伝記師ですが追放されました。何故だ!? 何故なんだッ!?


「……伝記師、キミを追放する」

「な、なんでだ!?」


 勇者の突然の宣告に伝記師は驚愕する。


『伝記師』

 それは勇者パーティーの活躍を世間に知らせる所謂、広報担当。

 冒険の記録を余すことなく書き記すのが彼の仕事なのだが……


「俺は悪いことはしていない! それに、俺がいなくなったら誰が勇者パーティーの活躍を記録するんだ!?」

「そう、問題はそれなんだよ……」


 そう言って勇者が取り出したのは一冊の本。

 自分たちの冒険の記録であった。


「……とにかく、読み直してみろよ」


 さながら編集者のような厳しい態度で、伝記師の書いた本の内容を指摘していく。


「まず、最初の四天王とのシーンだけどね……」




「ぐああああああ‼」

「勇者様!」

「がっはっはっは‼ 勇者よ、その程度か!?」


 四天王の一撃に勇者の鉄の鎧(軽量素材ながら頑丈:税込み2980Gゴールド)が粉々

に砕け散る。

 勇者は|聖剣(大丈夫! 神々の作った剣だよ‼ 税込み19800G)を構え、立ち上がる。

 しかし、パーティーは最早虫の息だ。

 聖女も魔力を使い果たしている。

 すると、そこに商人が駆け寄り、勇者に一本の薬を手渡した。


「勇者様! これをお使いください!」

「こ、これは伝説のラストエリクサー‼」


 商人の家に代々伝わりし、家宝とも言える霊薬・ラストエリクサー(天然素材配合。素材の味を活かした甘さ 税込み25000G)

 それを惜しげもなく使おうとする商人の覚悟に、勇者は応えるべくラストエリクサーを飲み干した。





「なんでちょいちょい、商品の宣伝入ってんの!? 緊張感削がれるんだけど!?」

「だ、だって商人が『スポンサーからの頼みだから、宣伝してくれ』って言うから……」

「露骨すぎる! どう考えてもシリアスなシーンに相応しくないよね!?」


 ――しかもこれ、神々の作った武器まで値段付けてるよね!? 神様スポンサーやってんの!?


 あからさまな宣伝に文句を言う勇者。

 だが、おかしいところはここだけではない。


「あと、この勝利後のシーンだけど……」




「はぁはぁ……やった! 勝った!」

「勇者様!」


 息も絶え絶えな勇者に聖女が豊満な胸を揺らしながら駆け寄る。

 そして感極まったのか、勇者に抱き着き二つの霊峰をぎゅうっと押し付けた。


「せ、聖女……みんなが見てるじゃないか!」

「だって……勇者様が死んでしまうのかと思って……」


 人目も憚らず抱き着く巨乳聖女の涙目に、勇者の頬が朱に染まる。

 まったくもってけしからん。勇者、そこ代われ!


「だが、これでまだ一人目……他の四天王はさらに強大だろう……」


「果たして自分に勝てるのだろうか……?」と不安になる勇者。

 しかし、おっぱ――聖女ははち切れそうな胸を張り、勇者を励ます。


「大丈夫です! 私たちがいます! 勇者様一人に苦しみを背負わせたりしません‼」

「聖女……!」


 巨乳の励ましに勇者の心に勇気が湧く。

 戦いはまだ、始まったばかりだ!




