役立たずだからと、追放され奈落に落とされそうになったら、さらに上から降ってきました。

 その冒険者の不幸は、仲間に恵まれないことであった。


「お前はここで追放だ! お前みたいな役立たずは、魔物どもと一緒に落ちろ!」

「うわあああああ!」


 ダンジョン内部に架けられた、古びた橋を切り落とされ、冒険者の少年は、背後から追ってきた魔物たちごと落とされた。


 彼が組んだのは、界隈でも悪名高い一党であった。

 新人を雑用係として扱い、他のパーティーと諍いを起こす。

 しかし、バックに貴族がついてることから、ギルドも迂闊に除名もできない。


 そんな厄介な一党に入った新人冒険者の最大のミスだった。

 専ら雑用ばかりさせられ、時には暴力を振るわれてきた。

 だが、その日は本当に運が悪かった。

 宝に目がくらんだリーダーが、斥候が止めるのも聞かず、見るからに怪しい宝箱を開けると、中から無数のモンスターが現れたのだ。


 所謂『モンスター・ボックス』と呼ばれるトラップだ。


 中から溢れかえったモンスターに追い立てられながら、次々と犠牲になっていく仲間を横目に、ようやく上の階層への階段まで戻ってきた。

 しかし、階段のあるフロアへ続く吊り橋を渡る途中でモンスターたちに追い付かれてしまった。

 このままでは追いつかれる。そう思ったところで、リーダー格の男が吊り橋を切り落とした。囮にされたのだ。

 かくして冒険者はモンスターたちと奈落の底へと落ちていった。


 運よく下が水場で助かったが、そこは高レベルのモンスターが跋扈する深層部。

 傷ついた肉体を引きずり、細心の注意を払いながら出口を探すも、所詮は低レベル冒険者。

 呆気なくモンスターの群れに見つかり、逃げ回った結果、追い詰められてしまった。


「く、くるな……こないでくれ……!」


 絶体絶命の窮地。モンスターたちは目の前のごちそうに、じわじわと距離をつめていく。

 そして、そのうちの一体が隙を見せた冒険者に飛び掛かった――!


「ギャアアアアアアアアアア!?」

『!? ぎゃあああああ!?』

「えええええ!?」


 ……次の瞬間、頭上から巨大ななにかが降ってきた。

 ちょうど真下にいたモンスターの群れは、突然の出来事に悲鳴を上げることしかできず、下敷きになってしまった。


「……え?」


 ポカーンと口を開けて、混乱する冒険者。

 ダンジョン全体を揺らすほどの衝撃が止むと同時に我に返り、土ぼこりが晴れたところで落下物の正体が判明。


「え!? これってグランドドラゴン!? なんでこんなとこに!?」


 手持ちのモンスター図鑑に掲載されている写真と寸分変わりない――違うところと言えば、傷だらけになってるところだけの上級モンスターがそこにいた。

 息も絶え絶えに、うめき声を上げるグランドドラゴン。すると、さらに上から「なにか」が落ちてきた。


「行くぞ皆! 力を合わせるんだ!」

『応ッ!』

「え?」


 視線を上に上げると、そこには数十人の少年少女たち。

 彼らは落下しながら、一様にスキルや魔法を地面に向けて放ってきた。


 ドゴォォォォン!


 そして響く爆音!


「GYAAAAA!?」


 木霊するグランドドラゴンの断末魔!


「いやあああああああああ!?」


 巻き添えになる冒険者!

 辛うじて、直撃は免れるも爆風で吹き飛ばされてしまい、転げまわることに。

 やがて、爆炎が晴れ視界が回復すると、そこには先ほどの少年少女たちがいた。


「みんな、無事か!? けが人は!?」

「な、なんとか……」

「大丈夫だよー」

「点呼とるぞー! って、誰だ?」


 向こうが冒険者の存在に気づき、声をかけてきた。

 冒険者は内心で(いや、お前らが誰だよ!?)とツッコミを入れた。




「――なるほど、つまりキミは悪質な冒険者に囮にされて、ここに突き落とされたと」

「は、はい。そうなんです」

「そうか、大変だったな」


 数時間後。

 全員が落ち着いた頃に、冒険者は彼らの中でも年長の男に事の経緯を説明。

 語り終えた後「ひどい」「かわいそうに」「その冒険者たち絶対許さねぇ!」と、冒険者に同情し、中には義憤に駆られる者もいたことから、彼らが良い人間だと言うことはわかった。


