追放した暗黒騎士がついてくる。ついてくる。どこまでもついてくる!
「暗黒騎士、お前は今日限りで抜けてもらう‼」
「な、なぜだ!? 勇者! 俺たちは仲間じゃないか‼」
突如、勇者から言い渡された追放宣言に戸惑う暗黒騎士。そんな彼に、聖女は冷めた視線を向けて告げる。
「アナタのような邪悪な存在は勇者パーティーに相応しくありません‼」
勇者パーティーは民衆の希望であるべき存在。そこに暗黒騎士など、血なまぐさい職業の人間がいてはいけないのだ。
横暴にも程がある聖女の主張に、パーティーのブレインたる賢者も賛同する。
「加えて、最早、貴方の力が不要なほど、我々は強くなりました。故に、これ以上在籍させる理由もありません」
「そう言う訳だ。今日限りで、お前は追放だ」
仲間たちの心無い言葉に、暗黒騎士は言葉を失い、だが、観念して「わかった……今まで、世話になった」と追放を受け入れるしかなかった。
「――これで、良かったんだよな?」
「えぇ……これも、彼の身の為です。出来ることなら、もう少し穏便に別れたかったのですが……」
「これくらいしなければ、あのお方は意地でもついてくるはずですからね……」
そう言って、暗黒騎士を追放した勇者パーティーは魔王城へ歩を進める。
その顔に先ほどまでの傲慢な態度は一切なく、ただひたすら仲間の無事と幸せ、そして罪悪感が込められていた。
「……できることなら、最後まで一緒に戦いたかった」
「仕方ありませんよ。なにせ、我々が向かう先は彼にとっては鬼門でしかない」
賢者の視線の先に位置する魔王城。そこは、一般的な魔王城のイメージとかけ離れた、純白で豪華な居城があった。
「あれが魔王の――『堕ちた勇者』の魔王城、か……」
魔王。それは人類に敵対する悪しき存在の親玉というのが一般的な認識だ。
しかし、彼らがこれから相まみえる相手は、かつて自分たちと同じ存在だった。
魔王になる前は、清廉潔白、高潔にして純朴な青年だったそうだ。
だが、あまりにも潔癖すぎた。
人類の負の面を、正義の限界を見続けてきた彼は、やがて、忠義を誓った国に裏切られ、捨てられた結果、勇者は新たな人類の脅威となったのだ。
「ヤツはかつて【聖者】と呼ばれていただけあって、神聖魔法の達人でもあったそうだ。それは魔王になった今でも変わらない。奴に対抗するには、闇属性の力が必要不可欠だ。だが……」
勇者は忌々しく、空を仰ぐ。
セリヌンティウスの城は、光り輝くオーロラのような結界に守られている。
勇者の能力である【神聖領域】だ。
効果は闇属性の生物を弱体化させ、肉体を浄化させるというもの。
闇属性の人間がこの中に入ると言うことは、毒の沼を突き進むことと大差はない。
これでは魔王の玉座に足を踏み入れるまで、持たないだろう。
だから、暗黒騎士を置いてきたのだ。
「例え、嫌われても仕方ない。恨まれてもしょうがない。俺たちは仲間の命が大事だ」
例え、自分たちが相打ちになろうとも、必ず魔王は倒して見せる。
決意を胸に勇者たちは、魔王城へと踏み込んだ。
【暗黒騎士に10のダメージ】
結界に入った瞬間、光属性のマナが肉体にまとわりつくのが分かる。
光属性たる勇者・聖女と様々な魔法を習得した賢者には、無害だが、なるほど。
これは生半可な闇属性の持ち主にとっては地獄だろう。
【暗黒騎士に10のダメージ】
現に迷い込んだ闇属性の低級魔獣・バットナ蝙蝠が一匹、耐えられず蒸発した。
やはり暗黒騎士を連れてこなくてよかった。
【暗黒騎士に10のダメージ】
……彼には本当に申し訳ないと思っている。
生きて帰れたら、謝罪しなければならないだろう。
もう一度、同じパーティーにと言うのは虫が良すぎるだろうが……
【暗黒騎士に10のダメージ】
「グハッ……‼」
「……なぁ?」
「はい?」
「気づいてるか?」
「……えぇ」
「うん……」
さっきから地の文に、ちょいちょい出てくる【暗黒騎士に10のダメージ】
そして、聞き覚えのあるうめき声。
三人は立ち止まり、一斉に振り向く。
そこにいたのは‼
【暗黒騎士に10のダメージ】
「……」
「「「……」」」
……気まずそうな顔をしながら物陰に隠れる暗黒騎士の姿があった。
なにしてんの? お前……
「ホント、なにしてんの!? ホント、なにしてんの!?」
「すまない……追い出されたとはいえ、今まで苦楽を共にしてきたみんなが心配で……その……つい……」
「つい、じゃねぇよ‼ あんな芝居までしたのに、無駄に終わったじゃん‼」
密かにストーキングしていた暗黒騎士を連れて、結界の境目までUターンする羽目になった勇者一行。
とりあえず、暗黒騎士を結界の外に正座させておく。
プンスコ怒る勇者。しゅんと仔犬のように縮こまる暗黒騎士。
賢者は思った。なんだこの絵面?
