追放された占い師の占い通りになりました。

「占い師、お前を追放する」

「そうですか……いずれ、この日が来ると思ってました……」


 心底辛そうに言う勇者。対して占い師は、ただ大きくため息を吐いた。

 魔王を倒すため、国に集められた勇者パーティー。

 その中で、唯一、善意の協力者として加入した占い師。


 だが国の一部の貴族たちから「平民の占い師など勇者パーティーに相応しくない」といちゃもんをつけられ、担当人事を抱き込まれてしまい、現在に至る訳だ。


「もう少し時間があれば……」

「まぁ、これも宿命でしょう」


 魔王討伐の納期が1週間前に迫り、抗議する余裕もない。

 占い師は仕方なく、追放処分を受け入れた。


「しかし、私の後任の方は見つかったのですか?」

「いや~それが、どこも人手不足でなぁ……」


 なんせ今は「勇者暗黒時代」と呼ばれるくらいだ。

 勇者による犯罪行為の増加に伴い、無関係の勇者パーティーの評判まで悪化の一途を辿り、結果、冒険者の減少につながっている。

 そんな時世に勇者パーティーに入ってくれる者など、よっぽどの物好きだ。


「せめて、贅沢は言わないから、戦闘の心得を持った人がいてくれればいいんだが……」

「なら、いい人がいないか占ってみましょう」

「え? 占いで見つかるの? 勇者パーティーのメンバーが?」

「やるだけやってみますよ。まぁ、最後のご奉公と思ってください」


 そう言って、占い師は水晶に念を込めるのだった。





「と言う訳で、仲間になってくれるやつを探しに来たんだが……」


「この辺りのはずなんだけどなぁ……」と残った仲間の聖女と戦士を連れて、占い師の指定した町へとやってきたのだが……


「しかし、こんなところに本当にいるのかな……?」

「勇者様、占い師さんを信用できないのですか?」

「そうだ! 占い師が今まで重要な局面で占いを外したことがあるか!? ないだろう!? 例えばこの間のピラミッドの時だって……」


 そう、あれは忘れもしない。

 ピラミッドにある秘宝を入手するために探索に向かったのだが、そこで占い師は「秘宝と同価値の宝を手に入れるだろう」といったのだ。


「その結果、私たちは彼の言う通り宝を手に入れました……」

「あぁ、【仲間との絆】と言うかけがえのない宝をな!」


 そう言って、戦士と聖女は互いに熱い視線を向ける。

 まぁ、それは良いのだが……


「その仲間の中に、俺含まれてないよね?」


 探索当日、風邪を引いて不参加になった勇者を他所に、絆を深めたのだ。

 ハブられ感、ハンパない。


「あの時は本当に大変だったなぁ」

「えぇ、私が落とし穴に嵌り、はぐれてしまって……」

「ようやく合流できたと思ったら、王家の幽霊が現れて戦うことになったんだよな」

「その幽霊さんも、かつての恋人の形見を護るために、ずっと現世に留まっていたんですよね」

「最終的にギルドマスターが、ピラミッドを国の重要文化財に指定し、これ以上荒らされないようにしたんだよな」

「結局、秘宝は手に入りませんでしたが……」

「なにを言う、俺はそれ以上の宝を手に入れたんだ」

「戦士様……」

「聖女……」

「俺いなかった時の話しないでくれる?」


 そして、ナチュラルにイチャつかないでくれる?

 疎外感。圧倒的疎外感を感じる。


「まぁ、いいや。話を元に戻そう。占い師の話だと、ここら辺の建物に仲間になってくれる人がいるって情報だけど……」


 そこまで言って、勇者は固まった。

 占い師の指定した場所。そこは、一軒の東洋風の建物だった。


【寿司屋 仁鳴狼になろう


 のれんに書かれた文字を読み、勇者は唖然とした。


 ――え? 寿司屋? 寿司屋ってなに? 寿司屋ってなんだYO!?