「で、皆さまは何者なんですか? って言うか、なんで上から降ってきたんですか?」

「うむ。実は……」


 冒険者の疑問に、年長の男は自らの素性を明かした。

 なんでも、彼らは異世界から召喚された勇者であるらしい。

 最近になって侵略を始めた魔王を討伐するために召喚された彼らは、実戦経験を積むために、このダンジョンを訪れたそうだ。


「だが、そこで思わぬトラップに引っかかってしまってな。下層の石橋のど真ん中に転移された上に、グランドドラゴンと戦う羽目になってしまったのだよ」


 突如、現れた高レベルの魔物に一同が混乱するも、なんとか必死に応戦。

 討伐に成功したのだが、その拍子に石橋が崩壊してしまった。


「一度は全員退避したんだが、ドラゴンの足止めをしていた生徒が足を挫いてしまってな……」


 他の生徒が異世界召喚のお約束・チート能力を貰う中、ハズレスキル・土使いという地味な能力を得た、その生徒は、それでも腐ることなく、技術を磨き、ドラゴンを足止めするほどの成長を見せた。言わば、討伐のMVPであった。

 そんな生徒が、橋の崩壊に巻き込まれようとしていたその時、クラス一のイケメンが救助に向かった。


「掴まれ! 早く逃げるんだ!」


 土使いの手を掴み、一緒に駆け出そうとするイケメン。しかし、彼も崩壊に巻き込まれ――


「二人とも! 危ない!」


 それを助けようとクラスのアイドル的存在の少女が、二人の手を掴み――


「なにやってるんだ! 早く上ってこい!」


 さらに巻き込まれた三人を、クラス一の巨漢が助けようとし――


「掴まれ!」「掴まれ!」「掴まりなさい!」「掴まるでごわす!」「掴まるんDA!」


 と互いに手を伸ばし数珠つなぎになる生徒たち。最後に落ちそうになった生徒を助けようと年長の男――担任教師は踏ん張るも……


「いや、無理だろ!」

『うわあああああ~‼』


 人間、重力には逆らえない。そもそも30人分の体重を一人で支えるのは無理ってもんである。

 異世界の勇者たちは、そのまま、奈落へと落下していった。

 このままでは地面に叩きつけられ、全員死亡。

 そうなるはずだったが、ここでまたしても土使いの生徒が活躍。


「みんな! 強力なスキルや魔法で落下の衝撃を和らげるんだ!」

『応ッ‼』


 指示に従い、クラス一同、最強必殺技を放ち、全員無事着地。

 現在に至ると言う訳である。




「そんなことがあったんですか……」

「あぁ、まったく危ない所だったよ」


 よく無事だったなと、呆れてしまう冒険者。

 その奥では今回のMVPの土使いがクラスメイト達に胴上げされている。


「とにかく、ここを脱出しよう。いつまたモンスターが現れるかも分からない」

「そうですね。でも、脱出のためのルートが分からないんですが」

「大丈夫。私はスキル『指導者』を持っている。その能力の応用で安全なルートをナビゲート出来るんだ」

「そんなんありですか?」


 世界中の冒険者が即勧誘するレベルのチートスキルを持っている担任の教師のおかげで、無事、脱出ルートを見ることができた。

 どれくらい安全かと言えば、土使いを胴上げしながらでも、モンスターとエンカウントしなかったくらいである。

 そうして、順調にダンジョンの出口まで進んでいると……


「あっ! あの時の役立たず!」

「生きてやがったのか!?」

「お前たちは!」


 冒険者を囮に使い、奈落へ突き落とした冒険者の一党とエンカウントしてしまった。


「今回のことはギルドに報告させてもらう! 言っておくが、こっちには勇者様がついてるんだ! もみ消す事なんて出来ないぞ!」

「なにぃ!? 勇者だとぉ!?」

「そう言えば、国王が異世界の勇者を召喚したって……」

「しかも30人近くいるじゃねぇか‼」

「くそっ! 逃げるぞ!」


