学会から追放された魔導士が1000年後の未来に転生したんですけど――

 いつも通り、魔法研究所に出勤したエルトハイムを待ち受けていた、まさかの解雇宣言であった。


「……残念だが、キミは本日付けで解雇することになった」

「そう……ですか……」


 絞り出すような声で宣告する所長。

 対して、エルトハイムもまた、ショックを堪えながら辞令を受け取った。

 言いたいことは山ほどある。しかし、所長も好きでこのような辞令を下した訳ではないのだ。

 それをとやかく言うほど、エルトハイムは愚かではなかった。


「すまない……キミを守ってあげられなくて、本当にすまない……」

「謝らないで下さい。所長。今まで、お世話になりました」


 嗚咽を堪えながら、謝罪する所長に、エルトハイムは一礼をして、そのまま部屋を出た。


 エルトハイムは自他ともに認める天才だった。

 魔法の常識を覆す発見の数々に、時代を先取りした魔道具の開発。

 魔法史史上、類を見ない功績を残してきた。


「しかし、それも、理解できなくては意味がない、か……」


 自身を疎ましく思う人間に、心当たりが多すぎる。

 いけすかない同僚。魔法省の役人。異端審問者。学会上層部の老害たち。

 ひょっとしたら、その全部が手を組んで、エルトハイムを陥れたのかもしれない。


「まぁ、いいさ。時代が俺に追いつかなかった。ただ、それだけだ……ゲホッ! ゲホッ!」


 自嘲してると、不意に咳き込むエルトハイム。

 口を押えていた手には、べっとりと血がついていた。


「おまけに、日頃の不摂生のツケも回ってきた、か」


 研究に人生を費やしてきたエルトハイムの肉体は、病魔に侵されていた。

 天才だ、神童だともてはやされても、病には勝てない。これもまた、一つの真理である。


「まぁ、いいさ。あれは既に完成した。最早、この生に未練はない」


 ――だが、エルトハイムはそれを悲観していなかった。


 帰路に着き、自宅の研究室に入るとエルトハイムは、すぐさま床に魔法陣を描き始めた。

 しばしして、出来上がった魔法陣を見て、エルトハイムは満足げな笑みを浮かべた。


「よし、これで転生の準備は整った」


 エルトハイムの作り上げた、魔法陣。

 それは、人類史上初の転生魔法であった。


「俺の計算が正しければ、この魔法陣を発動させれば、記憶を保持したまま、転生できるはず。未来ならば、俺の才能を遺憾なく発揮できるだろう……‼ 理論的には!」


 まぁ、実質、ぶっつけ本番の博打うち魔法だが、それでもエルトハイムに後悔はなかった。


「今の時代、俺の魔法技術を理解できる人間は少ないからな」


 故に学会を追放された。数少ない例外が研究所長であった。

 本来なら理解者たる彼には説明しておきたかったが……


「しかし、もう俺には時間が無いからなぁ……薄情者だと思われるだろうが、これも運命だろう」


 心の中で詫びながら、しかし、エルトハイムの心は未来に向いていた。


「願わくば、未来ではよき理解者に恵まれるといいが……」


 そう呟きながら、エルトハイムは転生魔法を発動させる。

 肉体が魔素へと分解されていき、次第に意識も遠のいていき……





 1000年後。グランアステリア王国・ソノヘンノ街魔法学園初等部。





「こら! エルト、入学早々、授業中にぼんやりするな!」

「あぁ、スイマセン、先生。昔は良かったなぁと思ってしまって……」

「お前7歳児だろ!? なに言ってんの!?」


「悲観するな! お前の人生、これからなんだぞ!?」と本気で心配してくる先生を他所に、転生したエルトハイム――エルトはため息を吐いた。


(せっかく1000年後に転生してきたのに……誤算だった……‼)


