Case.38 おっぱいを揉ませてもらった場合


「向こうは金城花がやってくるね!」


 本部に戻るとすぐに日向はそう確信し、宣言した。

 二十分経てばあいつらがここに来る。両チームの代表が俺を落としにかかってくるのだ。なんでだよ。


「どうしてだ委員長?」


 実は唯一、律儀に委員長呼びをする火炎寺が質問すると、気分を良くした日向はいつものごとく不敵に笑い出した。


「ふっふっふっ〜、それは友出居高校に言い伝わる難関美女四天王の一人だからだー!」


 難関美女四天王──俺も噂だけは知っている。

 友出居高校には昔から可愛い子や美人が多く集まるという何とも素晴らしい都市伝説がある。

 これは友出居高校二不思議の一つらしい。いや、数少なっ。もう一個なんだよ。

 そんな選りすぐりの美女たちの中から、誰も落とすことができない難攻不落の人物──それが、難関美女四天王だ。


「ちなみに、生徒カイチョーもそのうちの1人だよ」

「不名誉でしかないけどね」


 の割には、氷水はまんざらでもなさそうだった。

 氷水沙希と金城花が俺たち二年の難関美女四天王だ。


「他には、三年の霧ヶ峰踊華きりがみね るか! 芸能人であまり学校にいないけど、めちゃめちゃ人気な人!」


 彼女についてはもちろん知っている。モデル、女優、歌手などマルチに活躍し、去年のCM出演本数では一位に輝いた今大人気の芸能人だ。

 滅多に学校に来ることはなく、むしろ何でこの学校に在籍したままなのかは不明だ。


「そして一年生の四天王は五十嵐芳穂いがらし かほ! なんか、グラマラスらしい!」


 こっちはあんまり知らないな。まだ入学して三ヶ月ほどにも関わらず、もう難関美女四天王に呼ばれるとはなかなかのものだろう。いつかお目にかかりたい。


「最後は雷久保響香らいくぼ きょうか先生だよ! ちなみにワタシのクラスの副担任〜!」


 ほぉ、なるほど。最後は教師枠で来たか。確かにそこを落とすのは生徒には至難の技だ。


「ってちょっと待って! 四天王なのに五人いたけど⁉︎」

「まぁまぁ、細かいことは置いといて〜」

「気にするわ!」

「さて、こっちからも難関美女四天王には同じ四天王で対抗したいけど……」

「私はやらないわよ。今回はあくまで審判としているから」

「ぶー、ワタシたちと同じ失恋更生委員会のメンバーなのに」

「名前だけでしょ」


 まぁ、氷水は断るだろうなと思った。

 俺の相手役は氷水かどうかという争いから始まってるわけだから、否定しているこちら側が氷水を出したら負けを認めているようなものになる。


 金城花はさっき見た感じだと、ギャルに近い、いやどちらかと言うとインヌタ女子か? とにかく圧倒的キラキラ女子、陽キャの人種だ。

 彼女を落とすのは不可能だとはいえど、彼女が誰かを落とすのは得意そうだ。


「だから七海くんを落とすためには別からアプローチをする必要があるんだよねー。そこで! ワタシたちの代表はういちゃんで行こうと思う!」

「へぇ⁉︎」


 ここまでずっと火炎寺の陰に隠れていたが、日向によって無理矢理光の世界に連れてこまれた。


「む、むむむ無理ですよぉ……! わたしなんかが、七海くんを、男の子を落とすなんて……」

「大丈夫だよういちゃん! 七海くんなんて壊れた蛇口ぐらいチョロいんだから!」


 その例えはよく分からんが、とりあえず馬鹿にされていることは分かった。


「それに、ワタシには作戦があるからね〜」


「ういちゃん、ちょっと耳貸してー」と、日向は初月に悪知恵を植え付けている。

 大丈夫かな……無理はしてほしくないけど。


   **


「待たせたな」


 定刻通り、士導たちがやって来た。

 別に来なくて良かったんだが。


「作戦会議は済んだかな? そのために敢えて時間を与えたのだから。まぁ無意味な結果に終わるのだろうがね」

「ふん! こっちは超超かわいいういちゃんが行くからね! 七海くんごときイチコロだよ!」

「そうだそうだ! ユウキならイチコロだ!」

「うっうぅ……ハードル上げないでくださいよぉ……」


 ギャラリーがうるせぇ。

 初月はもう顔が真っ赤になっていた。


「こちらからは金城花が行かせてもらおう」

「はーい! 頑張るよ〜。七海くんだっけ? よろしくー♪」


 と、金城は俺に向かってウインクをしてみせた。

 あ、ヤバい。可愛い。もう落ちそう。


「ちょっとー! それはズルいでしょー! まだ落と試合は始まってないぞー!」


 日向が文句を言っているが、落と試合ってなんだよ。


「それじゃあ、失恋更生委員会対PUREの落と試合を始めさせていただきます。審判は私、氷水沙希が務めます」


 だから落と試合ってなに⁉︎ 新しい単語を作り出すなよ!

