勇者ですがパーティーを追放されました。その後……


「勇者様、あなたをこのパーティーから追放します」


 パーティーメンバーからの追放宣告にリーダーである勇者はしばし呆然とするも、すぐに我に返ると、「ふざけるな!」と怒鳴りつける。


「なにを言っているんだ!? 魔王城はすぐそばだ! それなのに追放だと!? ふざけるな!」


 魔王に対抗できるのは聖剣を手にした勇者のみ。

 なのに、その勇者を追放する? 冗談でも言って良いことと悪いことがある。

 だが、彼らは真剣だった。


「ふざけてんのはテメェだろうが。知ってるんだぜ? お前、あのクソ国王におふくろさんを人質に取られてるらしいじゃねぇか……」

「ッ!? なぜそれを……!?」

「みんな知ってますよ。『勇者様は魔王を倒さなければ母親の命はないと脅されてる』って」

「……」


 ――仲間の言う通りだった。


 今まで数々の勇者が魔王討伐に挑んだが、すべてが返り討ちにされ、残ったのは自分一人。

 そんな自分に死に物狂いで魔王を倒させるべく国王は母親を人質にとった。

 父を早くに亡くし、女手一つで育ててくれた母親を勇者は見捨てることは出来ず、今日まで魔王討伐の旅を続けてきた。だが……


「今回ばかりは話が別だ。魔王の力は強大過ぎる」

「魔王を倒したとしても、あの国王のことだ。貴様を生かしてはおかんだろう……」

「それは……」


 反論ができなかった。

 はっきり言って、今の国王は暗君だ。

 魔王討伐を理由に各地に重税を課し、歯向かう者はすべて処刑。

 そんな者が魔王を討伐した勇者をどうするか? 母を人質に取ったことから容易に想像できる。


 進むも地獄。退くも地獄。

 最早、勇者はどうあがこうとロクな結末は免れない。


「だから、キミを追放する。そうすれば国王の眼を一時的に逸らすことが出来るハズだ」

「その間、貴様は国に戻り母親を取り戻せ。そしてそのまま、逃げろ。手筈は整えている」

「魔王の方も俺たちが何とかする。倒すのは無理でも、足止めくらいならなんとかできるぜ」

「あなたは十分戦いました。あとは私たちに任せてください」

「み、みんな……」


 そんな自分を思い、彼らは断腸の思いで追放を言い渡したのだ。

 その優しさに思わず勇者の瞳から涙が零れる。

 だが、その優しさに甘える訳にはいかない。なぜなら……


「……キミたちの気持ちは分かった。だが、その前に確認したい。キミたちの職業は?」

「パン屋だぜ!」

「花屋よ!」

「文具屋です!」

「駄菓子屋だ!」

「商店街か!」


 そう。彼らは民間人だった。


 現在、この大陸は「勇者暗黒期」と言えるほど勇者のイメージ像は悪化の一途を辿っていた。

 勇者と言う特権階級を笠に着た連中が民間人に危害を加えているのが原因だった。

 その犯罪は多岐に渡り民家に押し入っての窃盗・強盗・器物破損は序の口。

 奴隷の売買や強姦・果ては殺人まで犯す者もいると言う。


 当然、そんなことを繰り返す連中に協力する者は少なく、他の勇者パーティーに所属する者は皆、勇者に取り入り甘い汁を吸いたいか、無理矢理任命されたかのどちらかだ。

 そんな情勢の中で、彼らは自ら志願し勇者パーティーに加わってくれたのだが……

 流石に、彼らに魔王をどうにかできるかなんて思えなかった。

 だって普通に民間人だもん。

 ここまで来れたのも、ほとんど運みたいなもんだもん。


「そもそもなんでパン屋と花屋と文具屋と駄菓子屋なんだよ……鍛冶師とか道具屋ならまだなんとかなりそうなのに……」

「おいおい勇者、パン屋を舐めるなよ? 俺のパンはわざわざ魔王軍から買いに来る奴がいるくらいうまいんだぜ?」

「私もです。先日魔王軍の四天王の方がプロポーズの為にウチの花を買っていかれました」

「なに、敵に塩送ってんだよ? せめて毒とか仕込んでおいてよ」

「「そんなことパン屋(花屋)の誇りにかけて出来る訳ねぇだろ(ないでしょ)!」」

「なにこの人たち、めんどくさい」


 職業意識の高い二人に勇者は頭を抱えたくなった。

 そうなると武器とか扱えるのは文具屋くらいだが……


「ふっ、僕を舐めないでください。鉛筆、カッター、Gペン、彫刻刀……文具には意外と刃物や先の尖っているものが多いんですから」

「頼りないよ」


 どう考えても鎧とか貫通できないだろう。

 極めつけは駄菓子屋だ。この人、なんでついてきたの?