 1000年後の未来なら、魔法文明も発展しているはず。

 そんな期待は、容易く裏切られた。


 ――まさか、魔法文明が大きく衰退していたとは。このエルトハイムの目を以てしても予測できなかった……‼


 入学前に読んだ歴史書に記載された内容には、なんでもエルトハイムの死後、世界を巻き込んだ大戦が起こり、その過程で貴重な魔導書や魔道具が消失。さらに、終戦後。教会が権力を持ち魔女狩りめいたことが起きた所為で、魔法使いが激減。

 結果、現在では魔法文明が大きく衰退したとされる。


 失敗だ。あぁ、失敗だ。大失敗。

 せっかく進歩した魔法文明を肌身で感じられると思ったのに、その目論見は完全に失敗した。


 加えて、この時代でもエルトは天才と持て囃された。されてしまった。


(このレベルの魔法に長ったらしい詠唱など不要なんだがな。って言うか、無詠唱で一発だろ……)


 その無詠唱すら、この時代では高等技術で、使える人間が数百人に一人と言われているから、嘆かわしい。


 かつて成績の悪い級友が「今の記憶を保持したまま、小学生に戻りたいなぁ」などと言っていたが、エルトの感想は「非常につまらん」としか言いようがなかった。


(しかし、だからと言って授業を受けない訳にもいかなからなぁ。親が心配するし)


 今世の両親に迷惑をかける訳にはいかない。

 仕方なく、エルトは教師の拙い授業を素直に受ける……と見せかけて隠れて今世の魔法学の論文を暇つぶしに読んでいた。


(おぉ! 『毛生え薬の作り方・応用編』か。どうせ、インチキと思っていたが、これは掘り出し物だ。研究主任が生きてたら、絶対、血眼になって習得するだろうな)


「非常につまらん」と評価を若干修正し、この日もエルトはコソコソと魔法の論文を読み漁る。


 ――しかし、平和と言うのは唐突に崩れ去るものであった。


「――つまり、魔法の詠唱は必ず……なんか、外がうるさいなぁ。注意してやろう」


 そう言って担任教師が廊下の様子を伺おうとした瞬間。


「ぐあああああ!?」

「!?」

「動くな! 大人しくしろ‼」


 突如、その場に崩れ落ち、教室内に複数の男たちがなだれ込んできた。




「この学校は我々『勇者権威復興機関』が乗っ取った‼ 大人しくしていれば危害は加えない! しかし、抵抗するなら、どうなるか分かってるな!?」


 やたら暑苦しい、顔だけはいい男が剣を片手に大声で忠告してくる。

 昔、クラスメイトが「あ~あ、学校にテロリスト来て、授業中止になんねぇかなぁ」「なんなら俺がテロリストを無双してやるぜ!」とか抜かしていたのを思い出す。

 まさか、リアルでこんなことになるとは思ってもみなかったと、倒れた教師を拘束する男を眺めながら思った。


(って言うか、勇者権威復興機関ってなんだよ?)


 名前からして勇者の権威を復興させる機関なのはわかる。

 が、具体的な内容が理解できない。研究一筋で世論を軽んじるのは生前からの悪い癖だった。

 なので素直に質問してみることにした。


「すいません。素人質問で恐縮なのですが、よろしいでしょうか?」

「え? あっ、はい。なんでしょう……いや、なんだ?」

「勇者権威復興機関って具体的に何が目的なのですか?」


 ついつい、転生前の癖が抜けきらない質問の仕方をし、一瞬、男は面食らったものの、意気揚々と説明しだした。


「勇者権威復興機関とは、我々のように勇者の力を持つ者の権威を復興し、待遇を改善させることを目的とした正義の組織だ!」


 曰く、最近の世の中は勇者に対し、厳しい弾圧を敷いていると言う。

 たしかに、最近「異世界から年端もいかない少年少女を召喚して、戦争に協力させるのはいかがなものか?」と言う論調が強まっている。

 しかし……


「『魅了の魔眼』を使ったら犯罪者として監獄送り。村を魔物から守れば『住宅地で戦うな!』と文句ばかり。挙句、魔王討伐の為の費用を要求すれば強盗扱いだ! こんな世界間違ってる!」