 しかも、氷水も審判にノリノリになってるし⁉︎

 って、そうか。こいつ根はオタクだ。こういう特殊な組織同士の対決は燃え上がるのか。ちょっと目がキラキラしてるし。

 そういえば失恋更生委員会として初めて会った時も、校則に則って活動禁止にしただけで、最初から俺たちの存在を完全否定はしてなかったな。


「では、まずは先行。初月ユウキさんから」

「は、はい……!」


 初月は前に出てくると、ポ○キーが入った銀の袋を開けた。

 確か日向が食べてたやつだな。余っていたもう一袋を貰ったのだろう。

 ってことは、まさか……。


「な、七海くん……わたしと、その、ポ○キーゲームしませんか……?」


 やはりあの伝説のゲーム──ポ○キーゲームだと⁉︎ えぇい、○が付いてるせいかいやらしさが増してやがる!

 俺の心臓は高鳴っていた。日向たちが口笛やら太鼓やらで盛り上がっていたが、そんなことは気にならないくらいに心臓音がうるさかった。

 先程、この学校には美女や可愛い子が集まると言った。初月もべらぼうに可愛いに当てはまる人物だ。


 小さい口でチョコ側の方を咥えて、上目遣いで俺に反対側を差し出す。こちらを持ち手にするとは、なんて気遣いがいい子なんだろうか。

 俺がポ○キーを咥えると、その差約10㎝。初月は恥ずかしくなって目を瞑る。

 ゲームなのだから食べ進めて行くと、少しずつ唇の距離は近付いていく。

 バランスを崩さないように俺は初月の肩を両手で掴むと、ビクッと彼女は反応した。


 いいんだろうか……訳わかんないゲームに巻き込まれたとはいえ、こんなラッキーを享受していいんだろうか‼︎


「だめぇぇぇぇ‼︎」


 と、いきなり日向が目にも止まらない手刀でポ○キーを叩き割った。俺でなきゃ見逃しちゃうね。


「って、何やってんだよ‼︎」

「……はっ! な、七海くんが危険な顔してたからだよ! もうちょっとでういちゃんが襲われてた!」

「お前の仕込みだろーが」

「アピールなんだから、最後まで実行までしちゃだめだよ!」


 と、いうことで失恋更生委員会のターンは終わった。



「では、後攻。金城花さん前へ」

「はいはーい」


 金城花──難関美女四天王の一人。一体彼女はどんな攻めを……


「えい」


 ムニュッ


 ……ム、ムニュッ⁉︎ こ、これは⁉︎ お、おぉおおおぉぉおぉっぉっおおぉぉっっお──


「ちょっと⁉︎ それは駄目よ!」


 氷水がすぐに俺の手を掴んでいた金城の手を取る。


「は、花ちゃん……! ちょっと、それは聞いてなかったぞ⁉︎」

「じ、自分も、驚きました⁉︎」


 PURE側もこの作戦は知らなかったご様子。

 あの、堂々としていた士導でさえも狼狽えていて、心木にいたっては目がぐるぐるしていた。


「いやぁ、やっぱり男子だったら、これが一番かなって。布越しならセーフでしょ」

「「アウトだよ‼︎」」


   **


「──というわけで、金城さんのは不純異性交遊にあたりますので失格とします」

「えー。おかしいな、絶対勝つと思ったのに」

「ということで、この勝負は初月さんの──」

「待ちたまえ!」


 勝敗が決するかと思った瞬間、士導が待ったをかける。


「確かにこちらは度が超えたアピールにより失格かもしれない。だが、そちらもキス一歩手前まで行ったんだ。同じく不純異性交遊にあたるのではないか?」

「え〜ならないよ! ねぇ生徒カイチョー!」

「そうね、基準は人それぞれかもしれないけど、実際にキスしたわけではないし……」

「納得できない! キスだぞ⁉︎ もし、キスしてしまったら……その、子供ができていたかもしれないんだぞ⁉︎」


 ………………?


 ん? こいつは何言っているんだ? と士導以外全員が思ったであろう。

 さてはこいつ…………? あんなに偉そうにしてるのに、小学生みたいな純粋さだな!


土神つちがみさん」

「なんだ。って、ボクは士導だ!」


 こいつの本名は土神って言うのか。


「子供はセックスでできるのよ」


 ……おぉい! 氷水は何言ってんだ‼︎

 お前が一番不埒なこと言ってんぞ⁉︎

 女子はみんな顔赤くしてるし、俺もだけど‼︎


「せ……え、なんだそれは?」

「あー、ごめんね! 今日は引き分けってことにしてくれない⁉︎ 明日もほら、別の人が七海くんを落とすって感じで! それじゃあね! バイバーイ‼︎」


 金城は士導、改め土神を連れて本部から急速に出て行った。

 心木もその後をついて行くが、扉に一回衝突してからもう一度追いかけて行った。


「ひ、引き分けか……! まぁ、何回来てもワタシたちが返り討ちにしてあげるよ! 次はあゆゆね!」

「え、アタシ?」


 氷水のセックス発言により、なんか勝負がうやむやになってしまった。

 俺をどっちが落とすか対決は翌日に持ち越されるのであった。


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