「ふん、駄菓子屋を舐めるなよ? 俺は全国めんこ大会のチャンピオンだぞ?」

「だからなに!?」

「もっともアイツに敗北したから元が付くがな。俺は魔王を倒し、奴を倒す力を身につける。そして、俺の王者のプライドを取り戻す!」

「めんこの話ですよね?」


「アイツって誰だよ……」とツッコミを入れながら勇者はあきれ果てる。

 あと、魔王を倒してもプライドは取り戻せませんよ?


「とにかくダメだ! 魔王軍は強大だ! キミたち民兵に任せておけない!」

「それは俺たちも同じだ! お前の高潔さに惹かれて俺たちは勇者パーティーに入ったんだ! そんなお前をみすみす死なせられるか‼」

「……」


 強情な仲間の姿に勇者はため息を吐いて椅子に座る。

 どうやら互いに譲れないようだ。それならと、勇者は一つの手段を取ることにした。


「……分かった。その追放処分、甘んじて受け入れよう。だが……」


 瞬間、勇者の指から青白い粒子が放たれ、仲間たちに降りかかる。


「!? な、なにを……?」

「キミたちの気持ちはうれしいけど……僕は魔王と戦うのを止めない。止める訳にはいかないんだ……」


 言い終えると同時に仲間たちはその場で昏倒。深き眠りについた。

 勇者の唱えた魔法は《睡眠スリープ》。文字通り相手を眠らせる魔法だ。

 加えて今回は消費魔力を大目に使った。当分、目を覚まさないだろう。


「本当にお一人で行かれるのですか?」

「あぁ……みんなのことをよろしく頼む」


 仲間たちが眠ったのを確認し、後のことを宿屋の主人に任せると勇者は一人、魔王城へと向かった。


「すまない……みんな……」


 こんな自分についてきてくれた仲間たちの気持ちを踏みにじる形になってしまったことを詫びながら、それでも勇者は進み続ける。


 この世界に勇者は自分しかないのだから。




「よく来たな勇者よ……決着の時は来た……!」

「あぁ……すべて終わりにしよう……!」


 ゴーレムやスケルトンなど、数多の魔物を退けて辿り着いた魔王城の最奥にたどり着いた勇者の目の前には全身を漆黒の鎧に身を包んだ魔王の姿がいた。

 周囲には誰もいない。側近の四天王の姿すらなかった。

「罠か?」と一瞬思うも、気配を感じない。


「配下の者はいない。私一人だ……」

「どういうことだ……?」

「貴様程度、私一人で十分だと言うことだ……‼」


 勇者の疑問に答えると同時に魔王は魔剣を抜き、勇者に斬りかかる。

 勇者も聖剣を抜くと、魔王に斬りかかった。


 死闘は長時間続いた。魔力も尽き、互いの剣が折れてもなお、互いに戦うことを止めなかった。だが、決着は意外な形で着いた。


「!? な、お前は……!?」

「……どうやらバレてしまったようですね」


 不意に兜が外れ、魔王の正体が明らかになる。

 いや、正確には魔王ではない。その顔に見覚えがあった。

 旅の中、何度も刃を交えた四天王の少女だった。


「なぜ、お前が!? 魔王はどうした……!?」

「……今は私が魔王です。先代の魔王は……我々が滅ぼしました」


 最早抵抗する気力もなくなった魔王だった少女は経緯を語る。


 魔王の領地は度重なる戦争で、疲弊しきっていた。これ以上、戦争が長引けば国は衰退し、民は苦しむことになる。

