彫刻家が追放されました。理由? わからいでか!
『勇者による侵略派魔王48体の討伐・共存派魔王国家との和平交渉設立』
そのニュースは王国どころか、大陸中を駆け巡った。
一体で一国を滅ぼすほどの魔王。それを48体も討ち取った上、さらに人魔共存の道を示した。
人類初となる偉業を称え、国は勇者に報酬を与えた。
しかし、勇者は報酬を辞退。
「その報酬は復興や恵まれない子供たちのために使って欲しい」
そんな謙虚な一言に、勇者の株・ストップ高。
しかし、それでは示しがつかないと、勇者当人や教会関係者と協議を行ったところ、主要都市と故郷の村に記念の像を作ることにした。
そして、その像の製作を教会所属の彫刻家に頼んだわけだが……
「貴様を追放する!」
「そんな! なぜですか!?」
「解らぬか! この役立たずが! 貴様のような奴、この教会に必要ないわ!」
「ちょ! 大神官様、落ち着いてください! いったい、何があったと言うのですか!?」
怒り心頭の大神官が彫刻家を怒鳴りつける。
その様子を見ていた、若き修道士が割って入った。
「どうしたもこうしたもないわ! こやつの造った像の所為で、危うく教会は赤っ恥を掻くところだったんじゃぞ!?」
「そんな……僕は一生懸命造ったのに……」
大神官の一言にショックを受ける彫刻家。
そんな彫刻家を見て、修道士は助け船を出した。
「では、私にその像を見せてください」
大神官が芸術にうるさいのは有名である。
ひょっとしたら、自分が気に入らないだけで、一般の人間から見たら、十分、納得のいくものだったかもしれない。
そう思って、実際にその像を見せて貰ったのだが……
「あー……うん、これはしゃあないわ。追放」
助け船、沈☆没。手のひらをギュンと返して大神官に同意した。
「そ、そんなぁ! いったいなにが悪いと言うんだ!?」
「わからいでか」
納得いかないと言う彫刻家に、修道士は一個一個丁寧に理由を説明するハメになった。
余計な口挟むんじゃなかったと、激しく後悔しながらである。
「じゃあ、まず、これなんですが……」
タイトル『激闘』
勇者が敵に斬りかかろうとする、躍動感溢れる作品なのだが……
「それのどこが悪いんですか!? 勇者様の雄々しさが表現されてるじゃないですか!」
「うん。勇者様事態は問題ないのよ。だけどさぁ……」
そう言って、修道士は視線を勇者の斬りかかる“敵”の方に向ける。
そこにいたのは、つぶらな瞳でこちらを見つめるチワワであった。
「なにこれ? なんで勇者様はチワワに斬りかかってんの?」
「違います! それはフェンリルです!」
「どこら辺が!? どう見ても、かわいいチワワだろうが!」
「そ、それは、フェンリルの写真の資料が手元になかったから、仕方なくチワワで代用することになって……」
「だからってチョイスが酷いだろうが! これじゃ動物愛護団体からもクレームが来るわ!」
そもそも手元に資料がないならないで、代替え案とか色々あるだろう。
まぁ、これに関してはこれでいいだろう。で、次。
「次はこれだよ。なにこれ!?」
タイトル『負傷』
「勇者様の活躍は華々しいだけではありません! 時に泥臭く、時に血に塗れながらもしたはずです! それをみんなに知ってもらおうと……」
「うん、熱意は分かったけどさぁ……」
そう言って、修道士は像を眺める。
そこには全身包帯でグルグル巻きになった勇者がいた。
……いや、これは最早ミイラの像である。
「これじゃ誰だか分からないでしょうが! なんでミイラの像を飾んなきゃいけないんだよ!」
「だって『勇者様だってこれ位の傷を負いながらも魔王を倒したんだぞ!』ってアピールしないと愚かな民衆は『勇者は民を守って当然』ってつけ上がるから……」
「愚かな民衆言うなや! 何様のつもりだ、お前!?」
そして、次。これも、かなりひどい。
タイトル『救出』
とある小国のお姫様を魔物の手から救出した記念の一品。
お姫様と寄り添いながら歩いている、なんとも微笑ましい光景だ。
これだけ見れば、非の打ちどころのない作品だが……
「これ、正面はこれでいいんだけどさぁ……」
そう言って、クルッと像を180度回転させると、なんと背後には勇者の背中をナイフで刺す、謎の村娘の姿が!