「あのさぁ……たしかに演技とは言え、お前を追放したのは悪かったよ。だけど、分かっただろう? この結界の中に入ったら、最悪、死んじゃうんだぞ?」
「だ、大丈夫だ! 問題ない‼」
「さっき、『グハッ‼』って言ってたじゃん‼」
「ついでに、ここまで戻る途中で回復魔法も使いましたからね?」
見栄を張る暗黒騎士にツッコミを入れる勇者。
聖女もため息を吐いて、諭すように言う。
「暗黒騎士様、勇者様の気持ちもお考えになってください。勇者様は大切な仲間であるからこそ、敢えてきらわれ者になってまで、あなたをパーティーから追放なさったのですよ?」
「それは分かる」
「なので、私たちを信じて待っていてくださいませんか?」
「だが断る」
「もう! この子ったら!」
聖女の説得を跳ね除け、ぷいっと膨れる暗黒騎士。
あまりの聞き分けのなさに、聖女はおかんみたいになった。
しかし、暗黒騎士は怯まない。
「俺は……暗黒騎士と言うだけで、だれともパーティーを組めなかった。そんな中、お前たちだけは職業や肩書で判別せずに仲間にしてくれたんだ……」
「……」
「大切な仲間なんだ……‼」
「……」
「だから、俺は仲間の為なら、この命、惜しくないと思ってる‼」
「お前なんで暗黒騎士やってんの!? それ、光側の台詞だよ!?」
情熱的に己の想いをぶつける暗黒騎士に、その場の全員が涙した。
勇者に至っては感動のあまり「俺は仲間に恵まれたよ‼ ちくしょう‼」と叫ぶ始末である。
こうして、勇者パーティーは復活した。
しかし、どれだけ性格が光属性でも、現実は厳しいもので……
「現実問題、この結界をどうにかしないといけないんですよねー……」
「なんかいい案あるか?」
「根性で耐える」
「却下」
暗黒騎士にあるまじき精神論である。昨今は小学校でも、猛暑日は外での体育をしないというのに。
「やってみなければ、分からないだろう! 俺は、お前たちのためになら、この命、捨てても良いと思ってる!」
「いやだから、覚悟が重すぎるよ‼」
「そもそも、魔王のところまで行くのに力尽きちゃいますって‼」
賢者の忠告を無視し、暗黒騎士は結界の中に足を踏み入れる。
【暗黒騎士に10のダメージ】
「ぐふっ‼」
「ほら見ろ! 言わんこっちゃない‼」
……案の定、ダメージが入る。
しかし、それでも暗黒騎士は怯まない。
【暗黒騎士に10のダメージ】
【暗黒騎士に10のダメージ】
【暗黒騎士に10のダメージ】
一歩進むごとにダメージが入る。
【暗黒騎士に10のダメージ】
【暗黒騎士に10のダメージ】
【暗黒騎士に10……9……? 8……7……あ、6のダメージ】
「ちょっと堪えた!?」
しかし、結局、ダメージが入ることに変わりがなかったので、断念。
「もう、素直に回復しながらいく?」
「途中で魔力切れになりかねないから却下。アイテムの在庫もないよりあったほうがいいしね」
「じゃあ、やっぱり、暗黒騎士様はおいていく……」
【暗黒騎士は仲間に入りたそうな目で見ている】
「……ですよねー」
あれもダメ、これもダメ。
最早、完全に手詰まりだ。
こうしてる間にも、魔王の魔の手が世界に及んでいるというのに。
「……仕方ない、あれをやるか」
……と、ここで賢者が妙案を出した。
「? どうした賢者。なにか、案があるのか?」
「えぇ……実はこの【神聖領域】は闇のマナを持つ生物だけに有用でして、物質や魔法自体には効果がないんですよ」