「いいシーンなのに胸しか書いてねぇじゃん‼ 聖女の胸にしか目がいってないじゃん‼」

「だって本当のことじゃないか‼ 分かるだろ!? この気持ち‼」

「分かるよ! 分かるけども‼ そこは抑えろ‼ 最終的に聖女、巨乳表記になってんじゃん! 巨乳の励ましって別な意味に取られかねないよ!?」

「……聖女さんの胸を見てるとあっちのほうも高鳴るだろ?」

「股間も抑えろ‼ あと『まったくもってけしからん。勇者、そこ代われ!』って本音漏れてるよ! 隠せよ!」


 とにかくこのまま世に出したら、セクハラで訴えられかねない。

 修正するようにキツく言い聞かせ、次の修正箇所を指摘する。


「あと、ある国で国王を操ってた魔族との戦い。武闘家が活躍するシーンだけどさ……」




「貴様! 国王様の肉体を操っていたな! 許さねえ!」

「ふん! 貴様のような鼻たれに何ができる! やってしまえ!」

「「はっ!」」


 言うや否や、カギ鼻の魔族とワシ鼻の魔族が武闘家に襲い掛かった。

 しかし、慌てることなく、武闘家は鼻を鳴らし挑発。

 迫る魔族の鼻っ面に一撃叩き込む。


「へっ! どうだ! 雑魚なんて鼻から俺の敵じゃねぇ! 今度はテメェのその天狗鼻、へし折ってやるぜ!」

「ふふふ、言わせておけば! 貴様のような者、叩きのめしてくれる!」

「へっ、どうやらテメェの脳みそはお鼻畑みたいだな! そう簡単に俺を倒せると思うなよ!」


 そして二人の戦いが始まった。

 長い腕をゾウの鼻のように振り回し、鼻息を荒げ、襲い掛かる魔族。

 その攻撃を鼻の皮一枚で掻い潜り、渾身の一撃を叩き込む!


「ぎゃああああああ!」


 魔族の鼻骨を粉々に粉砕し、武闘家は「フンッ!」と鼻をこする。


「ふっ、成長したな武闘家!」

「鼻ッ鼻ッ鼻ッ鼻ッ! 当たり前だ! 俺は勇者パーティーの拳法の使い手だからな!」


 鼻をすすりながら、誇らしげに笑う武闘家。

 仲間の成長に勇者も鼻高々だ。




「こっちはこっちで鼻に注目しすぎ‼」

「だ、だって武闘家の鼻って、実際……」

「他人の顔面遍歴にツッコんでやるな‼」


 そう、実際武闘家の鼻は明らかに不自然な……はっきり言えば整形の後が見えるが、それを本人の承諾なく記載してはいけないだろう。


 勇者は他にも「あと『鼻ッ鼻ッ鼻ッ鼻ッ‼』って笑い声なに!? おかしいだろそんな笑い方‼」「それから『お鼻畑の脳みそ~~』の下りも‼ これ絶対誤字として指摘されるわッ‼」

「鼻の皮一枚ってなに!? 首の皮だからね!? 無理矢理『鼻』ってワードを組み込むなよ!」

と怒号のツッコミを繰り返す。

 そりゃそうだ。

 こんなの世に出したら訴えられるわ。


「あと、最後! 俺の無双シーン! これが一番おかしい!」





 パーティーと分断され、軍団に囲まれてしまった勇者。

 包囲網は徐々に狭まり、たちまち窮地に陥る。

 しかし、勇者は諦めなかった!


「こうなったら俺の真の力を見せてやる! うぉぉぉぉぉぉ‼」


 叫ぶと同時に今まで疲労困憊だった勇者の身体に力が漲り始めた。


「食らえ! 勇者パーンチ‼」


 聖なる力で限界を突破した勇者。彼の両腕から放たれたロケットパンチが兵士たちを殴り飛ばす!


「勇者ビィーム‼」


 さらに両目からすべてを焼き尽くす光線を放ち、空中にいる魔物を焼き尽くす。


「トドメだ! 必殺勇者キャノン‼」


 最後に勇者の股間に備えられたキャノン砲が火を噴く。

 凄まじい一撃がすべてを吹き飛ばす‼

 出来上がったクレーターを前に、勇者は高らかに笑うのであった。




「俺、ロボットかよ‼」

「だ、だって普通に戦ったら盛り上がんないから……」

「だからってこれはないよ‼ 勇者ビームってなに!? 勇者ロケットパンチってなに!? 勇者砲ってなんだ!? なんで股間に装着されてんだ!?」

「創作には多少のフィクションは必要じゃないか‼」

「今、そのセリフ言うのやめてくんない!? 確実に股間の方だと思うから‼」


 ……他にも、おかしいところは多々あり、結局勇者は伝記師を追放した。

 ただ『キミはノンフィクションより普通にやりたいまま小説書いた方が売れると思うよ』という勇者のアドバイスを受け、伝記師は小説家に転身。


 異世界初のラノベ作家となるのだが……これはまた別の話である。


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