Case.13 女の子が家に泊まる場合
「ここが七海くんの家か〜」
「いいか。大人しくしとけよ。初月さんが出てこれたらすぐに帰すからな」
ただ答えが出ているとおり、それは翌朝のこととなる。
「そだねー。でもいつ脱出するか分かんないよね。もしかしたら泊まったりしてー」
「そうだな。結構長期戦に……ん? なんて?」
「え? 今日七海くんの家に泊まるよ」
事項を確定させるなよ!
男の家に泊まることに躊躇とかないのか。何気ない顔で言いやがって。
「さ、夜通しゲームだー!」
最初から泊まる気満々か⁉︎ 明日も学校あるだろ!
「待て待て待て! 今からでも全然帰れるだろ! 大人しく家に帰れよ!」
「ワタシは失恋更生委員会の委員長だよ! ういちゃんを見捨てて帰れないよ!」
「さっき普通に置いてったじゃねぇか! 初月さんは俺が何とかするから。それに、そもそも俺の家にいきなり泊まるなんて親が許さないかもしれないから!」
「じゃあ今すぐにアポ取ろう、そうしよう」
「いや……それは……」
**
「お泊まりやって〜? ……もちろん、オッケーに決まっとるやーん!」
絶対、許可すると思ったんだよ……。
「日向日向です! 周一くんにはいつもお世話になったり、お世話してます! よろしくお願いします!」
後ろで待機していた日向は、自ら挨拶をしながら現れる。
「……お父さん……お父さんんんんん‼︎‼︎ 大変だわぁ! 周一がこんな可愛い子を連れて帰ってきたわ!」
「なんだとぉ⁉︎ とうとう周一にもできたか!」
「だぁぁ!」
「七海くん七海くん、どうして自分に闘魂注入したの?」
「だから、嫌だったんだよ! うちの両親はこういうの空気読まずに突っかかってくるから!」
俺の両親、
父である月彦は空気を読まずパーソナルスペースにズカズカと入ってくる。頭頂部の寂しさは、俺も将来こうなるのかと不安になる。
母の年子もテンプレートな関西のおばちゃんらしく、ズケズケと遠慮せずに息子である俺の部屋へと入ってくる。毛量多めなので俺の将来まだ希望は持てる。
こいつら……マジで親子であっても侵入してはいけない壁をもろともせずに、進撃してくるからな。
俺が高校デビューした時も、「あんた茶色全然似合ってへんな!」って一蹴されたし、部屋からエロ本見つかった時は「そうかそうか! お前の性癖はそれか! お父さんも同じだぞ!」と、大声で同じ本を出してきた時はマジでビビった。近所で噂されるてんだぞ、やめろよ!
「
「ちょ、お、オカン! やめろよ!」
「あぁ? オカンってなんやぁ? いっつもママって呼んでるくせに」
「やめろぉぉおお‼︎」
「えぇ七海くん。お母さんのことをママって呼んでるんだ〜」
ぐぬぬぬぬ……! またもや弱みを握られたぁ……!
余計なことを言わせないようにしなければ!
それだけじゃない。日向からも余計なこと言わせないようにしないと!
「
「やめろ! なんもねぇよ!」
年頃の女子にそういうこと聞くな‼︎ セクハラ親父め‼︎
「まー、たしかに七海くんの言うとおり何もないですねー。けど、今晩は泊まるかもなので! もしかしたら何かされるかもしれません!」
「まぁ!」「なんと!」
「お父さん! 赤飯よ! 赤飯を炊かへんと!」
「よぉし! 周一のためにパパが薬局であれを買いに行ってやろう! お父さんオススメのがあるんだ!」
「一旦落ち着けよ‼︎」
まだ玄関先だぞ! これが一晩中ずっと続くの⁉︎
「周一、安心しなさい。希望するならお父さんたち今日は家から出て行くから」
「ねぇねぇお父さん、私駅前のホテルにずっと泊まってみたかったのよ〜」
「それはいい! 今すぐ予約しよう!」
「いやいいからそんな気遣い! いてくれた方が助かるから!」
「おとうさん、おかあさん。周一くんはどうやらワタシを襲うので止めて欲しいそうです」
「そういうわけじゃねぇガッ⁉︎」
いつの間にか母は俺の背中にまわっており、チョークスリーパーをかけてくる!
「安心して日向ちゃん! 私がこうして周一を封じておくわ! 今のうちに卒業アルバムを見るのよ!」
息子の弱み図鑑を相手に軽々と見せるな!