 寿司とはたしか、東の国【ヒュウガ】の代表的な料理だ。

 シャリにネタをのせ、握る料理だ。

 しかも、店の外観から、庶民には手を出しにくい、回らない方の寿司屋だ。


「え? ここ?」

「占い師の話だと、ここに仲間がいるはずだ!」

「いや、ここ寿司屋なんですけど!?」


 勇者のツッコミをスルーし、戦士は寿司屋の暖簾をくぐる。

 静かな店内に店主であろう男の「いらっしゃい」と言う声が響いた。


「なににしましょう?」

「タマゴで」

「お客さん、通だね」

「おい、勝手に注文するな」


 シレっと注文する戦士。

 しかし、店主は動じず 慣れた手つきで戦士の前に握りたてのタマゴをスッと置いた。


「あ、じゃあ私は大トロで」

「かしこまりやした」

「ちょっとぉ!? 聖女さん!?」


 ちゃっかり自分の分も注文する聖女。しかも値段のはる奴だ。

 聖職者なんだから清貧を心がけろよ!

 払うのはこっちなんだよ!?


「これ、経費で落ちるかな? 落ちないよなぁ……」と哀愁を漂わせる勇者。

 すると店主が話しかけてきた。


「お客さんたち、ここらじゃ見ない顔だね?」

「あぁ、実は魔王を倒す仲間を探しに来たんだ!」

「そうだった。寿司屋のインパクトで忘れてたけど、仲間を探しに来たんだった」


 本来の目的を思い出す勇者。

 そう言えば、占い師はここで仲間が見つかると言っていた。

 これを言葉通り受け取ると店主が仲間になっちゃうが、しかし、本当にそうだろうか?

 占い師は「仲間が見つかる」と言っただけで仲間=店主とは限らないのである。

 ひょっとしたら、店の常連さんの誰かかもしれない。

 そんなことを考えていると、店主は包丁を置いて……


「……遂にこの時がきやしたか」

「あ、これ店主が仲間になるパターンだ」


 お約束である。


「あっしでよければ、微力ながら力になりやしょう」

「やった! 勇者! 寿司屋が仲間になったぞ‼」

「やったじゃないよ!? なにこの状況を受け入れてんの⁉」


 仲間になりたそうな表情を浮かべている店主、もとい寿司屋とノリ気な戦士。

 当然、勇者は待ったをかける!


「寿司屋だぞ!? 分かってんの!? 非戦闘員なんだぞ!? 占い師よりもあり得ないよ!?」

「お客さん、侮らねぇでくだせぇ。寿司を握って二十と四年。そこらの素人には遅れをとりやせんよ」

「とっとるわ! だって人生の大半を寿司に捧げてるもん! むしろ、このまま寿司屋でいてくれた方が世の中の為になるわ!」


 さすがにこれは見逃せないと、勇者は待ったをかけるが、結局時間が無いことと戦士の無駄に熱いゴリ押し。そして、ちゃっかり聖女が高いものを頼み続け、とんでもねぇ金額になった料金を踏み倒すために、勇者は渋々、寿司屋を仲間にすることに。


「安心してくだせぇ、勇者様。あっしは寿司屋。悪党だろうと捌いてみやすぜ。寿司屋だけに」

「やかましいよ!」



 そして迎えた、魔王討伐当日。

 事態は予想外の展開を迎えた。


「くっ……貴様! なに者だ!? この魔王たる我と互角に戦うなどと……!?」

「単なるしがない寿司屋ですよ……‼」

「結構、戦えとる‼」


 占いは的中した。

 おおよその予想をひっくり返し、寿司屋は勇者パーティーと巧みに連携し、善戦していたのだ!