 冒険者に糾弾され、異世界勇者たちに睨まれた一党は、多勢に無勢と即逃走。

 そのまま、出口に向かって駆け出した。

 だが直後……


「スーパー女神弾‼」

『ギョエエエエエ!?』


 天井を突き破り、青白い光の柱が一党に直撃。

 結果、一党はローストされてしまった。


「ふぅ……危ない所でした……」


 降ってきたのは翼の生えた見目麗しい女性。

 彼女は見事な五点着地法で着地すると、ほっと一息吐いたところで、冒険者たちの存在に気づいた。


「えっと……どちらさまですか?」

「こっちが聞きたい」




「え~と、つまり、貴方は天上界の女神様ですか?」

「はいそうです。この度、天上界の恐るべき計画を伝えるため、下界へ参りました……」


 突然落下した女神さまを前に、冒険者が唖然としている。

 そりゃそうだ。いきなり、女神さまが天から降ってきたなんて、なにも知らない一般人に話したら、正気を疑われかねない。


 なんでも、天上界の住民・天上人たちは人間たちを『星を荒らす下等な生命体』と認識しており、近々、地上を海に沈めるため、大洪水を起こす計画を建てているそうだ。

 それを止めるために女神は天上界から降りてきたのである。


「なんだって、魔王だけでも厄介なのに、天上人とまで戦わなければならないのか!?」

「落ち着け、まずは、このことを王様に報告しよう。いや、その前に、この悪党たちをギルドに引き渡さなければ……」


 怒るイケメンに冷静になるように諭し、担任教師はまず、ギルドへ拘束した悪党たちを突き出すことにした。




「……なるほど、そんなことがあったのか」


 ギルドに戻り、事の顛末をギルドマスターに説明した冒険者。

 話を聞いたギルドマスターは、頭を掻きながら今後の顛末に頭を悩ませる。


「情報量が多すぎる」

「ですよねー」


 そりゃそうだ。素行不良の一党が起こした殺人未遂事件に、連日パニックになっている異世界人の集団失踪事件、さらには天上界の女神やら計画やら……

 正直、一ギルドマスターでは荷が重すぎる。女神と勇者は国の管轄だろう。


「とりあえず、勇者たちは国王陛下に無事を報告してくれ。女神さまも天上人の企みは国家規模の問題だから、そっちに行ってください」

「そうですね」

「分かりました」

「で、例の一党の件だが……」

「やっぱり、難しいですか?」

「バックに貴族がいるからなぁ……色々、めんどくさいのよ……」


 とりあえず、丸投げ出来るものは丸投げするも、貴族関係はめんどくさいようだ。

 下手すると、ギルド潰されかねないし。

 うーんと、今後の展開に頭悩ませていると、ドンッ! と外で大きな音が聞こえ、ギルドが揺れた。


「!? な、なんだ!?」


 何事かと窓を開け、外の様子を確認すると、そこには粉々に粉砕された馬車と、その下敷きになり「むきゅ~……」とうめき声を上げる貴族。

 そして、馬車を粉砕した要因であろう、巨大な円盤があった。


「……あれは?」

「……UFOですね」


 さらにそこから、一体の亜人がヨロヨロとふらつきながら、降りてきた。

 青白い光を全身から放つ、つり上がった目の亜人だ。

 亜人って言うか、宇宙人である。


「ところで、あの馬車の家紋って……」

「あぁ、例の一党のスポンサーのクソ貴族だ」




「手当していただき、申し訳ない。私はある辺境の星からやってきたXXYBAと申します」

「なんて?」


 礼儀正しい態度で頭を下げる、なんかのコマンドみたいな名前の宇宙人。

 曰く彼は故郷の星を悪の宇宙人に滅ぼされ、仲間たちのおかげで、命からがら逃げだしてきたそうだ。


「しかし、ここも安全ではありません。悪の宇宙人の親玉・ABBAAB→→←は、宇宙全てを侵略しようと、この地にも現れる筈です! このことを、この国の政府機関へ伝えねば!」

