追放された陰陽師を連れ戻しに来ました。が、お、追いつけねぇ!
東の国・ヒュウガ。
その片田舎に都から、二人の陰陽師が派遣されてきた。
のどかな風景のこの田舎に、陰陽師が派遣された理由。
それは、追放された元同僚、天才陰陽師・ハルアキ=アベノを連れ戻す事。
この任務を伝えられた時、二人はほぼ同時に思った。
((クソ面倒くせぇ))
まったく、やる気が起こらない任務に道中、「だったら最初から追放するなよ」とか「辞めた奴を戻ってこさせるなよ」と愚痴を延々、繰り返す。
そもそもの発端が上司の独断なのだから、いただけない。
この上司と言うのが、ゴマスリとコネだけで成り上がった、典型的な無能クソ上司。
自身の無能を棚に上げ、仕事のほとんどを式神に丸投げするハルアキに、難癖をつけて追い出したのだが……
「え? 俺、クビ!? やった、丁度辞めるつもりだったんだよ!」
……と、抜かしやがった。
直後、全ての式神に与えていた気を己に戻し……
「こ・れ・で! 俺は自由だぁぁぁぁぁ‼」
「ぎゃあああああああああああ!?」
周囲の物を吹き飛ばすほどの気を放出し、窓を突き抜け、フライ・アウェイ。
そのまま、どこかへ飛んでいった。
残されたのは、衝撃で半壊した一室と、吹き飛んで壁にめり込んだクソ上司。
舞い散る書類、残された同僚、穴の開いた屋根etc……
自分のノルマは終わらせていったのは、せめてものケジメのつもりだろうが、補って余りある被害が残っていた。
そんな光景を見て、二人は思った。
((ずるいよ、お前だけ……))
正直、二人も辞めたかった。
だが、クソ上司よりも上の方々に、泣きながら引き留められた。
なんせ、ハルアキが辞めたことで、彼の操っていた式神もいなくなり、ごそっと人手が減ったからだ。
無視しても良かったが「今後はキチンと改善する」と言う言葉を信じて残った。
その甲斐あってか、最近は定時で上がれるし、残業代も出てくる。
それでも、抜けた穴が大きいので、「なんとか交渉してきて、非常勤でもいいから戻ってきてもらえ」「せめて頭領が今年、定年退職するまででいいから!」と言う訳で、今回の任務が回ってきた。
ちなみに、クソ上司は頭領から、
「喰らえ! 頭領ボンバー!」
「ぐああああああああああ!?」
……と、ラリアットを叩き込まれ、
「死ねぃ! 長老アッパー!」
「がびゃああああああああ!?」
さらに上の長老からアッパーを叩き込まれ、
「トドメだ! 将軍バスター‼」
「ちょんもろげえええええええ!?」
さらにたまたま来ていたヒュウガの将軍のオリジナル・フェイバリットを喰らい重症。
そのまま、再起不能・退職となりました。
これが、今までの経緯である。
「それで、ハルアキのヤツは本当にいるのかね? コレオくん」
「いると思いますよミチミツ先輩。ここはハルアキ先輩の故郷だし、なにより目撃情報があるんです」
「目撃情報?」
「えぇ、なんでもこの時間になると、この付近に現れるそうです」
……と、言い終えた瞬間、神社の方向から突如、叫び声が聞こえた。
「ぬおおおおおおおおおおお!?」
雄叫びの方向に視線を向けると、神社から火だるまになった青年が飛んできた。
そして、二人の目の前に着弾。衝撃と爆音と粉塵をまき散らし、地面にクレーターができる程の勢いで叩きつけられたのは、彼らの元同僚ハルアキ=アベノ。その人であった。
「……いましたね」
「そうだね。でも、これ死んでない?」
土煙が晴れ、ぷすぷすとローストされた、ほぼ全裸のハルアキを見てミチミツは言った。
普通死ぬよね? これ。
「くそぉぉぉぉぉ! なんのこれしきぃぃぃぃぃ! ん!? お前らはミチミツとコレオ! なんでここに!?」
しかし、我らが同僚は普通ではなかったらしい。すぐに復活した。
同時に、近くにいた二人に気づき「よっ」軽く挨拶。
二人は一瞬「化け物か?」と思いつつも、目当ての相手が見つかったので、本来の目的を果たすことにする。
「久しぶりだな。ハルアキ。元気そうでなによりだ」
「お前もな! って、どうした? 少し、痩せたんじゃないか?」
