Case.37 勝負を仕掛けられた場合


 俺と氷水をカップルにする……⁉︎ 

 こ、こいつら何を言ってんだ⁉︎


「君達の相性は非常に良いのさ。星座占いに誕生日占い。血液型占いまで全ての占いの相性がいいんだよ」

「確証めいたものが何もねぇ!」

「そして、なにより君達は幼馴染だ! 古来より、幼少期から共に育った男女は結ばれる運命さだめだと決まっているんだ!」


 どうしよう、すごいフワッとしてるな。

 なんかこいつらの考えが浅すぎて、俺も氷水も呆れていた。よく、それで自信満々に語れるな。


「だから、君達は付き合うべきだ! ボクたちがその後押しをしようというわけだ!」

「いや、あのさ──」

「それはダメ‼︎」


 言葉を遮るようにして、なぜか強く反対したのは日向だった。後ろにいたのにいつの間にか俺と氷水の間に並んで立つ。


「ワタシは失恋更生委員会の委員長! 日向日向! 七海くんに彼女を作るのは断固拒否する!」

「どうしてかな?」

「そ、そんなの……七海くんにもし恋人ができたら、ぜーったい浮かれて、調子に乗るからに決まってるじゃん‼︎」


 別に調子に乗っていいだろ! 幸せだったら構わねぇだろ!


「それに七海くんに彼女がいるとか似合わないし、いたらワタシたちと遊んでくれなくなるじゃんか!」

「ワガママか‼︎」


 とうとう口から言葉でツッコんでしまった。

 とんだワガママガールだ。つーか、遊び相手って、失恋更生委員会の活動をしろよ。


「……まぁ、日向が言ってんのとは少しズレるけど、別に今はすぐに彼女が欲しいとは思ってないんだ。こいつには付き合ってられないし。悪いけど、相手は自分で決めさせてもらうよ」

「七海くん……そろそろワタシのこと委員長って呼んでくれてもいいんじゃない?」

「七海、しれっと私に失礼じゃないそれ?」


 横からすげぇ言われるんだけど。勢いを止めさせないでくれ。ちょっとカッコいいこと言ったかなって思った自分が恥ずかしくなるだろ。

 日向はむくれるし、氷水は少し苛立ってるし。


 すると、聞いていた士導が溜息をつくと……声を大きく荒げだした!


「君達は愚かだ! そんな恋愛に発展しない関係性を築くなど時間の無駄だ! 人類の幸福とは、男女が結ばれて家庭を築くことだ。昨今の晩婚化、非恋愛の蔓延により少子化の一途を日本は辿っている! このまま若手が失われれば、この国は衰退していく一方だ。それを自覚しているのか!」


 な、なんと前時代な考え方だこいつ……。政治家が言ったら一発炎上物だぞ。

 しかもどうやら本気でそう思い込んでるくさい。


「いや、知らんし」


 と、火炎寺が俺たちの気持ちを代弁すると、「これだから今の若者は」ばりの口癖を士導は放つ。


「あーあ、士導様を怒らせた~」

「士導様は多くのカップルを作り出すことに成功している。みんなの幸せを考えている素晴らしいお方なのに、理解ができないんですね」


 取り巻き二人がそう話す。士導ってやつのことを深く心酔しているようだ。


「ん? ちょっと待って。もしかして、カップルを作ったのって無理矢理したことなの?」


 日向が一歩前に出る。


「その表現には些か疑問だが、まぁ、その通りだ。これも大義のための小さな一歩でしかない」

「それって本人が望んでないってこと?」

「あぁ。ボクたちが誘導している。君はこの子と付き合うべき、付き合うことができるとアドバイスをしてね」

「そんな、誰かに作られた恋なんて……そんなの、恋愛じゃないよ!」

「やれやれ、ボクたちは最大限の配慮として、相性や好みを参照しているさ。いいではないか。男も女も、結局は本能で生きている生物だ。イケメンや美女、嗜好や思考が同じであれば、誰だっていいのさ。選り好みをしているから幸せになれないんだ」

「そんなことない! 幸せなんてそれだけじゃないよ!」

「なら君達は幸せにしていると言うのか? 失恋更生というふざけたことを抜かしている。人は傷付くくらいなら幸せでありたいものだ。現にカップル成立した人達からは感謝されている。ボクたちは何か間違っているとでも言うのか?」

「間違ってはないと思うよ……。たしかにみんな傷つきたくないもん。失恋だってしたくないよ」

「では──」

「でも、それも恋愛なんだよ。悩んで、苦しんで、ぶつかって、泣いて……独りになって。けど、誰かが勝手に敷いたレールへと導くんじゃなくて、背中を押してあげることが大事なんだよ!」