「間違ってんのはお前の頭だよ」


 聞いた時間無駄にしちゃったなあ、と後悔。

 要するにこいつらは、最近流行りの「悪徳勇者」

 なんらかの問題を起こして、罰を受け、放逐されたのだろう。

 たしかに、異世界から召喚されたのは同情する。だが、だからと言って、好き勝手振る舞うのは間違いだろう。

 しかし、当の本人はそう思わなかったのか、冷めた口調で正論を吐いたエルトに剣を突きつけた。


「貴様! 勇者である僕に逆らうのか!?」

「……」


 子供に剣を突きつけるような勇者、いねーよ。

 最早、話すだけでも不愉快だった。

 いい加減、この状況をどうにかしないといけないし、仕方ない。ひと暴れするか。


 そう思い、エルトはやれやれと無詠唱で中級火炎魔法を、勇者(笑)に向かって放った。

 ――瞬間。


 ドゴォォォォォン‼


「ぎゃぴいいいいいいいいいいい!?」

「……はい?」


 一体、何が起きたと言うのか?

 エルトの放ったのは死なない程度の中級魔法。しかし、実際に起こったのは上級に匹敵する炎魔法であった。

 荒れ狂う炎は、テロリストを呑み込み、肉片も一つ残らず焼き尽くしたのだ。


「こ、これはまさか共鳴現象!? 何故!?」


 冷静に分析するば、同格の魔法使い同志が、同じ系統の魔法を行使することで、威力を増幅させる共鳴現象が発生したのだろう。

 しかし、魔法文明が衰退した世の中で、エルトと同格の人間がいるとは考えられなかった。

 エルトが首を傾げると、隣の生徒が「あ、やべ」と呟き、手のひらから回復魔法を放つ。

 瞬間、完全に塵と化したテロリストの肉体が再生。

 白目を剥いた状態で復元された。


「やっべー……危うく、この年で前科がつくところだったぁ……」


 そう言って、ほっと撫で下ろす男子生徒。

 その仕草や立ち振る舞いに、既視感を覚えたエルトは尋ねる。


「そのとりあえず、やらかしたら、いい感じに取り繕って隠蔽しようとする癖……ひょっとして、ダニエル所長?」

「へ!? なんで私の名前を!?」


 エルトに名前を当てられ、驚く生徒。

 彼のネームプレートには「ダニー」と言う名前が書かれていた。

 しかし、彼は「ダニエル」と言う名前に反応して、挙動不審になった。

 ひょっとして、こいつ……


「俺です! エルトハイムです! よく二人で『鎖窯亭』に飲みに行ったじゃないですか!」

「え? エルトハイム君んんん!? 嘘だろぉぉぉぉぉ!?」


 仰天するダニーことダニエル。


 ――そう、彼こそは生前の理解者。研究所長のダニエルだったのだ。


「え? マジでエルトハイム君? マジで?」

「そうです! エルトハイムです!」

「マジでか! 超奇遇じゃん!」

「奇遇じゃんじゃありませんよ! なんであなたもこの時代に転生してるんですか!?」

「いや~、実はキミが失踪した後、あの魔法陣を発見してさぁ……」


 そう言って、ダニーは転生した経緯を語り始めた。

 曰く、世間的には失踪したことになってるエルトハイムの手がかりを追って、自宅に行ったところ、魔力の残滓から、転生魔法陣を再構築。

 世紀の大発見を、独力で復元した彼は、晩年、自分でも使ってみようと考え、今に至ると言う訳だ。


「マジか……えー……嘘だろー……よりにもよって、同じ時代に転生するとか、ないわー……」

「いや~、そこら辺の設定はきかなかったみたいでね。私もビックリだよ~」


「HAHAHA」と陽気に笑うダニー。

 まさかの再会に、エルトもまた呆れながらも苦笑する。

 と、今度は、一人の女子生徒が話しかけてきた。


「ダニエル……まさか、お爺様!? お爺様なのですか!?」

「え? 誰?」

「私です! エリザベスです! 今はエリーと名乗ってますが‼」

「「マジで!?」」


 突然の告白に仰天する二人。

 どうやら、この少女、ダニエルの孫らしい。


「マジでエリザベスなのか!?」