 そう思い、彼女は内政に力を注ぐように魔王に進言したのだが……


「……あの愚王は『民などほっておけ』と、『人類を滅ぼすまで戦争は止めん』と抜かしたんですよ」


 説得は続けたが、聞き入れず、逆に不興を買った少女から四天王の称号を剥奪。

 その上、幽閉し、拷問にかけていたらしい。


 しかし、彼女を助けたのは同僚の四天王たちだった。

 彼女の国を思う考えに共感した彼らは魔王に反旗を翻した。だが……


「みんな……死んでしまい……私だけが残った……」


 魔王自身は大したことはなかった。だが、魔王に与する兵たちの数は多く、一人、また一人と討ち取られていった。

 だがそれでも奮闘し、最後の一人が魔王と刺し違え、自分だけが残ったらしい。

 仲間の死を思い返し、嗚咽を堪えながら語る少女に勇者は何も言えなくなった。


「その後……私は、王国に和平の書状を送りました……けど……」

「あの国王はそれを受け入れなかったんだね……」


 当然だ。

 勇者の身内を人質にとるような王だ。長年の宿敵と和平を結ぶなどありえない。

 ひょっとしたら、自身を再度魔王討伐に向かわせたのもそれが関係しているのだろう。


「ですので私は、私が出来ることを行いました……民を別の大陸へと逃がし、魔王となった私が討たれることですべてを終わらせようと……」

「……城内の魔物が人工的なものだったのはそう言うことか?」

「えぇ……そうです……そうすることが残った私の責務だから……」


 これで話は終わりだと、少女は言い、トドメを刺すように促す。

 だが、勇者はそれを拒否した。


「……魔王を倒し、母親を助けるのが僕の願いだ。だが、魔王はキミが倒したんだろう? なら、僕の役目は終わった……それにキミには残った民を率いなければならないんじゃないか?」

「……それは」


 王を失い、指導者のいない魔族たち。

 彼らをまとめ、率いる者が必要だろう。


「……だから約束してくれ、もう人間を脅かさないと。そうすれば、僕は真実を明かさない。もう、これ以上、戦争に振り回されるのは、御免だから……」

「……分かりました。そうおっしゃるなら」


 思考の末、少女は提案を受け入れることにした。

 だが、その瞬間――


「「!?」」


 魔王城の至るところで爆発が起きた。

 互いに支えあうようにして、なんとか城から脱出すると、周囲は王国の兵たちに囲まれていた。

 そして、その中央には国王が下卑た笑みを浮かべ、こちらを見下ろしていた。


「ふん……勇者め、生きておったか。だが、貴様を始末すればワシの脅威となる者は全ていなくなる!」


 ――どうやら、既に真相を知っていたようだ。


 迫る兵士をなんとか倒し、逃げる二人。

 だが、体力も限界に近く、たちまち二人は囲まれてしまう。


「くっ……もう、戦う必要はないでしょう!? なんで、こんなことを!」

「知ったことを、魔王を討った勇者ともなればワシに匹敵する名声を手に入れることが出来る。そんなものが出てきたら邪魔なのでな。安心せい。貴様は魔王と相打ちになったと民にはいっておくからのぉ」

「そんな……」

「あとは大陸に逃げた魔族どもを滅ぼし、大陸を制圧すればワシは歴史に名を遺す、英雄となる! あぁそれと、貴様の母親は適当に性奴隷にでもしておくから、安心しろ。がっはっはっは!」