 珍しく日向が怒っている。そんな気がした。

 お互いに譲らない。自分の信念を信じているのだ。

 論争のポイントは様々あるが、まとめれば恋愛観についてだろう。


「やはり君達は恋愛とはなんたるかを何一つとして理解できていないようだ」

「それはこっちのセリフだよ! ワタシたちの方が恋愛について分かってるもん!」

「ふっ、ならどちらが正しいか勝負で決めようじゃないか」

「むむむ……! わかった! 勝負だね。受けて立つ!」


 えっと……なんかこの二人だけが盛り上がって、全然他の人が喋れていないんだが……。

 まぁ、三人以上いる場合での同時会話は基本二人がメインで話して、他はちょいちょい参加するってのが多いからな。


「では、その男が生徒会長と付き合ったらボクたちの勝ち。そうでなければ、そちらの勝ちとしよう」

「乗った‼︎」

「「いや、ちょっと待て‼︎」」


 今、参加させてもらおう。勝手に話を進めるな!

 それは氷水も同じことを思ったので、同時に切り出した。


「私たちを勝手に賭けの対象にしないで。そもそもその勝負であれば日向さん側の勝利確定で不公平よ。七海が恋人とか本当にありえないから」

「そうだぞ。……おい、何気に失礼だろそれ」

「さっき七海も同じことしたでしょ」


 しれっと復讐されてしまった。


「え……失恋更生委員会の勝利確定……? 馬鹿な! ボクたちは見ていて確信したぞ! 君達が別れたのは失恋更生委員会の宣伝のためであって、本当は好き合っているのだろ! そうだろ!」

「いや、違うから」


 氷水は無感情で否定した。後、なんかダメ押しに俺もフラれてる。


「うぐっ……! これでは、ボクたちが勝利して失恋更生委員会を潰す作戦が……!」

「潰すだって〜! なんて悪い奴らなんだ!」


 やはりそうだったか。道理で話がとんとん拍子に進んでいたわけだ。

 勝てる勝負をふっかけて、俺たちを敗北に導くつもりだったのだろう。日向は単純だし、まんまと罠に掛かったわけだ。まぁ、敗北確定なのはPUREの方だったが。

 とりあえずこの勝負では成り立たないことから、他に何で戦うのか決めあぐねている二人。

 って、戦うのかよ。


 すると、ここまでの経緯いきさつを黙って見ていた金城が前に出てきて提案する。


「どっちが恋愛に詳しいかで競うんだよね?」

「あぁ、そうだ」

「ふーん……じゃあさ、ここにいる男は一人だけなんだし。どっちが落とせるかで勝負したらいいんじゃない?」

「……はい?」

「両チームから代表一人が出て〜、それでー確か七海だっけ? を、よりトゥンクさせたら勝ちにしたらいいじゃん!」


 金城はナイスアイディア~と自分の提案に自負していた。


「いやいやちょっと待て! え、何で俺が使われるの⁉︎」

「……ふむ、まぁいいだろう。確かに男心くすぐる要素を持つ方が恋愛に詳しいかどうか測れる、一つの要素になりうるな」

「ならねぇよ!」

「七海くんを落とすのなんて九九ぐらい簡単だよ! いいよそのルールで!」


 各代表が同意かつ参加表明を見せる。

 俺がそんなにチョロいと思ってるのかお前らは! あと日向はほんとに九九できんのか⁉︎


「そうね……七海をよく知っている失恋更生委員会の方が一見有利に見えるけども、知り合いだからこそトキメキさせにくい不利な点はある。それに対して、PUREは情報は少ないけど不意打ちができる利点があるわね」

「氷水はなんで分析してんだよ! さっきまで反対してただろ!」

「いや、私は賭けの対象から外れたわけだし別にもういいかなって」


 ひどっ⁉︎ 幼馴染を簡単に見捨てやがった!


「では三十分後。そちらの本部に改めて伺わせていただこう。勝負は早く決した方がいいだろう。それでは」


 PUREの三人組は去って行った。

 その後ろ姿を日向は小学生みたいに、あかんべぇで見送った。


「ううう、絶対に負けられないよ! ういちゃん! あゆゆ! ワタシたちの威信にかけてこの勝負、絶対勝つよ!」

「「おー‼︎」」「お、おぉ……」


 ……というわけで、この物語は失恋更生委員会vsPUREによる、どっちが俺を落とせるか勝負へと展開していくことになる。


 ……どうしてこうなった。


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