っていたのって……」

「ああ。彼女からもチケットを貰ったからな」

「ガハッ‼︎」

「か、火炎寺ー‼︎」「あゆみちゃん⁉︎」


 火炎寺は血を吐いて倒れた。という比喩表現だ。実際には吐いてないし倒れてはないぞ。雪浦がまた心配してしまうからな。

 しかし、それ並みのダメージは火炎寺には与えた。


 ドキッ! 水着美女だらけの水泳大会はかなりの大所帯で幕を開けることになりそうだ。


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