「誰の所為だと思ってんだよ。お前が抜けた所為だよ」と言いそうになるのを堪え、ミチミツは事情を説明。
「……と言う訳で、せめてお頭が引退する今年いっぱいはなんとか戻ってこれないか?」
「断る!」
「「だよねー。でも、そこをなんとか」」
そりゃ、虫のいい話だからそうなるよね。
だが、このまま引き下がっては来た意味がなくなるので、頼み込む。
「お前も、頭領には色々世話になっただろう? 頼むよ」
「しかし、俺はここを離れる訳にはいかないんだ!」
「なんか理由でもあるんですか?」
「それは――ッ!?」
すると、神社の方から只ならぬ妖気を感じた。
「ッ!? なんだ!? この妖気は!?」
一同が構えると、天から一人の女が舞い降りた。
一瞬、天女かと思うほどの美しさに、見合わぬ妖気を放つ少女に、ミチミツとコレオは戦慄する。
「こいつは、まさか九尾の狐!?」
「なぜ、こんな片田舎に!?」
「手を出すな!」
西方諸国の魔王にすら匹敵すると言われる、伝説の妖怪が目の前にいる。
並の陰陽師ならば、意識を保つことすら難しい威圧感に耐えるの精一杯の二人の陰陽師。
そんな彼らを庇うように、ハルアキが対峙する。
「どうやら、まだ、諦めないようですね」
「ふっ、生憎、しつこいのが取り柄でな」
睨みあう二人。周囲の空気が張り詰める中、ミチミツは悟った。
(そうか! ハルアキ、お前はこの妖狐を討伐するために、一人、立ち向かうつもりだったんだな!?)
故に戻れないと告げた親友の気高さに、恥じ入るミチミツ。
自分は組織の体面を気にするだけで、いつしか、陰陽師の本分を忘れてしまっていた。
その黄金の精神に心打たれた彼は、せめて、彼の助けにならんと気力を振り絞る。
見れば、コレオも同じだった。
相打ち覚悟、最悪、二人の盾にならんと、震えるのを耐えて、様子を伺う。
最中、ハルアキは一瞬の隙を突き、懐から何かを取り出した。
封印の術式が書かれた護符か?
或いは、古代の秘術の記された巻物か?
果ては、神の加護を纏った小刀か!?
否、そのどれもが違う。
「好きです! 結婚を前提におつき合いお願いしますッ‼」
「「「……」」」
取り出したるは、給料三ヶ月分の輝きを放つ、婚約指輪だった。
あろうことか、この男、陰陽師の宿敵である妖に求婚しやがったのだ。
二人は思った。
((なにやってんの? こいつ……))
急速に尊敬の念が失せ始めた二人を他所に、ハルアキはドキドキと心臓を高ぶらせ、妖狐の返答を待つ。
対する妖狐は、スッと左手を掲げ……
「お断りしますッ‼」
「ぎゃあああああ!?」
雷を叩きつけた。
「ハルアキぃぃぃぃぃ!?」
「これ死んだんじゃないですか?」
感電してぶっ倒れた盟友に駆け寄る二人。
そんな二人を無視し、妖狐は「もう、私に構わないで下さい」と冷たく、言い放ちそのまま社の方へ帰っていった。
「ま、待ってくれぇェェェェ!」
哀れ、フラれたハルアキの叫びが木霊する中、二人は思った。
((戻らない理由ってこれかよ……))
「グスッ……ひっく……えぐぅ……」
「ほら先輩泣かないで下さい」
「うぐぅ……悪いなぁ……」
九尾の娘が姿を消した数時間後。
悲しみに暮れるハルアキを近場の茶屋まで連れていき、落ち着き次第事情を聞くことに。
茶屋の従業員である娘さんが「うわっ……また、来たよ、こいつ……」的な顔をしていた。
どうやら、先ほどのやり取りは、日常茶飯事となっているようだ。
「で、なんでお前、九尾の妖狐に告白してんの? って言うか、あんな大妖怪の居場所、なんで黙ってた?」
「だって無害だもん」
「『だもん』じゃねぇよ、気持ち悪い」
「それに陰陽師だからって、全ての妖怪を祓う義務はない。良い妖怪と悪い妖怪の区別がつかないなら陰陽師などやめてしまえ!」
「書類バラまいて、天井破壊して、職務の引継ぎもしなかった人がなに言ってんですか」
とにかく、ハルアキから話を聞く二人。
そうして分かったのは、あの九尾とは幼少期からの知り合いで所謂、幼馴染だと言うこと。
