第4話
翌朝、何も考えなくても早起きができた。雨戸やシャッターが付いているわけではないから、カーテンの隙間から日差しが差し込んできていた。
緊張しているからだろうか?
一人で起きて、顔を洗い着替えた。
ドレスは、昨日も着ていた黒いドレス。罪人としての旅なのだから、無難にコレを着ておくことにしたのだ。ついてくる騎士たちに何を言われるか分からないから。それに、万が一襲われた時、黒いドレスの方が闇夜に紛れ込みやすいというものだ。
「朝食もここで食べるのかしら?」
思い悩んでいると、ドアをノックされた。
「はい、どちら様?」
窓から朝の町並みを眺めていたので、扉の方をむくだけになってしまった。ちょっとはしたないかもしれない。
「朝食のご用意が出来ましたので、運ばせていただきます」
女将の声だった。
「分かりました」
ゆっくりと歩いてドアを開ける。
今までだったらメイドがしてくれた事だ。でも、今は自分一人。何でも自分でやらなくてはならない。
の、だけれど?
(朝からこんなに食べるか?)
朝食と呼ぶにはだいぶ量が多かった。
(だめだ、米食べたい)
パンにスープにサラダに卵。ソーセージの焼いたヤツにピクルスのようなものが添えられている。白いのは乳製品だろうか?パンケーキみたいなものは、湯気がたって美味しそうだ。が、女子が一人で食べる量ではない。
(昨夜確認しておくべきだった)
反省をしつつも、すぐに前世の記憶から、対策が出てきた。幸い昨夜カバンの中からいいものを見つけた。
「素敵、素晴らしいわ」
声を少し高くして並べられた料理を褒める。
女将の顔を伺えば、満足そうに微笑んでいる。
(よし、いける)
ヴィオラは確信をすると、ポケットから財布を取りだした。
「こんなに沢山は食べられないので、差し支えなければこちらのパンで、サンドイッチを作って頂けないかしら?お昼に食べられるように」
そう言いつつ、女将の手に銀貨を三枚。
(チップの制度があるのはヨーロッパだよね?イレギュラー対応をお願いするからチップ渡すのありだよね?)
内心ドキドキしなからの行為だ。果たして受け入れてもらえるのか?ヴィオラは少し緊張した。前世においても今世においても、こんなことをするのは初めてだ。
「まぁ、作用でございますか。かしこまりました」
女将はヴィオラに気づかれないように、素早く手のひらの中の銀貨を確認した。そして、極上の微笑みをしてヴィオラの示した辺りの食材をワゴンに乗せて部屋を出ていった。
(よし、何とかなった)
落ち着いて席に着くと、ほかほかのパンケーキ?を一口。溶けたバターがしっとりと口の中に広がる。
「美味しいわ」
これが前世なら『ヤバい』とか言ってしまっていたことだろう。けれど、口を開くと何故かお上品な言葉になるのだ。
ふわふわのパンケーキを食べ、白いのは牛乳で、添えられていたフルーツを食べる。なんと充実した朝食なのだろうか?朝は王様のように食べよ。とは言ったもので、カリカリに焼かれたベーコンは、パンケーキに意外とマッチした。
(前世でこんなに朝食たべたことないよ。転生凄い)
ヴィオラは内心、違う方向で感動していた。
食後の歯磨きは、よくわからなかったのでミント水と思われる葉っぱの浮いた水を口に含む。
口の中が爽やかになったので、多分あっているのだろう。楊枝のような木の枝で、歯の隙間をゴシゴシするのは躊躇われた。
国外追放なのだから、そんなにゆったりも出来ないだろう。ヴィオラは昨夜広げた荷物を丁寧にカバンに詰め直す。ドレスはシワになりにくい素材のようだが、前世の知識でクルクル丸めて鞄に詰めた。
こっそり洗った下着は乾いていたので、他の下着と合わせてカバンの底の方にしまった。
(下着の概念が現代よりで助かったわ)
ヴィオラは内心苦笑いした。あの、昔の下着カボチャパンツと言われたアレを履く気には到底なれなかった。ただ、靴下留めがセクシーで困った。いわゆるガーターベルトだ。制作陣の趣味なのだろうか?と疑ってしまったのは言うまでもない。前世の曖昧な記憶を手繰り寄せ、なんとか装着することが出来た。
昨日の馬車の閂の件で、ヴィオラはブーツの紐でなく、金貨の入っていた袋の紐を少し切り出した。
「いざと言う時にブーツをちゃんと履いてなかったら逃げられないものね」
ブーツの紐を縛り直し、姿見で全身をチェックする。カバンの中には化粧道具も入っていた。可愛らしいポーチに入れられたそれは愛用の品々だった。
昨夜それを見つけた時、やっぱりヴィオラは悩んだ。
本当に断罪されたの?
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