二章 初月ユウキ
Case.3 既に失恋している場合
──わたしには好きな人がいます。
相手は同じクラスの
二年続けて同じクラスで出席番号も前後で続いています。
だから自然と話す──なんてことは、わたしにはできないけど、雨宮くんから優しく何度も話しかけてくれました。
そんな彼を好きになったのは、一年秋の体育祭でのこと。
わたしはクラス対抗女子リレーの、しかもアンカーになってしまった。
本当は障害物競走みたいなあまりポイントにもならなくて、運動神経に左右されないような競技が良かった。
けれども、残り一人の枠を誰も参加することを嫌がったので、仕方なくしたジャンケンに負けて、わたしが担当することになりました。
わたしがアンカーなのは、最初に他と差をつけて逃げ切る作戦だった。他三人が陸上部などで学年でも足が速い方。
──目論見通り、わたしにバトンが回ってきた時にはクラスは一位だった。それも二位とは大きく差をつけている。
わたしは走った。追いつかれないように。
差は縮まるばかり。けれども、このまま走り抜けたら無事に一位、というところでわたしは盛大に躓き、コケてしまった。
結果は……これ以上言わなくても大丈夫だと思う。
クラスの人からきっと責められる、みんなが繋いでくれたバトンを最後まで届けられなかった。
わたしが泣きそうになっていたら
「
「……ぁ、ぁの」
「それよりも怪我は大丈夫? 救護テントまで一緒に行こう」
雨宮くんが一言目にそう言ってくれたお陰で、誰からも責められることはなく、むしろみんな励ましの言葉や怪我の心配をしてくれるようになった。
彼はクラスを執り仕切る存在で、人望も人気もある人だった。鶴の一声で、わたしは責められず救われた。
しかも救護テントまでのわたしの運び方がお姫様抱っこ。
「ヒューヒュー!」と周りから囃し立てられて凄く恥ずかしかった。
それでも雨宮くんは何気ない顔でわたしを運ぶ。
周りにはたくさんいるのに、どうしてか二人きりのように感じた。
その時にわたしに見せた「もう大丈夫だから」の笑顔。
わたしはこの時、恋に落ちたんだ。
それからというものの、わたしは雨宮くんを自然と目で追うようになっていた。
好きな時間は授業を受けている時。後ろ姿を不自然なくずっと見てられるから、自分の名字に感謝してしまう。
時には、プリントを渡すために彼が振り向いて目が合うと、必ず雨宮くんは微笑んでくれる。
わたしは恥ずかしがっていることがバレたくないから目を逸らしちゃうけど、これは雨宮くんがわたしにだけ見せてくれる顔だから、すごくうれしい……。
って、気持ち悪いですよね……けど、この瞬間がいつも幸せに感じるんです。
でも、雨宮くんは誰にでも優しいんだよね。
男女問わず分け隔てなく、みんなに優しくて、そして──彼女にも優しくて。
彼女がいることを知ったのはバレンタインデーの時だった。
当然だよね。だって雨宮くんモテるはずだよ。彼女がいるに決まってる。
あの日食べた手作りチョコ。
しょっぱくて、美味しくなくて、とても雨宮くんにあげられるものじゃなかったよ。
それに……わたしは話すの苦手だから。声が小さいから。雨宮くんに渡すなんてことはできないと思う。
彼の前にすら立てなかったんだから。
──好き
この気持ちも届けられない。
伝えてはいけない。
わたしは告白する前から失恋している。
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