Case.14 女の子と一晩過ごした場合


「わー、これ七海くんですか? かわいいですね~」

「でしょぉ? 今ではあんな残念な感じになってるけど。誰よりも人のことを考えていて、優しい子なのよ」

「はい! それはワタシも思います!」


「──なに家族総出で俺の部屋漁ってんの⁉︎」


 すぐに風呂から飛び出した俺は、急いで服を着て、自分の部屋へと駆け込んだ。


「あらやだ。日向ちゃんも家族扱いだわ」

「わーお、七海くん大胆なプロポーズだね〜」


 うるせぇ! なんで今日だけで親の前で二度プロポーズしないといけないんだよ!


「ま、冗談はさておき」


 冗談で済ますな母親よ。


「周一の部屋に日向ちゃん用のお布団敷いておいたから」


「「えぇ⁉」」


「姉ちゃんの部屋とかリビングじゃなくて⁉︎」

「なに言ってんの! 日向ちゃんを一人寂しく寝かせる気! お泊まりするからには怪談でしょ。枕投げでしょ。恋愛話でしょ!」

「修学旅行かよ」

「それとうちらはホテル取ったから後は二人でごゆっくり〜」

「はぁ⁉︎ 本当に取ってんの⁉︎」

「年子。一緒に枕投げしよーねー」

「ねー」

「「はっはっはっ〜」」と笑いながら、両親は速攻で家から出て行った。


 なにこの急展開⁉︎ どこのラブコメ⁉


「わー、ほんとに二人きりになっちゃったね、七海くん。さてさてーなにしてくるのかなー?」

「何もしねぇよ。するわけないだろ。とっとと寝るぞ」

「いやいや寝ちゃダメでしょ。ういちゃん取り残されてるのに」


 ……そうだったぁぁ‼︎ ボケまくる両親のせいですっかり忘れてたぁぁ!

 急ぎ、RINEを確認すると、あぁめっちゃ通知溜まってる……すまん。本当にすまん。


「うーん、とりあえずまだバレてないかな? けどこの感じ、充電切れたのかな」


 時間は午後九時を過ぎたところ。

 日向が家に来てから数時間叫び続けた気がする……。


「ねぇねぇ七海くんってさ」


 俺の名前を呼びながら、迫る日向……ちょ、顔近っ! 

 それに風呂上がりだからか凄いいい匂いするし……もしかして、なにかされるのは俺の方なの⁉︎


「スマブラって持ってるのー⁉︎」

「……は?」

「スマブラ! 大乱戦スマイルブラザーズ! 七海くんの部屋にテレビとシュワッチがあるもん! 一緒にやろーよ!」

「あ、うん」


 小さい頃から暇つぶしとしてずっと遊んでいたゲーム。PC、スマホ、コンシューマーにアーケードゲームと人生で一番お金を使ったのはゲームである。

 といっても重課金者というわけではなく、ただ他の趣味もなかったからゲームをしてただけ。ストーリークリアぐらいするが、裏ボス倒したりフルコンプは目指したりはしない。


「七海くん追加コンテンツのキャラいないじゃん! ワタシはショーカー使うのにー」


 久しく触れていなかったため、それらは入れてはいない。


「よし! 課金しよ! 今すぐ課金しよ! プリペイドを今すぐ買ってくるんだー!」

「なんでだよ!」


 だが、その後いい感じに言いくるめられてコンビニまでダッシュで買いに行くことになった。

 ──すまん……初月さん……。俺たち夜通しゲームすることになったわ。あの阿呆のせいで……!


 購入後、俺と日向はベッドを背もたれに白熱した戦いが繰り広げていた。

 熱中し過ぎて初月のことはつい忘れてしまっていた。さっきの謝罪はどこ行った。


「お前意外と強いな!」

「まぁ昔からやってたからねー。そういう七海くんこそ弱いんじゃない? やっぱり友達いなかったから相手がいなかったのかな??」

「うるせぇ!」


 そういや、今思い返せばテスト期間中なんだよな。典型的なダメ学生じゃん。


 その後、何戦したのかは覚えていないけど、深夜二時をまわった頃だった。


「そろそろ寝るか。初月さんからも氷水からも連絡はないから捕まってないとして……まだ隠れたままか……。まぁ明日何とかして迎えに──」


 トン、と軽いなにかが肩に寄りかかった。

 日向だ。彼女は寝落ちしてしまい、俺の肩に寄りかかったわけだ。


 ──なんだこのラブコメ展開は……⁉︎ 


 いい匂いするは、ああ、言ったなそれは。

 軽いんだけど、重心は全て俺に寄りかかっているから、少しでも動けば崩れ落ちてしまいそうだ。別に見捨てて動けばいいってのに、てか起こせばいいのに、それらの選択肢をなぜか俺は選ばなかった。