子供の頃、よく面倒を見てもらっていたと言うこと。
そして、よくある話で「大きくなったらお姉ちゃんと結婚する~」的な事を言って約束。
現在、約束を果たすべく、プロポーズをしてるが、連敗中だということ。
「あの頃の俺は、とにかく気が弱くて、泣き虫で『まるで女の子のようだ』と馬鹿にされててなぁ……」
「そうか。時の流れって残酷だな」
「そんで立派な『陰陽師になったら結婚して上げる』って承諾してくれたんだよ! だけど、なぜか断られてんだよ!」
「いや、だってアンタ、陰陽師クビになったじゃん。現在無職じゃん」
「違いますぅ~! 独立したんですぅ~! 無職じゃありません~! バリバリ稼いでます~‼」
曰く、独立して民間の陰陽師でバリバリ活躍中らしい。
とにかくそんな感じでハルアキは九尾に求婚中。
しかし、毎回連敗中である事実に、二人は半分同情・半分ざまぁと思った。
「とにかく! 俺はもう一度告白する! そして、一生を添い遂げる!」
「いや、もう諦めろよ」
「ふっ、無理な相談だな! 一回でダメならOKくれるまで何回でも告るぞ、俺は?」
「ストーカー禁止法に引っ掛かりますよ?」
「断じてストーカーじゃない! 恋愛を粘り強くやってるだけだ!」
「それがストーカーなんだよ」
そろそろ奉行所に突き出した方が良いような気がしてきた。
「ともかく、こうしちゃいられねぇ! 善は急げだ!」
「いや、金払って行けよ!」
ミチミツが止めるのも聞かず、ハルアキはダッシュでその場を去っていった。
ついでに金も払わなかった。
「……コレオくん。割り勘でお願いしていい?」
そう言って、ミチミツが相談するが、そこにコレオの姿はなかった。
どうやら、どさくさに勘定を押し付けられたようである。
ミチミツは天を仰ぎ、涙を流した。
「ハルアキさん! 待ってくださいよ!」
「止めるな、コレオ! 俺はもう一度、プロポーズしに行くんだ!」
「諦めた方がいいですよ~また、雷落とされますよ~? 脈ないどころか心肺停止もんですってこれ」
「いーや! 違うね! あれは照れてるだけだね! 長い付き合いだから分かるもんね!」
そんなことをやいやい言いながら、神社へと向かうハルアキとコレオ。
しかし、彼らを待ち受けていたのは、とんでもない光景であった。
「!? こ、これは!?」
愕然とするハルアキ。
なんと、目的の神社はそこには無く、代わりに、目の前には凄まじい長さの階段と空中に浮く十二個の社が!
「こ、これはいったい!?」
『どうやら、また来たようですね』
「! その声は!」
不意に天から声が聞こえたと思えば、最奥の社から件の九尾の映像が映し出された。
『もういい加減にしてください。私は、あなたと結婚する気は毛ほどもありません』
「ふっ、そう言われて諦められるかよ!」
「いや、あきらめろよ」
堂々とストーカー宣言する先輩に冷ややかな目を向けるコレオ。
九尾もそんなハルアキの態度にため息を吐くと、ある条件を突きつけてきた。
『ならば、この十二の社を守護するわが眷属を倒し、私のいる最奥の社まで来なさい。さすれば、この身をあなたに差し出しましょう!』
「うわぁ、どっかで聞いた話だ……」
えげつない高さ階段と、社から放たれる妖気を感じながら、辟易するコレオ。
対して、当の本人はやる気満々であった。
「よっしゃ! いくぜ!」
「早ッ!」
『ちょ! 話はまだ終わってませんよ!?』
まだ何か言おうとしてる九尾を他所に、フライング気味に猛ダッシュ。
一目散に階段へ向かっていく。
「おい! ハルアキ! 茶屋で建て替えた金返せ!」
「あ、ミチミツ先輩! ちょうど良かった! その馬鹿を止めてください!」
しかし、その前に、飛行の術で先回りしたミチミツが立ちふさがる。
「そこをどけい! ミチミツ! 邪魔すれば貴様でも容赦せんぞ!」
「いや、なにキャラだよ!? いいから、金返せ! そんで陰陽寮に戻ってこい! じゃないと力づくで連れて行くぞ!」
そう言って、戦闘態勢をとるミチミツ。懐から札を取り出し、ハルアキに向かって投げつける!
