Case.36 閑古鳥が鳴いている場合
「これは由々しき事態だよ……!」
本部にて。ポ○キーを煙草のように見立てて咥える日向は唸っていた。
「どうして誰も相談しに来ないのー‼︎」
閑古鳥が騒いでいた。
昨日の今日でいきなり依頼人、および失恋者が来るとは思えないが、日向の妄想では今頃行列ができていたらしい。
後ろのスペースでは初月と火炎寺がトランプで遊んでいるし、俺は割り当てられた席でネットサーフィンをしていた。
「待っても来ないなら、いつものように失恋臭を探して学内探検でも行ってきたらどうだ」
「もう行ったよ! けど、ぜーんぜん匂わないんだよねー。それよりもなんかみんな文化祭で告白成功してたり、イチャイチャばっかりしてるんだよ!」
日向の言うとおり、学内のカップル率が一気に高まった気がする。
まぁ、幸せな人が多いのは良いんだろうが、うちの委員長はそうは思わない。失恋更生したいのにそもそも失恋がないというフラストレーションが溜まり、珍しくイライラしていた。いや、ムカムカの方が表現はふさわしいか?
「まぁ、いずれにせよ、カップルが多いなら今後別れる数も多いというわけだ。気長に待てよ」
「うぅ、待てないよ~。早く浮気でもなんでもしないかな~……はっ!」
「しねぇよ?」
ある時に言っていた彼女を寝取ればいいじゃん的な目線を俺に向けるが、もちろんそんなことしないし、できない。
悪魔的考えの日向は机に突っ伏して拗ねた。
「……そういえば、カップルが増えたのは恋愛成就の噂が広がったかららしいですよ」
火炎寺に全敗していた初月がそう話を切り出した。
「恋愛成就の噂? って、どんなものだ?」
「たしか……後夜祭のキャンプファイヤーで好きな男子の影を踏みながら告白すると成功するって……昔からそう言い伝えがあると友達から聞きました」
そんな噂があったのか。準備期間は死に物狂いで忙しかったし、本番も色々あったから知らなかったな。
「あーそういえばワタシも同じようなの聞いたかも〜。でも、たしか男子が炎を背に告白すると上手くいくだった気がする。こう、炎の神様の力がブワァーって得られる伝説があるんだって!」
「なんだ、そのファンタジー」
ただ男女それぞれに恋のおまじないの噂が広がっていたらしい。
それで告白成功者が増えたってことか。
「うーん、ならアタシもそこで告白してたら成功してたのかなー」
火炎寺は既に失恋更生をしている。今はもう再び告白して成功させるため、前に歩み続けている。
「な、なら今度何か燃やしましょう……!」
と、初月が何やら物騒なことを提案したが、そういうことじゃないだろ。段々と日向に影響されてきているな。
すると扉をノック──「来た‼︎」
圧倒的な反射神経で日向は反応し、扉を開けに行く。
「きっと好きな人が文化祭で別の人とくっついたから失恋更生したいという依頼だよ!」
「七海いる?」
「また生徒カイチョーじゃん‼︎」
氷水だった。
本当に何回来るんだよ。もう立派な失恋更生委員会のメンバーじゃねぇか。
「って、俺? な、なんだよ……」
「なんでそんなに警戒してんの」
「いや、お前が俺を呼びに来るなんてもう補給しか考えられないだろ」
「違うわよ。もう学校ではしないって言ったでしょ。……たぶん」
多分ってか⁉︎ 約束は守れよ⁉︎
「じゃあ用件はなんだよ」
「あぁ、それは──」
「やいやい生徒カイチョー。生徒カイチョーがワタシたちの活動の邪魔をしてるんでしょ!」
「はぁ? 何の話よ?」
「とぼけたって無駄だよ! キャンプファイヤーでのおまじないの噂を流したのは生徒カイチョーでしょ!」
日向は自分たちの邪魔をしているのは、氷水だと疑っていたらしい。
ただ氷水は何のことか全く分かっていない。とりあえず一から状況を説明した。
「──なるほどね。確かに私もその噂は聞いたことあるわ。だけど、私じゃないわよ。そもそもキャンプファイヤーは私が今年から始めたのよ。言い伝えや伝説があるわけないじゃない」
そういえばそうだったな。キャンプファイヤーは氷水のワガママで始まったものだ。
「まぁ、私としても盛り上がる一因になると思ったから特に口出しはしなかったけどね」