「だから、なんて!?」


 どうやら地球の言語では、彼らの名前は、なんかのコマンドっぽく聞こえるようだ。

 とにもかくにも、緊急事態。一行は国王の下へ向かうことになった。


「あの僕はどうすれば……?」

「お前も当事者だからな。国王陛下には俺から話を通しておくから、行ってきなさい。こっちはこっちで処理しておくから」


 ギルドマスターに促され、冒険者も勇者や女神、宇宙人と国王の下へ。

 ちなみに、悪徳貴族とその一党は入院しているうちに、証拠を押さえ、後にまとめて処すそうだ。

 割と雑に処理された悪人どもは放っておいて、国王へ報告。

 当然、取り巻きの方々は大パニックだ。

「情報量! 情報量が多すぎる!」と右往左往している。


「くっ! 魔王だけでも手がいっぱいなのに!」

「国王、どうすれば……!」


 周囲がざわつく中、国王は冷静な態度を崩さず、静かにこう言った。


「静観だ」

「は!? なにを仰られているのですか!? 国王!」

「そんな余裕はありません!?」


 取り巻きたちが糾弾するも、国王は焦ることなく「まぁ、見れば分かる」と動じない。

 するとその時、空に幻術魔法による映像が映し出された。


『愚かな人間どもよ! 我ら魔王軍はこれより、侵略を開始する!』


 同時に天から光が放たれ、天上人たちの映像が映し出される。


『愚かな地上の民よ。我々は貴様らに神罰を与える!』


 さらにさらに、宇宙からホログラムが映し出される。


『我々は宇宙人だ。下等生物どもが、今より我々が支配する!』

「……」


 ほぼ同時に宣戦布告される人類。しかし……



『『『だ、誰だ、貴様ら!?』』』



 当人たちもこれは予想外だったようだ。


『ええい! よそ者は引っ込んでいろ! 人類は我々が支配する!』

『ふん! 汚らわしい魔族が! 人類は我々が殲滅するのだ!』

『下等生物共、まとめて支配してくれるは!』


 ギャーギャーと言い争う魔王・天上人・宇宙人。

 次第に言い争いはエスカレートし、遂に魔王がブチ切れた。


『ええい! こうなれば、貴様らから葬り去ってくれるわ! 喰らえ! 古代魔法・メテオストライク!』

『ABBAAB→→←様! 突如、隕石群がこちらに!』

『なに!? ぐあああああ!?』


 魔王の放った古代魔法の影響で、巨大な隕石群が宇宙人たちを直撃。

 宇宙人の艦隊は壊滅し、総司令官の乗る巨大円盤は墜落。


『議長! 巨大な円盤が、こちらに向かって墜落してきます!』

『なに!? ぎょえええええ!?』


 宇宙人の巨大円盤は天上界の浮遊大陸に直撃。

 制御を失った浮遊大陸はそのまま、落下。


『魔王様! 巨大な大陸が魔王城に向かってきます!』

「なにぃ!? ぎゃあああああ!?」


 さらに、浮遊大陸は魔王城へ激突。

 大陸を揺るがす振動が起こり、魔王城は倒壊。

 当然浮遊大陸と巨大円盤もだ。

 一連の出来事に唖然とする人類たち。

 すると、国王は立ち上がり、大声でこう言った。


「王国軍を出撃させろ! 残党を殲滅するのだ!」

「容赦がない‼」


 国王の冷徹な命令に、冒険者がツッコミを入れた。

 かくして、悪は滅んだのであった。




◆登場人物◆


・冒険者:長らく他の冒険者の雑用係をしていた少年。今回の一件で「冒険者辞めて真っ当に生きよう」と考え、衛兵に転職した。面倒見の良さで地元住民の信頼を勝ち取る。


・異世界召喚された皆さん:異世界召喚された某高校のみなさん。みんな呑気だが、仲良し。

 魔王討伐後はUFOをバックに記念撮影をした。


・ギルドマスター:今回の一件でギルドの風紀を引き締めることにした。


・天上界の女神様:スリーサイズは97・61・96。戦闘では、通信空手を駆使して戦う武闘派。


・宇宙人(XXYBA):よくいるグレイタイプの宇宙人。その後、国王の下で技術提供を行い、この惑星と宇宙の懸け橋になる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る