「はい! お爺様のような魔法使いになるため、研究を引き継ぎ、転生魔法を習得したんです!」

「マジか。あれ、結構高度な魔法だから、並の魔法使いじゃ習得できないぞ!?」

「そうか……あのお転婆のエリザベスがなぁ……しばらく、見ないうちに大きくなったなぁ……」

「俺たちが縮んでるんですが?」

「そうだった! HAHAHA!」

「ふふふ、お爺様は相変わらずですわね」


 そう言って、旧交を温める二人に、さらに別な生徒が話しかけてきた。


「まさか、エリザベス先輩ですか!? お久しぶりです!」

「あら? ひょっとして、あなたは……」

「はい! 後輩のキャロラインです!」

「マジか」


 まさかの4人目の転生者。エリザベス曰く、学園の後輩だったらしい。


「まさか、あなたも転生してきたなんて……」

「はい。女性ながら、様々な魔法を編み出した、女性魔法研究者の先輩に憧れて、様々な魔法を習得したんです! まぁ、それが原因で異端審問にかけられて火炙りにされちゃったんですけどね☆」

「笑いごとじゃないなぁ」


 明るくえげつない過去を語るキャロライン(今世ではキャシー)

 さらに……


「あ、あなたがキャロラインさんですか!?」

「あら? あなたは?」

「は、はい! 僕はゼルフォードと言います! あなたの編み出した魔法理論に憧れて学者になったんです!」


 まさかの五人目にエルトハイムは唖然とする。

 ひょっとして、転生魔法って簡単に習得出来たりするの?


「教会の手によって、あなたの論文は大部分が処分されましたが、偶然、捨てられていたものもあって……貴方の論文を拾わなかったら、僕はずっと浮浪児のままでした!」

「そうだったの……ふふ、光栄だわ」

「ほう、貴殿があのプロフェッサー・ゼルフォード。お初にお目にかかります」

「あ、あなたは?」

「失敬、私はロイドマン。今世ではロイと呼んでください。私は軍で、あなたの遺した魔法理論を研究しておりました」

「マジか」


 さらに六人目。軍人らしく敬礼するロイドマンことロイを眺めつつも、ここらで打ち切りだろうと高を括る。


「ほう、あなたが、あのロイドマンか! 僕はニコラウス! 貴殿の論文は拝見させていただいた!」


 っと思ったら、いたよ七人目。

 最早転生者のバーゲンセール状態である。


「なにぃ!? ニコラウスだとぉ!?」

「む? キミはまさか、エディソンか!?」

「そうだ! 貴様の宿命のライバル、エディソンだ! 貴様! 私の魔法の方が優れていると証明する前に、病気なんぞで死によって! おかげで、勝ち逃げされた気分だったわい!」

「キミの方こそ、ちゃっかり僕の死後、研究を引き継いで自己流で完成させやがって! あんなのよりもっと効率のいい方法があるだろう! 例えば――」

「ぬぬぅ!? たしかにその発想はなかった! だが、それならば――」

「あの、喧嘩しないで……」


 さらに八人目。しかもこの二人、前世の因縁を引き継いでいるらしい。

 周囲の目も気にせず研究談議に花を咲かせ始めた。


「うひょひょひょひょひょひょ! まさか、こんなにも転生者がおったとは! 丁度いい! 貴様らの研究成果は全て、この私! 悪の天才科学者・Drウヒョルコフが使ってやろう! ありがたく思え!」

「なんか出てきた」


 さらに出てきた九人目。しかも、こいつだけ、なんか毛色が違った。

 とりあえず、その笑い方は止めてほしい。同類に見られるから。


「待て、Drウヒョルコフよ。貴様のそう言うところが短所だと生前言ったであろう」

「はっ! ま、まさか! 貴方様は暗黒大首領・デスカイザー様!?」

「なんか世界観違うのまで!?」


 幼い少年に似合わない威厳溢れる態度で諫められ、竦み上がるウヒョルコフ。

 どうやら、前世での上司らしい。ウヒョルコフはあまりのビビりっぷりに失禁してしまった。ってなにやってんの!?