 ゲラゲラ笑う国王を憎悪の籠めて睨みつける。

 しかし、多勢に無勢。圧倒的な物量差に勝てるはずがない。

 そうしているうちに、魔導士部隊が攻撃を開始。

 雨あられと魔法が降り注ぐ。


「ここまでか――‼」


 せめて、この少女だけは助けようと、わずかばかりの防御魔法を唱え、自分は盾になるべく少女を庇う。

 その時だった。


「《消滅バニッシュ》!」


 突如、無数ともいえる魔法が一瞬にしてかき消された。


「な、何事だ!?」


 突然の異常事態に困惑する王国軍。

 すると勇者の前に五つの人影が現れた。


「な、なに奴!?」

「キミたちは……!?」


 そう、現れたのは――


「酵母の守護者! パン屋レッド‼」

「鉢植えの守護者! 花屋ピンク‼」

「学童の守護者! 文具屋ブルー‼」

「ノスタルジアの守護者! 駄菓子ブラック‼」

「安眠の守護者! 宿屋グリーン‼」

「「「「「全員合わせて! 職業戦隊・ジョブレンジャー‼」」」」」


 ドゴォォォォォン! と予算も吹っ飛びそうな爆発と共に現れたカラフルな一団は、案の定勇者パーティーであった。


「……誰?」

「……馬鹿です」


 少女に尋ねられた勇者は、そうとしか言えなかった。


「待たせたな勇者! よく生きてた‼」

「まったく、下手な芝居打ってくれちゃって。探すのに手間取ったじゃないですか」

「え? え? なんでみんなここにいんの?」

「そんなもの決まってる。俺たちは勇者パーティーだぜ!?」

「仲間を助けるのは当然です!」


 どうやら彼らはあの後、すぐさま自身の目的を察し、魔王城に急行したらしい。

 腐っても仲間。自分の浅知恵はお見通しと言うことか。


「それはありがたいけど、その恰好は?」

「「「「「ノリッ!」」」」」

「……あぁ、そう」


 彼らの独特なノリに呆れてしまう勇者だった。

 あと、もう一つ疑問。


「しかし、我が国がここまで腐っていたとは……せめて我々の手で介錯しなければなりませぬな……‼」

「……なんで宿屋のおっさんも来てんの?」

「助っ人に来てもらった」

「ちょうど空きがありましたからね。無理言って来てもらったんです」

「いや無理すぎでしょ!?」


 どうやら宿屋の主人を新たな戦力としてスカウトしてきたようだ。

 自分の後釜でももっと、マシな人いなかったのだろうか?


「がっはっはっは! 誰かと思ったら勇者パーティーの愚民どもではないか。ちょうどよい、反逆者は全て処刑せよ!」

『はっ‼』


 そんな勇者たちをあざ笑うかのように国王は兵たちに命じる。

 突撃してくる兵隊の前に勇者パーティーが立ちふさがる。


「みんなダメだ! キミたちの力じゃ兵たちに勝てない!」

「まぁ、見ててください」

「僕たちの力を!」

「見せてやる!」


 そう言うと、勇者パーティーも王国軍へと突撃する。


「喰らいやがれ! 《パン祭りブレッド・フェスティバル》‼」

「え!?」


 先陣を切るパン屋が叫ぶと背後から、無数のパンが時空を超えて出現する!


「なぜに!?」

「ふっ、パン屋たる者、いつでもどこでも、焼き立てのパンを提供できるようにしているのさ!」


 ……そう言えば、このパーティー、兵糧関係で困ったことなかったような気がするが、こういう事だったのだったのか。


「いやでも、それで時空間いじってるってどういうこと!?」

「こういう術は魔族でも高難易度の術なのですが……」

「一流のパン屋に不可能はねぇ! いくぜ! 発射ファイア‼」


 掛け声と同時にあんパン、食パン、カレーパン、ジャムパン、バターパン・チーズパン……

 メロンパンやロールパン、クリームパンと多種多様なパンが兵隊の口に向かって放たれる。

 そして……!