現に魔王対策に魔剣を装備してる勇者や闇魔法も使える賢者には影響がない。
「なので、こういう方法を使おうかと――」
賢者の策に耳を貸す勇者たち。そして――‼
「よく来たな勇者たちよ‼ だが、ここでキミたちは終わりだ‼」
「それはこっちの台詞だ‼ お前の野望もここまでだ‼」
「人は醜く愚かだ‼ 私は腐った人間社会を浄化する‼」
「お前の言う通りかもしれないな……でも、人は間違いを正すことができる! 過ちを認め成長できるんだ‼」
「ならば、その正しさを証明して見せろ‼」
ついに魔王の間に辿り着いた勇者一行。
純白の翼を大きく広げる元勇者の魔王。
対する勇者たちも臨戦態勢に入る。
杖を構える賢者。神に祈りを捧げる聖女。
そして――
「いくぜ! 暗黒騎士‼」
『応ッ‼』
剣を掲げ直立不動の体勢の暗黒騎士を構える勇者!
「いや、ちょっと待て!」
「なんだよ!? これ結構重いから後にしてくれ‼」
「いや、おかしいだろ!? なんだそれは!? 明らかに人間だろうが!?」
魔王の言う通り、勇者の装備しているのは暗黒騎士だ。
その肉体は鉄のように……と言うか、完全に鉄と化しており、剣を掲げる態勢のまま固まっている。
しかし、勇者は平然と言ってのけた。
「これは、聖剣『ダークナイト』ッ‼ 仲間の想いが詰まった武器だ‼」
「仲間の想いが詰まってるって言うか、仲間そのものだろう!?」
「うるさいな‼ これでも結構、頑張ったんだよ‼ みんなで考えた妥協案なんだよ‼」
賢者の秘策。
それは【神聖領域】が生物にしか作用しないことを逆手に取り、暗黒騎士に【神鉄化】の魔法をかけることで、暗黒騎士自身を武器とすることだったのだ。
いや、大変だった。本当に大変だった。
単に【神鉄化】させるにしても、暗黒騎士の力が使えなくては意味がない。
故に、絶妙な加減で賢者と聖女が【神鉄化】したままでも意識が保てるように調整したのだ。
おかげで賢者は円形脱毛症になった。合掌。
「お前、それでいいのか!? 仲間武器扱いでいいのか!?」
「本人が良いって言ってるからいいんだよ‼ なぁ!?」
『あぁ! 仲間を護るためなら、俺は道具で構わない‼』
「なんという高潔さ‼」
もう、暗黒騎士だと言うことすら忘れかねない光っぷりに、魔王は人間への憎しみを忘れかける。
「とにかく、仲間の為に、お前を倒す。いくぞ! みんな‼」
「「『応ッ‼』」」
――こうして魔王との激戦を制し、勇者たちは世界に平和をもたらした。
その後、うっかり【神鉄化】したままの暗黒騎士が記念像にされかけたのは、いい思い出である。
登場人物
【暗黒騎士】
代々、邪神に仕える家系。しかし、邪神が「自分探しの旅にでます」とか言い出して失踪。
その後、なんやかんやで冒険者に。しかし、血なまぐさい職業の為、ずっとボッチだった。
勇者パーティーに参加後は、初めてできた仲間でもあることもあって、仲間想いの性格に。
ちなみにモットーは『一日一善』
【勇者】
代々勇者の家系に生まれた。だが割と庶民派。
【聖女】 スリーサイズ 79・55・82
元孤児院出身のシスター。好きな寿司ネタはしめ鯖。
【賢者】
魔法学園を首席で卒業した。円形脱毛症は無事回復した。
【魔王】
元々は勇者だったが、仲間の裏切りに会い闇落ち。
神聖属性の魔法を自在に操る。
ちなみに闇落ちしたのは、焼肉屋で育てたロースを取られたから。
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