「邪魔!」
「あべし!」
だが、鎧・袖・一・触!
まるで虫でも払うかのように、ワンパンでKOされ、哀れミチミツはジャイロ回転をしながら、松の木の天辺まで吹き飛ばされた。
「先輩いいいいいい!?」
まさかの事態に流石のコレオも仰天。
そんな彼らを無視して、ハルアキは一気に階段を駆け上がる!
「うおおおおおお! 待ってろよぉぉぉぉぉ!」
階段をも破壊せんばかりの勢いで走るハルアキ。
このままでは追い抜かれてしまうと、ミチミツはコレオに追うように命じる。
「俺に構わず、早く、ハルアキを……」
「いや、先輩は大丈夫なんですか!?」
「無理っぽい。あばら折れた……」
果たして、仮に追いついたとしても、止められるのだろうか?
多分、ワンパンで終わるだろうなぁ……嫌だなぁ……
そんことを考えながら、コレオはハルアキを追いかける。
「わっはっはっは~! 妾は九尾様の眷属の一人! 一尾の天狐じゃ! 愚かな人間め! ここから先は通さんぞ!」
ようやく追いついたと思いきや、既に戦いは始まっていた。
ハルアキは、見た目十歳前後の天狐と、彼女の式神であろう二体の鬼と対峙していた。
「退け、小娘。でなければ幼女でも容赦はせんぞ!」
最早、世紀末出身の修羅が如き口調で、ハルアキが忠告するも、しかし、天狐は憤慨。
ぷんすかと両手を振り上げながら、逆上する。
「なんじゃとー! 妾を子ども扱いするなー! 妾はお主の倍以上生きとるんじゃぞー! 前鬼! 後鬼! この愚か者をやっつけるのじゃー!」
「「ひゃっはー‼」」
天狐の命令に従い、ハルアキに飛び掛かる鬼たち。
――そして、悲劇が起こった。
「邪魔だ」
「!?」
まず、最初にハルアキの餌食になったのは前鬼だった。
拳を躱され、がら空きになった胴体をカウンターの要領でハルアキの手刀が貫いた。
「ガッ!?」
心臓を貫かれた前鬼から、無造作に手刀を抜き、返す刀で後鬼の頭にアイアンクローを決める。そして――
グシャッ!
まるで、リンゴでも握りつぶすかのように、後鬼の頭を握りつぶした。
「おい、小娘……」
「あ、あっ……」
己の式神をあっさりと倒され、唖然とする天狐にハルアキは殺気を放ち、問いかける。
「貴様は先ほど、子ども扱いをするなと言ったな? ならば、戦士として戦場で散る覚悟ありと見做すが、どうする?」
握りつぶされた後鬼の血がしたたり、地面を濡らす。
同じく天狐の、足元も濡れていた。
戦意を完全に喪失し、恐怖で震える子狐を尻目に、ハルアキは次の社へと向かうのであった。
その後ろ姿を見送り、コレオは呟いた。
「鬼か、お前は」
「うえ~ん! おしっこ漏らしちゃったのじゃ~!」
「うん、アレはしょうがないよ」
恐怖で失禁し、ギャン泣きする天狐をあやすコレオ。
流石に泣いてる幼子を放っていくほど、薄情ではなかった。
一旦、下の売店で下着を買い、着替えさせ、それでもぐずる天狐を放っておけず、仕方なくおんぶしながら、ハルアキの後を追っていた。
「もう、なんなんじゃあいつ! 大人げないにもほどがあるじゃろ‼」
「いや、本当に申し訳ない。あんなんで」
元職場の先輩として恥ずかしかった。
「けど、大分離されちまったな……」
見れば既に八個目の社から爆音が響き、人がふっとんでいる。
「このままじゃ、ヤバいのじゃ! 九尾様が危ない! お主、早く急ぐのじゃ!」
「え? 着いてくんの?」
子供とは言え、人一人(狐だけど)抱えて、この階段上るのキツいんだけど?