 きっと、長年憧れていたシチュエーションを捨てるには惜しいと思ったからだ。


「くっ……⁉」


 日向の方に目線を向ければ、服の隙間から胸の谷間が見えてしまう。あぁ、意外とこいつ胸あるんだなぁ……とか思ってる場合じゃなく‼︎


「んん……」


 日向の寝息がまるで誘っているかのようだ……けどもこんなやつに俺が落ちてたまるか! 発情してやるものか‼︎ そうこう抗っているうちに──



   ◇ ◇ ◇



 ──気付けば朝になっていた。


 結局二人ともほぼ同時に寝落ちしてしまったのだろう。

 どちらもこの状況にツッコんでいないわけだし。

 だから、どうして、どうやって、どういうわけで──ワタシは七海くんに抱かれているのかな⁉︎

 七海くんめっちゃぐっすり眠っちゃってるし‼︎ 幸せそうな顔してるし! ここフローリングで床固いよ⁉︎ せめてお布団まで移動しておきたかったよ!


 ……七海くんがワタシを抱き枕にして寝たのかな? それこそ弱みを握るとしてはいいけど……ワタシも起きた時、七海くんに抱きついていたんだよなぁ……。

 うーん、左腕が七海くんの下敷きになってるから抜けないし……。困ったなぁ、これじゃワタシも抱きついてたって思われちゃうよ。


「────ガッ⁉︎ ……あ?」


 七海くん起きた⁉︎ 寝たふりしよ──


「……え、こ、これはどういう状況だ……?」


 ふっふっふっ、驚いてる驚いてる。照れてる照れてる。ワタシと同じようなリアクションだねぇ! 

 これをネタに揺すりますか……!


「ふわぁ……おはよ七海くん。あれ? なんでそんなに近いの? そしてなんで抱きついているのかなー?」

「はっ⁉︎ いや、ね、寝相だろ⁉︎」

「都合のいい言い訳だなー。幸せそうな寝顔だったよ〜」

「んなわけ──って、なんで俺の寝顔分かんだよ。日向も起きてたんじゃねぇの?」


 ……迂闊だった! 寝起きは頭が働かないなぁ……!


「へぇ⁉︎ いや、七海くんを煽るためには先に起きてても寝たふりしないとだからね……てか、いつまで抱きついてんの!」

「ぐぇ⁉︎」


 ワタシはあいていた右手で七海くんの顔を押しのける。

 もう! 七海くん相手に隙を見せてたよ。危ないなーもうー!


「さっ、さぁ! ういちゃんを助けに行かないとね! もー、きっとういちゃんは助けを求めてるからね!」

「いてて、そうだな。確かあいつは毎朝ジョギングしてるし、もしかしたら初月さんが出てこれるかもしれない」

「わーおストイック〜」

「あいつはそういう奴だ。ったく、首いてぇし」


 自称イケメンのポーズみたく首を押さえて、本当に痛がってる。

 ごめんね。口では言わないけど。


「じゃあ、さっさと着替えていこ!」

「ちょ、お、おい⁉︎」


 ワタシは七海くんがいても気にせず着替える。

 ま、下着くらいどうってことないよ! 恥ずかしくないし、ついでに「七海くんはムッツリスケベさんだねー」って煽ってやる!


「おやおや〜七海くん照れてるのかな〜? 下着如きで照れるなんて七海くんったら可愛いなぁ〜」

「そ、それは今の姿を見ても言えんのかよ……!」

「ん?」


 ワタシは腕を上げっぱなしにしながら、下を見る。


 スポーン


 下着……付けてなくない⁉︎


「んんんん⁉︎ あ、ぶ、ブラジャーは、夜は付けない派だから、だから……えっと……さすがに恥ずかしいかな……?」


 七海くんは気を遣って、こっちを見ずに何も喋らないし。ワタシは急いで借りてたパジャマから制服に着替える。



「じゃ、じゃあ、迎えに行こぉ……! レッツゴォォ!」


 ワタシがすぐに飛び出すと、七海くんも黙って付いてきてくれる。

 とりあえず勢いで誤魔化したけど、顔赤くなったのバレてないよね? バレてなきゃいいなぁ……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る