『う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼』


 パンを食べさせられた瞬間、兵隊たちの武装は解除――と言うより丸裸になってしまった。


「なぜに!?」

「ふっ、人間おいしいものを食べれば、誰だって丸裸になるもんだぜ」

「いや、物理的に丸裸になってんだけど!?」


 すっぽんぽんにされた兵士たちに追い打ちを仕掛けるように、今度は花屋が前に出る。


「今度は私の番です! 世界中の花粉よ! 私に力を分けてください!」


 すると世界各地より飛んできた無数の花粉が花屋の下に集まり、巨大な花粉の塊を作り上げた。


「ま、まさか……!」

「くらいなさい! 花粉玉ぁぁぁぁぁ‼」


 巨大な塊となった花粉は王国軍に直撃。

 阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。


「ぎゃあああああ! 目が、目があああああ!?」

「は、鼻水が止まらにゃいいいいいい!?」

「ね、眠くてだるくて……もう……ダメだぁ……」


 あっという間に壊滅状態に陥る王国軍。


「いや、なんで!? なんで一介の花屋がそんなバトルマンガの必殺技みたいなの使いこなせるの!?」

「ふ、一流の花屋たるもの、花粉くらい操れなければ、昨今の業界生き残れませんからね」

「普通の花屋は花粉なんて操れないよ!?」


 しかし、彼女の活躍によって、涙、鼻水、くしゃみの止まぬ国王軍は総崩れとなる。


「えぇい! なにをしておる! 魔法部隊! 弓兵部隊! 遠距離攻撃で奴らを嬲り殺せ!」

『はっ!』


 情けない自軍を怒鳴りつけた国王に従い、魔法部隊と弓兵部隊が攻撃を仕掛けてきた。

 次々に飛んでくる弓矢や魔法。しかし、それを防いだのは文具屋である。


「貴様ら文具の貯蔵は十分か!?」


 そう言って取り出したのは消しゴム。

 まず、文具屋は消しゴムを魔法や弓矢めがけて投げつける。

 するとどうだろうか。消しゴムが当たった瞬間、消滅したではないか。


「なぜに!?」

「ふ、僕の扱う消しゴムはただの消しゴムじゃない。最近知り合った付与術師の力で作られた、字だけじゃなく物体も消せる消しゴムなんだ。一流の文具屋として、常に新商品の仕入れには余念を隠さないのさ」

「なにそれ!? もう普通にマジックアイテムだろ!? むしろ兵器だよ‼」

「最近の消しゴムはボールペンも消せるからね」

「それ消しゴムが消せるんじゃなくて、ボールペンのインクが消しゴムで消せるの!」


 そんなこんなでほぼ壊滅状態に陥った国王軍。

 しかし、国王はここに来て、最悪の暴挙に打って出た。


「おのれ! こうなったら召喚獣で丸ごと消し飛ばしてくれる! いでよ! ブラックドラゴン!」


 すると空中に出現した魔法陣から数多のドラゴンが召喚される。

 魔物の中でもトップクラスの凶暴性と戦闘力を誇る、ブラックドラゴンである。


「くっ‼ まさか、こんな奴まで引っ張ってくるだなんて……‼」


「最早ここまでか……」と思った瞬間、駄菓子屋がブラックドラゴンと対峙する。


「ふっ、どうやら俺の出番のようだな。決闘デュエル‼」


 そう言うと、駄菓子屋は懐からめんこを取り出す。

 ほぼ同時に、ブラックドラゴンたちがブレスを放つ。

 触れたもの全てを焼き尽くす闇の炎を前に、駄菓子屋は不敵な笑みを浮かべた。


「おっと、いきなりダイレクトアタックか……なら、こっちはトラップめんこ発動‼ 『鏡の聖結界・ミラーリバース』」


 駄菓子屋がめんこを叩きつけると、バリアが出現。なんとブレスを反射。

 ブラックドラゴンを返り討ちにする。


「ふ、罠めんこ『鏡の聖結界・ミラーリバース』の効果は相手がダイレクトアタックを宣言した瞬間、相手のフィールドにいるモンスターをすべて破壊する」

「いや罠めんこってなに!?」

「そして続けて俺は手持ちから『聖なる黒き守護神ホーリーブラックガーディアン』を召喚!」


 その宣言と共に、めんこから漆黒のゴーレムが召喚される。


「え!? 駄菓子屋、キミ、召喚術が使えるのか!?」

「召喚? 違う! こいつはめんこじゅう! 俺の中に眠るめんこぢからが具現化した存在だ‼」

「めんこ獣!? なにそれ、聞いてない!?」


 ――って言うか、めんこ力ってなんだよ!?


 あまりの人知を超えた出来事に勇者の頭は混乱する。

 しかし、それを意に介さず駄菓子屋は新たに『暗黒の白き破壊者ダークネス・ホワイト・デストロイヤー』を特殊召喚する。


「――な!? まさか、あいつは!?」

「な、なんだ!?」

「間違いない! あれは世界を征服しようとした闇のめんこ軍団『デスめんこ団』を壊滅に追い込んだ伝説のめんこ戦士バトラー! 元大陸めんこバトルチャンピオンのエースめんこ獣だ!」

『な、なにぃ!?』

「いや、闇のめんこ軍団ってなによ!?」


 一部の兵士の動揺に、思わず勇者のツッコミが炸裂する。

 どうやら駄菓子屋はその道では知られた存在らしい。

 どよめく兵士たちを他所に、駄菓子屋は魔法マジックめんこ『混沌なる融合カオスティック・フュージョン』を発動させる!


