第2話

 馬車の揺れ具合からして、王都を出たのだろうか?

 少しだけカーテンをめくると景色は街道のものになっていた。馬車の揺れ具合が変化したのは、街道に、使用されている石が大きくなったからだ。こまめに取替が出来ないから、大きくて頑丈な石が使われている。そのせいで、カタカタという揺れの幅が大きくなっていた。

そうなると、気になるのはやはり鍵だ。


(この鍵、信用できないよね)


 前世の記憶から、こんなちゃちいものを頼れないと判断して、たまたま履いていたブーツの紐を抜いて鍵を固定した。

 隙間になにか差し込まれたら、簡単に開けられてしまう簡素な作りは、あることに意味があるのか?とツッコミを、入れたい。

 個人的安心を確保したところで、載せられていたカバンを物色することにした。

 与えられた僅かな持ち物とはなんぞや?

 下着とドレス、それとお金。

 しかし、困ったことに貴族の令嬢として育ったため、お金の価値が分からない。もとより、転生者としての記憶を取り戻してしまったから、余計にわかないのだ。庶民感覚のものの価値はわかるけれど、物価や相場がわからなければどうにもならない。


「ぼったくられても気が付かないわ、これ」


 金貨を握りしめてそう呟く。金貨一枚の価値が分からなければ、買い物をして釣り銭をチョロまかされても気づくことも出来ないだろう。

 最低限のって、聞かされていたのだが、旅行カバンの中にある金貨の量は、果たして最低限なのか?知識がないので分からないのである。ただ、わかることは、重たくて自分ではずっとは運べないということだ。

 お上品とは言えない、ガッツリと足を組んで…ではなく、ブーツを脱いであぐらをかいていた。スカートが長いので、あぐらを組んだ足が見えないのが救いではある。


「王都から国境まで行ったとしても、1週間はかかるんじゃない?」


 飲まず食わずで走る続けることは不可能。馬が死んでしまう。今日は王都から多少離れた町の宿屋に泊まるのだろうか?そんなことを考えていたら、背後から馬の足音が聞こえてきた。


「え?なに?」


 だいぶ近くに馬が走っている。しかも一頭ではない。こんな直ぐに盗賊に襲われる?質素な箱馬車なのだから、狙わないで欲しいとヴィオラは思った。

 そっとカーテンの隙間から外を見ると、騎士の鎧を着た人物が馬に乗って併走していた。


「監視、かな?」


 ちゃんと国外追放されるよう、騎士が着いてきたようだった。護衛ではなく、監視。

 ヴィオラにはそうとしか思えなかった。



 夕暮れ時、質素な宿屋に馬車が止まった。

 御者が教えてくれたので、カーテンの隙間からあたりの様子を伺う。


(ちゃんと宿屋だわ)


 出来るだけ声を出さないようにして、閂に絡めておいた紐をとる。結び直すのか面倒なので、紐を通さないままカバンを持って馬車を降りた。

 降り立った途端、横に影ができた。

 併走していた騎士の一人が立っていた。

 顔が見えなかったので、ヴィオラは特に気にせず無言でカバンを持ったまま宿屋に入った。


「お待ちしておりました」


 宿屋の女将さんらしい女性がやってきて、ヴィオラからカバンを受け取ると、部屋を案内してくれた。


(罪人が泊まる宿屋の手配するもんなの?)


 生まれて初めて、いや、普通はないけど、罪人として旅をしているわけで、宿屋の女将から『お待ちしてました』なんて言われるものなのだろうか?

 なんだかよく分からないまま、ヴィオラは案内された部屋に入った。

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