Case.46 運命の王子様と出会えた場合



 ──運命の王子様だと思った。



 自分を助けてくれたあの日。

 もう少しで自分が文化祭の実行委員に選ばれそうになった時、庇ってくれるようにして七海くんが手を挙げてくれたあの時。


 なんてカッコいいんだろう。


 自分はすぐにそう思った。

 あれからずっと七海くんを見ていた。

 気軽に声をかけるなんて自分にはできないけれど、七海くんの指示通りに装飾品をたくさん作った。手先は器用だから役に立つと思って。

 いつかあの時の感謝を伝えよう、そう思っていたらSMFのバディであったシュウイチが七海くんだと気付いた。


 ゲームは趣味でずっとやってきていた。

 自分で言うのもあれだけど、腕前はかなり高いと思う。

 運が悪いので、ガチャ機能や運要素が非常にかかるゲームはやってこなかったけど、SMFは人気でプレイ人口も多いし、まぁまぁ面白いし、実力で勝てる部分もあったから惰性で続けていた。

 レア度の低い猫装備で揃えて、それに合わせて口調も猫人みたいにしてみたりして。ついでに中の人のキャラクター像も作り上げてみたりして。

 自分みたいな陰気なキャラじゃない、明るくて新しい自分になれた気がした。


 そしたら一年ほど前にフレンド申請されていた。

 とりあえずフレンドになって、一緒に様々なクエストに行ってみた。

 腕前は普通だったけれど、チャットでの会話が少し弾んでいたことから何となくバディになって。

 まさか、シュウイチが同じクラスの七海くんだったなんて……なんて自分はラッキーなんだろう。


 ずっと前から、七海くんと会話してきていたんだ。


 恋愛相談も受けた。

 自分は経験がない癖に、ネットで拾ってきたような雑学を、さも自分の経験のように話してきた。

 結果は上手くいかなかったみたいだけど、これも自分にチャンスが巡ってくる運命だったのかもしれない。

 だって、恋愛相談をしていたら好きになってしまう。そんなことは実際あるから。実例がすぐ側にいるし。


 それに七海くんを好きになったのは、これだけじゃない。


 自分は孤独が嫌い。

 一人でいると、周りから何を言われるか分からないから。

 だから、必ずどこかの集団に混ざるようにしていた。いつもクラスメイトたちと話す時はニコニコしているし──いや、そもそも自分は聞いていることしかしていない。

 自分がいてもいなくてもどっちでもいい。ここが本当に自分の居場所か分からなかった。


 けれど、七海くんは孤独が何も怖くないらしい。

 クラスでは誰とも話すことはなく、我何事にも関さずとずっと一人でいる。

 それはまさに孤高という称号がふさわしいと思った。

 それなのに、いざ文化祭でクラスの力を合わせる必要に迫られた時は頭を下げて、集団を率いていく。

 常に集団の和を保ちつつも、自分は一人で生きていけることを証明している。


 なんてカッコいい生き方なんだろう。


 自分もこう生きたい。

 七海くんを見てそう思えた。


 今までの不運もきっと七海くんと出会うために残されていたんだ。


 ──七海くんと話せるようになりたい。


 ……七海くんと仲良くなりたい。


 七海くんと付き合いたい。



「心木仄果。ボクの目的のために、君の力が必要だ」


 そんな気持ちが先行するようになった時だった。

 士導様が自分をPUREへと勧誘してくれた。

 なんでも純愛なカップルを多く生み出し、それから理想的な社会を作りたいと。

 最初はよくわからなかったけれど、話を聞いていく内に、大きなことを成し遂げようとするその士導様の熱に駆られて、自分もPUREに加入することにした。

 自分が誰かの役に立てるなんて思ってもいなかったけど、どこで聞いたのか、器用であることと電子機器が得意なのを知ったらしい。


 自分は必要とされている。


 士導様や金城さんみたいなキラキラした人達といれば、自分の居場所が見つかるかもしれない。

 PUREに入れたのもラッキーだ。

 それに、ここにいれば失恋更生委員会にいる七海くんと関われるかもしれない。

 士導様や金城さんから男の子を惚れさせる方法を教えてくれるかもしれない。


 それだけじゃない。席替えで隣同士になるなんて運が自分を味方している。

 落と試合で七海くんにアピールすることもできた。

 告白するなら今しかないよ、と言われているみたいだ。


 けれど、士導様の様子が土曜でのデート後、おかしいことには気付いていた。

 もしかして七海くんを好きになってしまった……?

 わかる。だってカッコいいんだもん。

 しかも、不良から助けてくれたなんて好きになる要素しかない。


 けれど、負けたくない。

 士導様にはとても感謝しているけれど、ここは譲りたくない。

 自分はいずれ自立する時が来る。二人にくっつくだけじゃ駄目なんだ。

 ここでくらい、自分から積極的に行かないといけないんだ。


 それに七海くんの周りには魅力的な女の子がたくさんいる。

 早く告白をしないと、いずれ七海くんは誰かと付き合ってしまう。そんな予感がする。


 だから自分は誰よりも早く告白をする。


 一週間チャンスを無理矢理貰った。

 落と試合の時みたいに、隣でアピールするだけじゃ駄目だ。もっと七海くんと向き合わないと。

 対決においての他の子達のアピールを見て、勉強した。


 七海くんを落とすために、やれることは全てする。

 大丈夫。今の自分は超ラッキーだ。

 他は不幸でも構わない。


 だから、お願いします神様。

 自分の恋愛くらい幸せになりたい。



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