しかし、このままでは追いつけないので、仕方なく、おんぶして上ることになった。
「し、しんどい……」
おんぶしながら走るのもしんどいが、突破された社の光景を見るのもしんどかった。
なんせ、突破された社では眷属たちが死屍累々。
ある者はイヌガミ・ファミリーが如く頭から地面に突き刺さり、ある者は社の壁とディープキス。
最早、地獄のような光景であった。
これが11段あるのかと言うと気が滅入ってきた。
……とそうこうしてるうちに、最後の社が目前に迫ってきた。
「ほーっほっほっほ! たかが人間が、よお来ましたなぁ! 我が蟲毒で生み出した猛毒寄生虫式神・エキノコックスの餌食にしたる! ここでお主を殺せばウチは自由の身! その後はあの小娘をry」
「臨兵闘者皆陣列在ぁぁぁぁぁ!」
「んぎゃあああああああ!」
途中、最後の刺客が立ちふさがるも、突進しながら連続で目つぶしされ悶絶! さらに――
「前んんんんん!」
「おんぎゃあああああ!」
その隙に背後に回り込み、気の力を全開にしてのパワーボムを叩き込んだ!
この間、僅か数十秒! 最後の刺客はこうして倒されてしまった。
「酷いにも程がある!」
あんまりにもあんまりなオーバーキルに流石にドン引きのコレオ。
ハルアキは構わず、最後の社へと駆け出した。
「いかん! 最後の社が突破された! 追うのじゃ!」
「いや、この人は!?」
割とシャレにならない態勢で、叩きつけられ、泡吹いている十一番目の刺客。
しかも大股開きである。女性としても結構ヤバい。お嫁にいけないレベルでヤバい!
だが、天狐はシレっと言った。
「あぁ、そいつは構わん。邪狐(じゃこ)と言ってな。過去に悪さをして九尾様に懲らしめられて以降、反省するまで眷属として奉仕活動するように言われてるんじゃ」
「悪さって具体的には」
「疫病バラまいたり、権力者に取り入って国崩したり、最近じゃと『年収1000万以下で身長170cm以下の男は生きる価値なし』ってボソッターで呟いとる」
「……それは、しょうがないなぁ」
――と言う訳で、邪狐を無視し、最後の社へと向かった。
「とうとう、ここまで来てしまったのですね……」
最後の社に辿り着いたハルアキに、九尾はどこか哀しそうに呟いた。
対するハルアキは今までにないくらい真剣な表情をしていた。
「約束通り辿り着いたぞ。俺と夫婦になってくれ」
「それは無理ですよ……」
情熱的な告白に、しかし、九尾は俯きながら拒絶した。
「――あなたと私では寿命が違うのですから」
それは、二人を隔てる最大の壁。
九尾である彼女は半ば精霊に近く、ほとんど永久に近い時を生きる。
故に、愛する人間が、そして我が子よりを確実に看取る運命にある。
その証拠に、かつて女の子のようだとバカにされた小さな少年は、約束を守り逞しく成長。
対して自分は、当時と変わらぬ姿。
「あなたは、私を置いて先に逝ってしまう……そう思うと、怖いのです……ッ! だから――ッ!」
「それは俺も同じだ!」
震える声で拒絶する九尾の言葉を、ハルアキは遮る。
「俺も怖い。お前を残して死ぬことがな……だが、それで諦めたら後悔するだろう。それも一生な。だが、それでも一緒にいたいんだッ!」
「――っ!」
「多分、どちらを選んでも後悔するだろうな。なら、俺は共に分かち合う方を選びたい! それじゃ、ダメか?」
「……そんなのズルいです」
九尾の心に蝕むように蓄積していた不安。それすらもハルアキは祓ってしまった。
「……ならば、一つ約束してください」
「なんだ?」
九尾は少女らしい笑みを浮かべ、告げる。
「なるべく長生きしてください。いっぱい、いっしょに思い出を作ってください」
「あぁ……! もちろんだ! 約束しよう!」
こうして、長い恋の物語は終わった。
「……もう、着いていけねぇ」
完全に置いてきぼりをくらったコレオを残して。