「日向くん。その、もう一回お義父さんと呼んでもらっていいかな」
うぉい! お前は性癖を見せるな‼︎
そんなこんなで、やはり注意すべきは日向ではなく、両親であったと改めて思った。
つーか、あの日向ですら少し押されてたぞ。
**
「日向ちゃんごめんねぇ〜騒がしくて」
お前だよ一番うるさいのは。
「もっと早く連絡くれれば豪華なものをお出ししたのに。ったく、周一ったら大事なことはいっつも連絡してこーへんねんから。さ、食べて食べて!」
本日の夜ご飯は米、味噌汁、それに野菜炒めと煮物。全体的に茶色だが、まぁこれで育ってるから味は美味しいものだ。
「んー! おいしー!」
日向も気に入ってくれたようで、俺と同じくらいの量は食べていた。
「ほんと可愛いわ〜日向ちゃん」
「いえいえおかあさまの方こそ美しいですよ」
「できる! この子できるわ! ほんと周一も見習いーや。こいつ、五つ上の姉と違って出来損ないだから〜」
息子のことをこいつって言った?? それは日本人らしい謙虚さではなく、ただのディスりだからなぁ⁉︎
「へー、七海くんってお姉さんいたんだ」
「ん、まぁ。五つも離れてるからそんなに仲良かったわけじゃないけど」
「逆に年齢近い方が仲悪いイメージがあるけどなー」
「別に仲悪いわけじゃねぇよ。仲良くはないってだけだ」
お互い好きとか嫌いとかはない。ただ無関心なだけだ。
現在、姉は大学の近くに下宿しているからほとんど顔を合わせない。どの学部に行っているかは大学四年生となった今でも知らない。
「そうだなぁ。お父さんとお母さんは娘の方ばかり可愛がってたからな。息子のお前にはあまり構ってられなかった」
「おいそれ子供前にして言うことか⁉︎ 泣くぞ!」
「だからこうして今は大いに祝福してるのだ! 凄いぞ周一! やったな周一!」
「やめろ!」
**
騒がしい食事後、定時で帰っていた父が洗って溜めていたという風呂に日向が入ることに。
風呂に入るとか、本当に泊まる気なんだな……。
女子どころか家に誰か泊めること自体初めてなんだが。
こういう時どうすればいいか分かんないな……。てか、何かを忘れているような……怒涛のボケのせいで記憶が……
「周一」
ふと、父が俺の名前を呼ぶ。
「なんだよ」
「改めて聞くが、日向くんとはどういう関係性なのかな?」
「どういうって、ただの部活仲間だよ」
「なんや周一。部活なんて入ってたか?」
当然、失恋更生委員会のことについては何も言ってないわけで。
適当にボランティア委員会と言っておいた。まぁ、大きく間違ってるわけではないからな。
「そうか。ボランティア委員会の子なんだな。それで、周一は日向くんとこれなのか?」
小指を突き出す父親。当然否定する。
「周一が、あんな可愛い子と巡り会うなんて、沙希ちゃん以外ないと思ってたけど、いつのまにか大人になって……!」
「だから違うって! 別にそういう関係じゃないし、そういうことも思ってねぇから!」
「覗きなさい」
「は?」
「今、お風呂回だよ。周一、日向くんの風呂を覗きなさい‼︎」
「何言ってんの⁉︎」
「いいよな母さん」
「ええ、もちろん」
「両親二人して何言ってんだ! 普通に犯罪だろ!」
「何を言うか周一。しずかちゃんだってのび太くんによくお風呂を覗かれているじゃないか! それと同じようなものだよ、なぁ母さん」
「そうね、四十年以上続く伝統芸よ」
「それが現代ではアウトなんだよ! 価値観をアップデートしろよ!」
とんでもない親だ、子供に罪を負わせるつもりか!
ただ安心したことに警察が呼ばれることはなかった。
「お風呂ありがとうございましたー!」と、パジャマ姿になった日向がかなり早めに出てきた。ま、普通は人の家で長風呂するものではないよな。
ちなみにパジャマは家に残されている姉の中学生ぐらいの時のものを貸した。
「日向ちゃん、ありがとね。この子馬鹿だから迷惑かけてるでしょ。前も問題起こしたかなんかで停学してたのよ~」
それは日向もなんだけどな。
「七海くんは旗持ちという役割を見事に果たしてますよ!」
「旗持ちかー。おぉ、よく分からんがやったな周一!」
「やったね周一!」
「うるせぇよ」
旗持ちの役割なんてただ旗を持って宣伝するだけだよ。
あとあれか? 旗で殴って止めたりすることも含まれるか。ただの暴行だけど。
とりあえず両親にお前も風呂に入るように言われたので、俺も続いてお風呂へ……別に「グヘヘ、おなごの残り湯だぁー! とかは思ってないし」
「なんだー、思ってないのかー。残念。意外とそこは紳士なんだね七海くん」
「俺の心を勝手に読むな!」
「えー、口に出てたよ」
思ってたことをついポロリと言う癖でもあるのか俺は……。
風呂に浸かっていたところをドア開けて入ってきた日向。
「つーか、お前が風呂を覗くのかよ!」
入浴剤のお陰で大事なとこは見られてはいない。ポロリはないぞ!
「日向ちゃーん。周一の部屋に案内するわー。風呂から上がる前に決着つけるわよ」
「はーい!」
「やめろ‼︎」
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