日向は「そっかー」と口を尖らせていた。
客足を奪うことになった噂を流した人物を突き止められそうになく、不満そうであった。
「って、そうじゃなくて七海行くわよ」
「行くって……え、どこに?」
「校舎裏。なんか分かんないけど、私と七海が呼ばれてるのよ」
「呼ばれてるって、誰に?」
「さぁ……?」
**
『十六時、七海周一と共に校舎裏に訪れてほしい』
と、生徒会室に手紙が届けられた。
差出人は不明。手紙の内容以外で分かる情報はなかった。
イタズラか? それとも別れたことを実は疑っている非リアが何か報復をしようとしてるのか? そもそも付き合ってもないが。
とにかく行ってみることにした。学内であるし、危険なことはまぁないだろう。
「──で、何でお前らまで付いてきてんだ」
「だって暇なんだもーん」
日向、初月、火炎寺もみんな校舎裏まで付いてきた。この間に依頼人来たらどうすんだよ。
とりあえず定刻に指定場所まで来てみたはいいものの、誰もいない。
結局イタズラだったのか。よく分からないまま本部に引き返そうとした時、
「待っていたよ」
突如として、茂みから三人組が現れる。
「誰だお前らはー!」
日向がノリノリで反応すると、自己紹介を始める。
てか、何で茂みに隠れていた。
「氷水沙希、七海周一。そして、失恋更生委員会のみなさん。こんにちは」
三人組の真ん中にいるのは、スラッとした体型で髪色は茶色。中性的な顔立ちだが、ズボンも穿いているから男であろう。話し方がキザっぽく、なんだかいけ好かない奴だ。
「うぇ? ワタシたちのことも待ってたの?」
「ああ、その通りさ。最初から五人とも招待するつもりだった。だが、直接呼ぶと警戒されると思ったからね。氷水生徒会長を利用し、茂みから様子を伺わせてもらった」
警戒、というが別に俺らは考えなしにホイホイと行きそうだけどな。
「それで私たちに何のようですか、つち──」
「んっん! ではまずボクたちの自己紹介をさせていただこう! ボクは
「じゃあ、次はあたしの自己紹介かな〜。あたしは
金髪サイドテールの彼女は、氷水や火炎寺と闘えるくらいには、とてもプロポーションがいい女子生徒であった。
そして、俺は彼女の名前や姿は知っていた。
なぜなら金城は学年でも随一の美女と名高いからだ。明るい性格で友達も非常に多く、彼女を好きになった男は数知れず。
俺は話すこともなく、クラスが全然違うからすれ違うことも少なかったが、もし俺がいたクラスが違えば、告白相手は雲名ではなく彼女だったかもしれない。
そして、三人組最後の女子も俺は知っていた。
「自分は
同じクラスメイトだ。
以前、文化祭実行委員を決める際、もう少しで選ばれかけていたあの子だ。
少し癖っけのある髪が胸ほどまである心木は、日向や初月と身長は大して変わらない。金城と対して地味目な女の子だったはず。
なのに、この三人はどういう巡る合わせでつるんでいるんだ?
「ボクたちは生徒が純潔な恋愛ができるよう応援する組織──
Promote──Urge──Rooting──Encourage──
通称
「おぉっ……! なんかそれカッコいい!」
日向は相手の口上にご満悦のようだった。
和訳すると、促進して、促して、応援して、励ます。めちゃくちゃ応援しまくるってのは分かった。
「てか、敵ってどういうことだ?」
「それはボクたちの活動が君達と対をなしているからさ。ボクたちは純粋な愛を芽生えさせるために相性の良いカップルが生まれるよう導いているのさ」
「じゃあ、最近カップル多いのって……」
「そう、ボクたちPUREの活動の賜物さ」
「じゃあ本当に敵じゃん!」
日向はプンプン怒った。
自分たちの活動を邪魔する組織が堂々と目の前に現れたわけだ。
「俺たちの敵、っていう立場は分かった。それで、結局俺たちに何のようがあるんだよ」
「ふふっ、ボクたちの目的は一つだけ。それは七海周一と氷水沙希。君たちにはカップルになってもらう!」
「「「……はぁ⁉︎」」」
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