「その名は既に捨てた……今は、ただのカイである」

「なに!? デスカイザーだと!? 貴様も蘇っていたのか!?」

「ふっ、相変わらずだなナガレ・カブトよ。あの最終決戦以来であるか……」

「今の俺はイカリ・レイだ! デスカイザー! ここで全ての因縁にケリをつけてやる!」

「だから、前世の因縁引っ張ってくんなよ!」


 さらに現れた、暑苦しそうな少年に間髪入れずツッコミを入れるエルト。

 お前らだけ、世界観違い過ぎるんだけど!?


「……よそう。最早私に、貴様と争う意思はない」

「なんだと!?」

「……かつての私は力ですべてを支配しようとしていた。しかし、最後の戦いで気づいたのだ。力を以て支配しても、そこには空しさしかないと」

「デスカイザー……お前……」

「おいストップ! ストップ! ストォォォォォプ!」


 最早、収拾がつかなくなりそうなので、エルトが待ったをかける。


「ちょっと一旦落ち着いてくれ! とりあえず、聞きたいんだが……前世の記憶を持っている人間は全員、手を上げてくれ」


 もう流石にいないだろう。いや、いないでくれ。頼むから。

 そんなエルトの淡い思いは見事裏切られ、クラスメイト全員が手を上げた。


「マ ジ か よ !?」


 なんと言うことだろう。このクラスの生徒全員、自分の生み出した転生魔法を習得していた。

 そう言えば、この非常事態にも関わらず、動揺が少なかった。

 恐怖で竦み上がっているだけだと思っていたが、実際はいざと言う時、自力でどうにかできる技量の持ち主ばかりだったから、大して動揺してなかったのだろう。

 って言うか、確率的にあり得なくない?