「現れろ! 俺の最強のめんこ獣! 光と闇を司る混沌の調停者! 『混沌の救世龍カオスティック・セイヴァースドラゴンんんんんんッ‼』」


 光と闇の戦士が融合の余波で大地は裂け、天が割れる!

 そして、そこから現れたのは禍々しい姿に慈愛に満ちた瞳を持つ巨大な龍であった‼


「混沌の救世龍‼ 我が覇道に立ちふさがる愚か者たちを粉砕しろ‼ 『ワールド・エンド』ぉぉぉぉぉ‼」


 絶対的王者の宣告に従い救世龍はブレスを放つ。

 対する愚王は最早、なにも出来ずにただ無様に怯えるのみ。


「ま、待て! 勇者よ! 母親がどうなってもいいのか!? 以前貴様の母親は我が手の内にあるのだぞ!?」

「そうだ! 母さんはまだ、あいつに囚われてるんだ……!」


 国王の脅迫に慌てて駄菓子屋を止めようとする勇者。

 しかし、その心配は杞憂に終わる。


「ご心配なく、勇者様。我が宿屋ネットワークを通じ、勇者様のご母堂の身柄は既にこちらで保護しております!」

「うそーん!?」

「ふっ、我ら一流の宿屋にとって、ベッドのある部屋は全て自分の宿も同然。簡単に出入りできるのですよ」


 ――それ、普通に犯罪なのでは?


 そんな疑問を思い浮かべ、勇者は宿屋の底知れなさに戦慄する。

 ……ともあれ、これで憂いはなくなった。


 「では遠慮なく」とでも言うように龍の口からブレスが発射。

 逃げ出そうとしたブラックドラゴンたちを撃ち落とし、最早瀕死の国王軍にトドメを刺す。


「ぎぇえええええええええええええええええええええええええええ!?」


 叩き潰されたカエルのような悲鳴を上げ、宙へと打ち上げられる国王軍は、そのまま頭から地面に叩きつけられ、足を宙に投げ出すようにし完全に壊滅した。


「ま、まさか、国王軍が全滅だなんて……」

「くっ! 退け! 退けぇぇぇぇぇぇ‼」


 五人の民間人に無双された、国王軍は尻尾を巻いて撤退。

 這う這うの体で逃げ出した国王軍を見て、駄菓子屋はニヒルに笑う。


「覚えておけ……駄菓子屋たるものすべてのホビーに秘められた力を解放することなど造作ないとな……!」

「駄菓子屋の枠超えてますよね?」


 ――って言うか、みんな、こんな力があったなら最初から言って欲しかったんだけど。


 そんなことを思いながら、呆れていると少女が何か言いたげな顔をして。くいくいと勇者の袖を引っ張ってきた。


「あ、あの……」

「え? なに?」

「その……助けていただいてありがとうございます……」


 おずおずと頬を赤くしながら礼をする少女に、勇者は「別に大したことはしてないよ」と言った。


「いや、ホント、大したことしてないし……」


 最後、うちのチート民間人が無双してたし。


「でも……あなたは魔族である私の話を聞いて下さりました……その上で、私の命まで助けてくださいました……あなたは立派な勇者ですよ……」


 そう言うと魔族の少女は再度「ありがとう」と頭を下げると、勇者はむずがゆさを感じ照れたように頬を掻いた。


 そんな彼の肩を宿屋の主人はポンッと叩いて言う。


「ふっ、やはりあなたは追放されて当然だ。倒すべき魔王の命を助けるなど、勇者にあるまじき行いですから、ね」

「いや、あんたが締めるのかよ!?」


 ――こうして勇者は役目を終えた。

 その後、王国軍を敵に回した勇者に安息の地は最早なくなったが、少女の誘いに乗り、仲間と共に新大陸に向かい、そこで、助け出した母親と再会する。


 数年後、王国軍は勇者に復讐をすべく、新大陸を侵攻するも人類と魔族の連合軍の前に為す術もなく敗北。加えて、各地で反乱が相次ぎ、滅亡することとなる。


 すべてを終えた勇者はその後、僧侶へと転職し各地で人類と魔族の共存を説く活動を行う。

 その傍らには、修道服を着た一人の魔族の少女と、わりとやりたい放題な仲間の姿があったという。



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