ギルドマスターと追放者問題


「まったく、頭の痛い話だな……」

「どうしたんですか? ギルドマスター」

「あぁ、キミか見てくれ。この書類」

「あぁ、また追放案件ですか? 困ったものですね」

「まったくだよ」


 王都にある冒険者ギルドの本部。

 ギルドマスターの頭痛の種である書類を見て、秘書も頭を痛めた。

 昨今、冒険者界隈ではパーティーメンバーの追放問題が深刻化している。


 被害者は主に支援術師や戦闘職以外の冒険者。理由の大部分は「使えないから」「役立たずだから」「足手まといだから」という似たようなものだ。

 そして、そうしたパーティーに限って、大半が問題児、そして、実力が伴っていない者が多いのだ。


「最近では追放した場合の書類提出を義務化してるし、規則も厳しくしているが……それでも減らないんだよなぁ」


 ちなみに提出書類には魔術的な処理が施してあり、追放理由に嘘を記入するとペンのインクが赤くなるようになっている。

 馬鹿正直に事実を伝える者などいないからだ。


「とは言え、普通に追放される側にも責任がある場合もあるから、目を通さないといけないんだよな」

「最終的な判断はマスターが下さないといけませんしね」

「まったくだよ」


 そんなことをブツブツ言いながら、ギルドマスターは新しい書類に目を通す。



・追放理由:音楽性の違い



「バンドか」


 そんなんで追放するなや。当然、却下である。


・追放理由:特撮番組『ウルトライダム・ヴァンの最強フォーム』で解釈違い。



「いや、荒れるけども」


 終わりのない戦いである。気持ちは分かるが受理しない。



・追放理由:戦い方が『実写版〇ビルマン』のガンアクションシーン並に酷い。



「……これは仕方ないな」


 速攻で受理。冒険者は最低限、自分の身を護れないといけない。

 故に、学芸会レベルの身体能力では問題外である。

 って言うか、よく冒険者になれたな。



・追放理由:何かある度に俺の尻を凝視してくる(ちなみに追放する相手は男です)



「悪いが人間関係のトラブルは対話で解決してくれ」

「どっちが受けになるんでしょうか?」

「深堀しちゃ駄目!」


 触らぬ神にたたりなし。

「ウホッ!」で「アーーッ!」な案件にはなるべく触れないようにしておこう。



・追放理由:追放したのにまだ居座っている。しかも、恨めしそうな目でこちらを睨んでくる。血まみれで半透明だし……なんとかしてください。



「お祓いに行け」


 むしろ余罪追及だろう。秘書に手続きを頼み、騎士団に報告する。



・追放理由:魔物使いがテイムした魔物の面倒を僕が見る羽目になった。



「子供か、そして、お母さんか」


 面倒見切れないならテイムすな。


「……どれもこれも、しょうもない理由だな」

「ギルドをなんだと思ってるんでしょうね?」

「まったくだ」









「それもこれも、全部、あなたの所為ですよ? “元”ギルドマスター?」


 言うとギルドマスターは視線を一人の男へ向ける。

 椅子に縛られ、目隠しをされ、猿轡を嚙まされた、“元”ギルドマスターに。

 彼は恐怖のあまり、冷や汗や涙を流し、冬でもないのにガタガタと震えていた。


「すいませんねぇ……手荒な真似をしてしまって。でも、これも仕方ないことなんですよ。冒険者ギルドを改革するために、ね?」

「……‼」


 ――近年、冒険者ギルドの風紀は悪化の一途を辿っている。


 その理由は多岐にも渡るが、大部分が冒険者の安易な登用だ。

 この世界では魔物を討伐する仕事の需要が絶えない。

 故に、どんな人間でも簡単に冒険者になれる。

 例え人格破綻者でも、犯罪者でも、いないよりはマシと言う考えで。

 しかし、そのシステムにも限界が生じ始めた。


「最近じゃ、魔物への対策の為、エルフやドワーフ、果ては魔族と国交を結ぶ国も増え始めた。村でも自警団を設立したり、狩人を雇ったりする場所も増えてきている。なのに冒険者ギルドだけは未だに不変なのはおかしいですよね?」


 真っ当な神経を持つ冒険者は既に、真っ当な職場を見つけ始めている。

 今、ギルドに残っているのは、冒険者紛いの犯罪者だ。

 そして、それを囲っているのは現在のギルド上層部であった。

 彼らは冒険者たちを利用し、邪魔者を消し、利権を独占しようとしていたのだ。


「ですが、それもあなたで最後です。残りの人たちは、“一身上の都合により”退職なさったそうですが……どうしたんでしょうね?」


 惚けた口調で言う現ギルドマスターに元ギルドマスターは、戦慄する。

 彼の眼は笑っていない。むしろ、憎しみを隠していない。

 現に彼は引き出しから銃を取り出し、銃弾を込め始めた。


「さて、貴方の論法では『役立たずは追放』らしいので、私もそれを見習わせていただきます。安心してください、私も、いずれ“地獄そちら”へ行きますので」


「そこは、私“たち”もでしょう?」と秘書が呟くも、もう、元マスターの耳には入っていなかった。


「では、改めて……元ギルドマスター、あなたを追放する」


 室内に銃声が響いた。

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