「ん? なんじゃ? 帰るのか?」
「うん、帰るよ。これで、ハルアキ先輩連れ戻そうとしたら、完全にお邪魔虫だしね……」
それにこれ以上いたら、甘い空気の所為で糖尿病になりかねない。
ピンクのオーラが漂う社を背に、コレオは元来た道を戻っていく。
「あーあ、任務失敗かぁ……これ、頭領に怒られるよなぁ……」
せめて、誰か穴埋め要員を見つけ出さねば、納得しないだろう。
「んー? それなら、妾が手伝ってもいいぞ! コレオには面倒かけたからな!」
「え? マジで? でも、九尾さんの手伝いは?」
「大丈夫じゃろ。どうせ、田舎じゃから大した仕事はないじゃろうし。九尾様には社会勉強ってことで納得してくれるじゃろう」
「そっかぁ……でもなぁ……」
せめて、もう一声。
ハルアキの抜けた穴を埋めるには、もう一人くらい欲しい。
「それじゃ、他の者も連れていくか?」
「いや、他の者って言っても……」
ほぼ全員、病院送りじゃん。
怪我人働かせるのは気が引ける。
まぁ、働かせても、心痛まない奴なら別にいいけど。
そう思って、階段を下りていくと、お嫁にいけない体勢で失神KOされた邪狐が目に入った――
数日後、陰陽寮にて――
「おら~! キリキリ働くのじゃ~!」
「くぅぅぅ……なんでウチがこんなことを……!」
「口ではなく手を動かすのじゃ~!」
そこでは、式神にされ、こき使われている邪狐の姿があった。
あの後、ハルアキと九尾と交渉し、天狐と邪狐を陰陽寮へ派遣してもらった。
特に邪狐に関しては「存分にこきつかって構わない」とお墨付きである。
調べてみるとコイツ、過去、都でも散々悪さしていたらしく、その首には賞金もかかってるらしい。
「よし、とりあえず、仕事が終わったら、換金すっか」
「よしゃ! 臨時ボーナスだ!」
「いや、鬼かおのれら!?」
最早、人権……否、狐権の侵害レベルの扱いに、流石に涙目になる邪狐だった。
後日、ハルアキと九尾から、ミチミツとコレオ宛に結婚報告が届いた。
幸せそうな二人の写真を見て、二人は思った。
「俺らも結婚したいな」
「金ないから無理でしょう」
完全に、人生の勝ち組に置いてかれた二人であった。
◆登場人物◆
・ハルアキ=アベノ
ヒュウガ歴代最強陰陽師。
無能上司の所為で追放されたが、田舎で自由なライフをエンジョイしてた。
後に仙人至り、九尾と末永く暮らす。
・九尾
ハルアキの幼馴染で、土地神。スリーサイズは94/62/96
幼いハルアキと「大きくなったら結婚する」約束をして、無自覚の内に逆光源氏を達成した。子宝に恵まれ末永く暮らす。
・ミチミツ=アシヤ
ハルアキの同僚で、今回の被害者A。
ハルアキに匹敵するほどの実力者のはずが、恋の力は無限大だった為敗れ去った。
あばらも折られた。
・コレオ=キャモ
ハルアキの後輩。被害者B。
ハルアキのことは陰陽師として尊敬するが、人間性はそんなんでもない。
時期、頭領候補だが、本人は責任ある役職につきたくなかったりする。
・天狐
ロリ枠。ハルアキのせいで漏らした。
なんやかんやでコレオに懐き『コレオ、ロリコン説』を広めてしまう。
ヤマタノオロチの祠第三小学校の二年生。
・邪狐
都で悪さしまくって、ほとぼり冷まそうとしたら、九尾に凹にされ、更生のため眷属にされた過去を持つ。若くておっぱいの大きい九尾に反感を抱いており、いつか下剋上を企てているが、今回の一件で、より遠ざかった。
実はアラハン処女だったりする。スリーサイズは99(嘘)59(大嘘)99(本当)
この身のタイプは年収1000万で身長170cm以上。家事をすべてやってくれるイケメンらしいが、そんな怪物いる訳がないので、結婚は当分先。
・他の眷属の皆様
お疲れさまでした。お大事に。
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