「いいぞ寿司屋! これなら勝てる!」

「寿司屋さん! もう少しです! 頑張って‼」


 魔王の攻撃に負傷した戦士と治療する聖女の声援を受け、勇者と寿司屋は魔王に攻撃を畳みかける。

 当然、魔王も反撃するが、その攻撃は全て寿司屋に防がれてしまった。


「ふっ、魚を捌く要領で攻撃も捌けるんですよ」

「やかましいよ‼」


 勇者はツッコみながらも、阿吽の呼吸で魔王を責め立てる。

 しかし、魔王も負けてはいない。

 膨大な魔力を拳に集中させ、勇者に向かって放ったのだ。

 まともに喰らえば、即死は免れない。

 しかし、その攻撃を受け止めた人物がいた。


 ――寿司屋である。


「くっ! なんて握力なのだ‼ 余の攻撃を真正面から受け止めるとは!?」

「お客さん、寿司屋の握力、舐めないでくだせぇ」

「どういうこと!?」


 魔王の渾身の一撃を防ぐ握力に絶句する勇者。


「そうか、寿司屋は握るのが仕事!」

「故に握力も半端ないのですね!?」

「なにその超理論!? なにすんなり受け入れてんの!?」


 ――って言うか、そんな握力あったら寿司がぐちゃぐちゃどころか圧縮されるわ!


 そのツッコミが不味かった。


「隙あり‼」

「しまった‼」


 勇者がツッコミを入れた一瞬の隙を狙い、魔王が聖剣を弾き飛ばす。


「これで、貴様は私を攻撃することはできまい‼」


 魔王の闇のベールを剥がす効果のある聖剣を失った今、魔王を直接攻撃することは出来ない。


 ――ここまでか!


 だが、幸運の女神は彼らを見捨てなかった。


「そいやぁぁぁぁぁ‼」

「ぐあああああああ!?」

「寿司屋ぁぁぁぁぁ!?」


 あろうことか、寿司屋は弾かれた聖剣をキャッチし、そのままの勢いで魔王を切り裂いた。


「ば、バカなぁぁぁぁぁ!? 光の聖剣は勇者にしか使えない筈ではぁぁぁぁぁ!?」

「お客さん、舐めてもらっちゃ困るねぇ……」


 信じられないと絶叫する魔王に寿司屋はニヒルに返す。


「生憎、光の聖剣だけに『ひかりもの』の扱いには覚えがありましてねぇ」

「いや、ひかりものってそう言う意味じゃないから‼」


 一番の見せ場を取られ、勇者の絶叫は魔王城中に響き渡ったのだった。





 こうして魔王は倒された。

 これにて一件落着となれば良かったものの……


「国王陛下! この勇者は国王の座を狙っております! 直ちに処刑すべきです!」


 ……と、件の貴族が難癖をつけ始めたのだ。

 しかし、国王はそんな貴族の訴えを一蹴。

 逆に貴族の不正の証拠を揃え、断罪したのだ。


「しかし、誰があの貴族の不正の証拠を集めたんだろう?」


 久々に寿司屋の店に来店した勇者は、当時を振り返り、首を傾げた。

 貴族の工作は念入りかつ狡猾で、そう簡単にはバレないようになっていたのに。

 すると久々に会った占い師があっさりと真相を口にした。


「あぁ、それ寿司屋の大将が密告したんですよ。あのバカ貴族、ここの常連でね? そうでしょ、大将?」

「え? マジで!?」


 驚く勇者に寿司屋はしたり顔でこう言った。


「あっしは寿司屋。にぎるのが仕事です。当然、『弱み』もにぎれやす」

「もういいよ!」



 おあとがよろしいようで。






◆登場人物◆

勇者……主人公。ツッコミ担当。好みのネタはしめさば。

聖女……戦士と恋愛関係。スリーサイズは97・60・99。大トロ大好き。

戦士……聖女とできてる。最初は必ずタマゴ。

占い師……今回の追放枠にして店の常連客。シメは焼きサーモン。

寿司屋……実は先代勇者だったりする。流浪の果て東の国ヒュウガに辿り着き、寿司に目覚める。勇者時代の稼ぎと店の売り上げの一部は貧困に苦しみ、飢餓にあえいだ結果、侵略行為に手を染めざる負えなかった、かつての魔王領へ寄付されているそうな……

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