「しかし、これも何かの縁だろう。現在、この学園は悪辣なテロリストの手に落ちている。これを打開できる人間は我々以外にいないだろう」

「えぇ、たしかに。私一人では体力的な面で心配でしたが、これだけの人数がいるなら、なんとかなるかもしれませんわね」

「しかもなんか、テロリストと戦うことになってるし」


 まあ、エルトもいい加減、この状況を打開したかったので丁度いいっちゃ丁度いいのだが。


「流石エリザベス先輩! 私も同意見です!」

「僕もです!」

「うむ。最早、私の祖国はこの国である以上、平穏を脅かす悪漢どもを捨ておくわけにはいきませんからな」

「ははは! 足を引っ張るなよエディソン!」

「ふん! 貴様こそ、臆病風に吹かれて逃げ出すんじゃないぞニコラウス!」

「ウヒョヒョヒョヒョヒョ! 相手はテロリストじゃからなにされても文句は言えないじゃろう! 全員モルモットにしてやる!」

「子供は未来の宝……それを守ることが、我が贖罪……」

「まさか、お前と一緒に戦うことになるとはな……デスカイザー、いや、カイ!」

「みんな、ノリノリだし……」


 恐らくこのメンバーで戦えば、被害を出さずに鎮圧できると言う合理的な判断があってこその決行だろう。

 最早一周回って、テロリストが可哀そうになってきた。



 十分後。テロリストは壊滅した。



 目標である放課後までかかることなく、テロリストは鎮圧された。

 圧勝だった。そりゃそうだ。

 なんせこっちは、歴史に名を残す魔法使いのドリームチーム。

 向こうは、力を持っただけの烏合の衆。

 勝敗は明らかだった。


 途中、ニコラウスとエディソンが張り合って、喧嘩になったり

 ウヒョルコフが堂々と人体実験を始めたり

 カイとイカリの合体魔法の威力が大きすぎて、学園が崩壊しかけたり

 それらをエルトが必死にフォローしたりと、大変だったが、大した怪我人もなく、鎮圧できた。


「おのれぇぇぇぇぇ! ガキの分際で! 勇者である我々に歯向かうなんてェェェェぇ!」


 最後、リーダー格の男が必死に抵抗してきたが、彼の聖剣はキャシーの錬金術により消滅させられ、『強奪』『魅了』などのスキルもロイにより無効化。

 冥途の土産に自爆覚悟で放った古代の最上級魔法『煉獄の不死鳥《インフェルノ・フェニックス》』も……


「うむ、練り込みが荒いな。【煉獄】の概念を深く理解してないせいか、不死鳥の形をした炎の温度が低すぎる。本来なら白色もしくは黒になるはずなのに……」

「発動時間も遅すぎるな。エルト君。君ならば無詠唱で0.1秒以下に抑えることも可能だろう」

「あ、それ、既に私が立証済みです」

「それよりもエーテルのつながりが甘いな。直列だからこそ、こちらに制御権を奪われるぞ」

「なにを言うか。直列でもセーフティさえ組み込んでおけば制御権は確保できるぞ」

「ウヒョウヒョヒョヒョヒョヒョヒョ! ここは人格を組み込み、怪人化させれば、ローコストで魔導兵を量産化させることができるぞい!」


 ……などと、研究材料にされる始末。

 挙句、イカリにより正義の在り方を問われ、意気消沈。

 お縄についたのであった。




 こうして、事件は解決した。

 先生たちからは「危ないことしちゃ駄目でしょ!」と怒られたものの、事件解決を評価され、国王から感謝状を贈られた。

 生前、得られなかった理解者を得ることができたエルト率いられたクラスが、この先、魔法技術界に革命を起こすことになるのだが……

 これはまた、別の話。


『先生! 素人質問で恐縮ですがッ‼』


 あと、自身を上回る頭脳の持ち主ばかりの担任になった先生の胃に穴が空くのも別な話。




【登場人物】

エルトハイム/エルト:転生魔法を編み出した魔法使い。ツッコミ担当。

ダニエル/ダニー:エルトの生前の上司。孫に甘い。

エリザベス/エリー:ダニーの生前の孫。女性初の魔法研究者。転生前のスリーサイズは88/62/88

キャロライン/キャシー:エリーの生前の後輩。エリザベスの活動に感化され、魔法研究に情熱を燃やすも、異端審問にかけられ、火炙りにされる。転生前のスリーサイズは91/64/93

ゼルフォード:キャシーの生前、近所に住んでてた浮浪児。後に魔法研究者として大成した努力家。

ロイドマン/ロイ:生前、ゼルフォードの故郷に侵略した軍事国家の科学者。自国の侵略活動に反発し、暗殺された。最終的な階級は大佐。

ニコラウス:ロイドマンの研究に感化された歴史に名を残した元天才児。歴史の教科書に載ってる。

エディソン:ニコラウスのライバル。なんやかんやで、互いにリスペクトしていた。

ウヒョルコフ:自称悪の天才科学者のマッドサイエンティスト。ナガレ=カブトの所属していた研究所を裏切り、暗黒大帝の下に下るが、実際はねず〇男ポジションだった。

ダークカイザー/カイ:世界征服を企んでいた元暗黒大帝。弱者が虐げられる世界を変えようとしていたが、家族を殺害されてから闇に堕ち、世界征服を目論むようになった。

最終的に、ナガレ=カブトと相打ちになるも、人類の可能性を見いだし、改心した。

今世では家族想いのいい子である。トランクス派。

カブト=ナガレ/イカリ=レイ:ダークカイザーと相打ちになった正義の科学者。

戦いの過程で、暴徒と化した一般市民に両親と幼馴染を殺害され、人類に絶望するも、仲間の支えにより再び立ち上がり、ダークカイザーを倒した。ブリーフ派。

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