もう遅い……もう、遅いんだ……

「お前を追放する!」


 ――あの時、何故言ってしまったのだろう? 後悔しても、もう遅い。もう、遅いのだ……


 魔王を倒すべく結成された勇者パーティーは、陰鬱な空気に支配されていた。

 原因は三日前、些細なことで支援術師を追放したことだ。

 魔王討伐のために戦いの日々を送ることで、フラストレーションが溜まっていたのもあったのだろう。

 頭に血が上ってしまった勇者は、思わず心にもないことを口にしてしまったのだ。


(すぐに謝れば良かったんだ……)


 俯き、己の短慮さを責めずにいられない。

 だってそうだろう? 苦楽を共にした仲間を簡単に切り捨てるなど、勇者にあるまじき行為だ。

 なのに、変に意地を張ってしまい、謝罪を先延ばしにしたのが悪かった。

 翌日、謝りに行った時には、すでに支援術師の姿はなかった。


(なんで……なんで……俺は、あんなことを言ってしまったんだ……)


 だが、後悔しても彼は帰ってこない。


(俺は最低の人間だ……あんなことで、追放するなんて……)


 再度、勇者は後悔する。

 そう、支援術師を追放した原因は……



「たかが、プリンを食べられただけで……」



 ……本当にくだらない理由だった。


 思うように魔王討伐が上手くいかないストレスを和らげるために、楽しみにとっておいたプリン。

 それを支援術師に食べられたのが始まりだった。

 彼の言い分も聞かず、一方的に怒鳴りつけ、最後には「追放する!」と言ってしまったのだ。


「俺は……なんて愚かなんだろう……」


 支援術師はこのパーティーに一番貢献してくれた、縁の下の力持ちなのに……

 いつも、裏方で自分たちを支えてくれたのに……


 勇者は己の未熟さを呪わずにいられなかった。




(……どうしよう、本当は私がプリン食べたなんて言える空気じゃない!)


 そんな勇者の姿を見て、盗賊は自責の念に駆られていた。

 勇者のプリンを食べた真犯人である彼女は、真実を告げるべきか迷っていた。


(だって仕方ないじゃん! 名前書いてなかったんだもん! プリンおいしいもん!)


 ちなみに支援術師が食べていたプリンは彼が自分で買ったものだ。彼は無実なのだ。

 なのに自分が名乗り出なかったせいで冤罪を着せられたのだ。


(今さら謝っても、もう遅いよね……? あ~~~~~、アタシのバカ! こんなことで勇者パーティー崩壊とかありえねぇよ!)


 そう思いながら盗賊は己の所業を激しく後悔していた。



(あれ……? これドッキリだよな? 支援術師、ちゃんと帰って来るよな?)


 そんな二人を他所に、武闘家は隣の部屋で飾り付けをしていた。


『勇者くん、誕生日おめでとう‼』


 そう書かれた垂れ幕を張りながら、未だに戻ってこない支援術師に想いを馳せる。

 今日は勇者の誕生日だった。

 なのでサプライズパーティーにしようと、二人で相談して決めたのだった。


(しかし、支援術師も味なことするよな。追放されたのを逆手にとって、サプライズパーティーをしようだなんて)


 そもそも、勇者が本気で追放なんてする訳ないだろうと分かっていた。

 支援術師も単なる失言で愛想を尽かす程、心は狭くない。

 だが、仮にも勇者なのだから言動には注意してほしい。

 そう思った支援術師は戒めも込めて、今回のサプライズパーティーを企画したのだ。


「さてと、予約していたケーキを取りに行かなきゃな!」


 そう言って武闘家は街に向かった。

 呑気! 圧倒的呑気! でもそこが彼の良いところ!



(……どうしましょう、本当のことを言ったほうがいいでしょうか?)



 そんな武闘家の手伝いをしながら、聖女は悩んでいた。

 実は三日前、サプライズパーティーの企画をした後、支援術師の実家から連絡が入ったのだ。

 内容は「ばあちゃんがギックリ腰になった」

 おばあちゃん子な支援術師は急いで実家に一時帰宅することになった。


「悪いけど聖女さん、みんなにこのこと伝えておいて」

「はい、わかりました」


 そう言って、支援術師を見送った聖女だが、うっかり伝えるのを忘れた結果、現在に至ると言う訳だ。


「幸いおばあさんのお怪我は軽かったようですし……今日あたり帰ってこれるそうなので大丈夫でしょうが……」


 正直、勇者があそこまで落ち込むとは思わなかった。

 この三日間、お通夜のような空気を醸し出す彼に、本当のことを伝えるべきだっただろうが、色々忙しくて後回しになってしまったのだ。


「……ま、いいか」


 どうせこの後、顔を合わせるのだから。このままでいいや。

 そう思って聖女は準備を続けるのだった。


「まぁ、これに懲りたら勇者様も、もう少し、心に余裕を持ってほしいものです。ただでさえ、一人で抱え込みやすいのだから」


 そうしてため息を吐くと、宴会用の鼻眼鏡の吹き戻しが音を立てて、伸びたのだった。

 彼女も彼女ではっちゃけていた。



(こいつら、オモシロwwwww)



 そんな中、魔法使いは落ち込む勇者をあざ笑っていた。


(そんなに落ち込むなら最初から言うなよwwwww)


 心の中でケラケラ笑う魔法使い。

 彼は知っていた。支援術師が冤罪であったことも。盗賊が真犯人だったことも。

 支援術師と武闘家・聖女の三人がサプライズパーティーをしていたことも。

 支援術師のおばあちゃんがギックリ腰になったので一時帰省したことも。

 全部知った上で放置していたのだ。


 これはサプライズパーティーでのリアクションが楽しみだ。


「魔法使い……俺はどうすればいいんだ……?」


 そんな彼の内心を知らない勇者は、罪を償うにはどうすればいいか尋ねる。

 対して魔法使いは真顔で一言。


「もう遅いのですよ……勇者様。賽は投げられたのですから……」


 てな感じで意味深な台詞を吐き、すっとぼけるのだった。




 その後、支援術師も無事戻ってきて、誕生会を開催。

 ドッキリだと分かって、泣きながら安堵した勇者は支援術師にちゃんと謝罪。

 その後、盗賊も真実を明かし、勇者に謝罪。

 この一件で絆が深まった勇者パーティーは無事、魔王討伐を成し遂げたのだが、それはまだ先の話である。





登場人物

・勇者

直情的だけど本当はいい人。今回の一件で反省しました。


・支援術師

おばあちゃん子。縁の下の力持ちである。


・盗賊

プリンとか勝手に食べちゃうけど根はいい子。3サイズは78/52/76


・武闘家

素直! 圧倒的素直!


・聖女

割とノリがいい。3サイズは83/61/84


・魔法使い

性格悪いなこいつww でも根は良い人なはず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る