追放されそうだけど、色々もう遅かった。


「センタロウ! 貴様を追放するッ‼」


 とある宿屋に木霊する勇者・キタニオンの声。

 同時に魔王討伐を目指す勇者パーティー一向に緊張が走る。


 聖女・ウェスティーナは「待ってください!」とキタニオンに抗議する。

 剣聖の称号を持つアズマも、賢者と称えられるサウスも意義を申し立てる。

 一番、ショックを受けていたのは異世界人・中野千太郎(なかのせんたろう)本人だ。

 自分たちは仲間じゃなかったのか? 少なくても自分はそう思っていたのに……‼

 無理矢理、召喚され、大した能力がないからと強制的に荷物持ちとして参加させられた。

 それでも、なんとかやってこれたのは、仲間であり親友であるキタニオンに支えられてきたからだ。

 ショックのあまり俯く千太郎。

 だが、キタニオンはそんな彼に厳しい眼差しを向けたまま――


「って言えって言われたけど、どうしよう‼」

「いや、お前の意見じゃねぇのかよ!?」


 一転して困った表情を浮かべ、頭を抱えて突っ伏した。




「実は国王から予算削減のため、人員を削るとか抜かしてきてな……その為、パーティーメンバーを一人追放するように命令されたんだ……」


 だが、腐っても勇者パーティー。

 誰か一人欠けても、魔王は倒せないだろう。

 だが、仮に一人選べと言われたら、それは間違いなく千太郎だ。

 荷物持ちなど誰でもできる。それが上の見解である。


「俺、追放なんて嫌だよ! 俺たちは仲間じゃなかったのか!?」

「お前が言うんだ、その台詞……」


 だが、それはあくまで上の意見だ。

 現場は違うのだ。

 荷物持ちだって、立派な役目だ。

 なにより、苦楽を共にした仲間なのだ。

 追放なんて嫌に決まってる。


「私だって嫌よ! 魔王を倒したら私は千太郎さんと故郷で式を上げて、サッカーチームが出来るくらい子供を作る予定なんだから‼」

「俺、初耳なんだけど、それ!?」


 聖女のストロングスタイルな未来予定図にドン引きする千太郎。

 サッカーチームってどんだけ、搾り取られるんだよ、俺。


「拙者も反対でござる! せめて、『イヌピース』いや『パンダー×パンダー』の連載が終わるまで追放を待ってもらうことは出来ないのでござるか!?」

「それはお前が見たいだけだろう!?」


 千太郎の能力【サブカル取り寄せ】で手に入れた漫画にすっかりドはまりしたアズマ。

 いや、気持ちは分かるが別な言葉で取り繕って欲しかった。

 あと『パンダー×パンダー』は休載多いから、本当にいつになるか分からないよ。


「すまない……王都には『鰐滅』の連載が終了するまでと誤魔化していたから、この手は使えない……連載が終わったら『アニメが終わるまで!』と誤魔化してきたけど『いい加減にしろ』って怒られて……」

「くっ……せめて『二人はリリズマギカ』が終了するまでにしておけば……あれ、次のシリーズが始まれば、なんとなく誤魔化せたのに……」

「そうかなぁ?」


 いや、確かにスーパーな戦隊しかり、仮面なライダーしかり、新番組が始まれば見たくなるけど。沼に引きづりこまれるかの如く。


「そうでゴザルか? 今作はハズレっぽかったでゴザル。なんか、光堕ちキャラの参入が遅かったし、それまでのドラマも薄いし……」

「貴様、言ったな? 良いだろう、表に出ろ」

「戦争が始まった!」


 推しを否定されキレたサウスがアズマに決闘を申し込む。

 気持ちは分かるが落ち着け。


「納得できません! それならば、私もパーティーを抜けます‼」


 バンッ‼ と机を叩き、普段の温厚さからは想像もつかない程怒るウェスティーナ。


「そして、二人で故郷に戻って、幸せな家庭を築きます! あ、ベイビーは三十人くらいでいいですか!?」

「いい訳ないだろ。ミイラになるわ」


 聖女のハッスルぷりにドン引きする千太郎。

 どんだけ搾り取るつもりなんだよ!


 隣ではサウスとアズマが推しについて熱く語り合ってるし、最早、追放前から崩壊が始まってしまった。


「これが『もう遅い』という奴なのか?」

「人間的な意味では合ってると思う」


 でも、せめて、追放されてから言うべきだろ、それ。


 そんな時であった。勇者の通信用の魔導水晶が赤く発行し、けたたましい音を鳴らす始めたのは。


「すいません、他のお客様の迷惑になりますので……」と宿屋さんに注意され、とりあえず謝ってから通信に出ると、王国の宰相が通信に出た。

 宰相は国王と違い、召喚された千太郎の実を案じてくれた、気のいいおっさんだった。


 ……そんな宰相が魔王と握手してるのは、なんの悪夢だろうか?


『勇者・キタニオン! すまないが、キミたちの魔王討伐の旅は打ち切りだ。今後、我々は魔族と和平を結ぶことになった!』

『えぇ!?』


 まさかの衝撃発言に、驚愕する一同。

 冗談だと思ったが、映像の端っこの爆心地に程よくローストされて倒れている国王が見えたことから、事実だと分かった。


「い、一体、どうして……!?」

『ふっ、千太郎どののおかげだ!』


 そうして、宰相は懐からあるものを取り出した。

 それは『鰐滅』の単行本であった。


『これを通して外交を始めたら、意外なほどに気が合ってしまってな』

『今後は互いの文化を通じて、平和を維持していきたい』

「奇跡おきた‼」


 そもそも、今回の戦争は国王と軍部が独断で起こしたもので、国としては迷惑していたそうだ。

 本格的に戦争が始まっては、もう遅い。

 そう思った宰相は、魔王と内通し、必要最小限の犠牲(国王とか)で戦争を回避したのだ。



「これが『もう、遅い』なのか……?」

「多分、違うと思う」



 その後、この国は近くの大国に平和的に吸収され、魔族との交易の中心となった。

 千太郎は能力をフル活用し、文化の発展に協力。

 後に『異世界人自治区』の代表となるのだが、それはまた、違う話。



「そして、聖女とのラブロマンスが映画化されるのも、また違う話……」

「ねぇよ」


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