「誰これ!?」
「ゆ、勇者様の故郷の幼馴染です」
「なんで幼馴染、勇者様刺しちゃってんの!?」
「知らない女といちゃいちゃしてたら、刺したくもなるでしょうが!」
「ならんわ! って言うか、なにこの娘、勇者様の旅路についてきてたの!? 怖っ!」
こんな昼ドラ並にドロドロした像、公共のど真ん中における訳ないだろう。
と言う訳で、ボツである。
「そして、次は……」
最早、見るのも億劫になってきたが、仕事なのでやらねばなるまい。
タイトル『成敗』
村を襲う盗賊団を倒した時の像だが……
「絵面が酷い!」
そこにあったのは、土下座して謝る盗賊団首領に、剣を突きつけ、仲間の生首を踏みつけながら、下種顔で笑う勇者の姿が。
「なにこれ!? イメージ悪くなるだろうが!」
「いやぁ、盗賊なんてモンスターと同じだし」
「勇者の方がモンスター染みてるんだけど!?」
加えて、この像もなぜか、背後から幼馴染に刺されてる。
「そんで、なんで、また幼馴染!?」
「やっぱり、惚れた男が道を踏み外したら、止めるのが女の甲斐性だから……」
「なにこれで、プラマイゼロにしたつもりにしたつもりになってんの!? 創ったのアンタだろうが!」
喉が枯れる程ツッコミを入れる。
言うまでもないが、勇者は他に類を見ない程の聖人だ。断じてこんなことはしていない。
「で、あとはこれ! この最後の魔王に勇者様がトドメ刺そうとしている像!」
「あぁ、これは自信作です! 僕のすべてを込めました」
「そうか……キミはこれをそう言い切るのか……」
「どこからその自信が湧いて出てくんの?」と冷ややかな視線を向ける修道士。
なんせ、この像は、這いつくばって逃げようとする魔王を、背後からトドメを刺そうとする勇者と言う、なんか人間性を疑われるような感じの像だったからだ。
さらに、魔王の尻と勇者の股間が完全に重なっており……
うん、これ……あれだよね……完全に入ってるよね……?
そして、勇者の背後には、ナイフで勇者を刺す幼馴染の姿が!
「ツッコミどころしかねぇわ!」
スパァン!
彫刻家の頭を思いっきりはたく修道士。
こんなもの設置した日には、教会の品性が疑われるだろう。
そして、最後。これが一番の問題である。
「あとさぁ、これ、製作費のことなんだけど……?」
「うっ……そ、それは……」
その瞬間、露骨に動揺し始める彫刻家。それを見て、修道士はある確信を得て、懐から数枚の書類を取り出し、突きつけた。
「この書類には製作費の他に、必要のない取材経費やら、接待費やら記載されてるんだが?」
「そ、それは、インスピレーションを働かせるために必要な……」
「あとね、材料費に何点か使われてない素材が書かれてるんだけど?」
「……」
「てめぇ、横領しただろう? 金、どこにやった!?」
最早、情け無用と杖を構える修道士。返答次第では『石化』の神罰も下さざる負えない。
すると彫刻家はふっと諦めたかのような笑みを浮かべ一言。
「チワワに食われました」
数日後。
「なんだか照れくさいな、自分の像が創られるなんて」
「なにを、勇者様の功績ならこれでも足りないくらいです」
「ところで、一緒に飾られてるこの像はなんですか?」
「あぁ、それは、うちの修道士が創ったもので――」
タイトル『愚かな彫刻家の末路』
◆登場人物◆
・彫刻家
神殿所属の彫刻家。元々、才能豊かだが、最近はあぐらをかいて、好き勝手やっていた。
最終的に神罰『石化』による罰を受け、反省するまで晒し物にされる。
・大神官&修道士
今作の苦労人&ツッコミ担当。彫刻家を追放した後、謝罪行脚にいったり大変だった。
・勇者
48体の侵略派魔王を討ち取り、共存派と和平交渉まで行った勇者オブ勇者。
故郷にちょっとヤンデレ気味な幼なじみ(スリーサイズ99・61・98)がいるが、当人はそんなところも含めて好きなので、気にしてない。
背後から刺されたが、ナイフは背筋で圧し折った。
・小国のお姫様
愛の神・カプテューンを信仰する、とある小国のお姫様。勇者×幼馴染推し。
スリーサイズは84・61・85
・盗賊団
食うに困って盗みや略奪を繰り返していた方々。壊滅させられた際も、盗賊団のボスが自分の首一つでことを治めてもらうように懇願した。その後、猛省した彼らは奉仕活動の一環で勇者の像を作成することになる。評判は上々。大神官のお墨付きである。
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