追放された支援術師ですが、とんでもねぇことになりました……
――昔から冒険者になりたかった。
支援術師にしかなれなくても、努力して努力して、遂にはSランクに到達した。
そして王国から直々に勇者パーティーにスカウトされて……けれど、待っていたのは報われない日々だった。
「お前、今日限りでクビな」
とある宿屋にて。
勇者に呼び出された支援術師はその言葉に絶句する。
絶望する支援術師を前に、勇者はあからさまに馬鹿にして笑っている。
それは取り巻きの女性陣も同じだ。女戦士も、弓使いも、僧侶もこちらを見下している。
「な、なんで……」
「あぁ? 決まってんだろ? お前が役立たずだからだよ。それくらい察しろよ、バカ!」
「た、たしかに、僕は戦闘では役に立たない。けど、他の雑用でカバーしてるじゃないか!」
「んなもん誰にでもできるっつーの! これから敵の本拠地に突入するんだ! お前なんぞいらねぇ。っていうか、俺のパーティーに野郎はいらねぇ。ギャハハハハハ!」
「わかったら、さっさと荷物おいて失せろよ、役立たず」と侮辱されるも、支援術師はうつむくしかなかった。
相手は勇者だ。
逆らっても、なんの得にもならない。
自分にそう言い聞かせ、悔し涙を堪える支援術師。
その時であった。
「よし! それなら私のパーティーに加入したまえ!」
「「だれだ、お前!?」」
いや、ホント誰だ!?
突如乱入してきた白銀の鎧に身を包んだ戦士の登場に、支援術師も勇者も驚愕する。
「だ、だれだ、てめぇは!?」
「HAHAHAHAHA! 申し遅れた。私は聖騎士団団長! 勇者として魔王を討伐せよとの任務を受け、はせ参じた!」
「はぁ!? なに言ってんだ!? 勇者は俺だぞ!」
「HAHAHAHAHA! 君こそ何言ってるんだ!? 魔王討伐と言う重要任務をパーティー一組だけに任せる訳ないだろう!」
曰く、魔王討伐の任務は自分たち以外、ありとあらゆる組織の代表者に任されていると言う。
「さぁ! 支援術師くん! 我らと共に魔王を倒しにいこうじゃないか!」
「え? え? えぇ!? どういう事ですか!?」
馴れ馴れしく肩を組む聖騎士団長に戸惑う支援術師。
すると聖騎士は事情を説明し始めた。
曰く、現在大陸中の国々が魔王討伐を目指し、勇者を送り込んでいる。
しかし、魔王のいる領域は未知の領域で、多くの勇者パーティーがその命を散らしている。その原因の一つが「支援職の有無」だというのだ。
魔王の領域は敵の本拠地。戦闘ではデバフの有無が物を言うし、安全な寝床や安定した食料の確保、武器の整備、その他もろもろの雑事に従事してくれる支援術師は欠かせないという。
「しかし昨今、支援術師は取り巻く環境は悪く、その数は年々減少傾向にある。ましてや魔王討伐なんて危険な任務に同行できる者などほんの僅かだ! そんな中、都合よく『ある勇者パーティーのSランク支援術師が不当に解雇されそうだ』と言う情報を入手してね。これはチャンスだと思い、ここ数日付け狙ってたんだよ!」
「付け狙ってたって言ったよ、コイツ」
どうやら解雇されるまでずっとストーキングをしてた模様。
道理でここ数日、妙な視線を感じたわけだ。
「そう言う訳で、支援術師くんはこちらで預からせてもらう! いいな?」
「いや、ぼくの意見は?」
「けっ、そんな役立たず、引き取ってもらえるんならむしろ有難いぜ。だがな、仮にも勇者パーティーから引っこ抜こうってんだ、相応のものは払ってもらうぜ?」
「あんたはあんたで図々しいなオイ。解雇したんだから、もう無関係だろうが!」
「うるせぇな! こいつらの狙いも魔王討伐なんだからライバルだろうが! 敵に無料で塩を送れるほど俺は寛大じゃねぇんだよ!」
こいつはこいつでどういう思考回路なんだろうか。DQNな勇者はそう言って金をたかってきた。
「HAHAHAHAHA! 別に構わんよ! ヘッドハンティングするんだから相応の対価は払わせてもらうよ!」
言うや否や懐から金貨の入った袋を取り出す聖騎士団長。
「おぉ! 話が分かるじゃねぇか!」と金に目がくらんだ勇者は袋を受け取った。
グサリっ!
「は?」
瞬間、背後から女戦士が勇者を剣で突き刺した。
「おいいいいい! なにやってんだ!? あんた!?」
「HAHAHAHAHA! ついでにライバルには消えてもらおうと思ってね! よくやった女戦士! 流石我が騎士団一のハニートラップの達人だ!」
「お褒めいただき光栄です。団長」
「ぐふっ……どういうことだ……」
「お前、さっき自分で言ったじゃないか『こいつらの狙いも魔王討伐なんだからライバルだろうが!』とな。だったら蹴落とすために間者を潜り込ませるのは当然だろう?」
まるで養豚場から出荷される豚をみるような、冷めた目で勇者を見下す女戦士。
どうやら彼女はスパイで情報を聖騎士団にリークしてたようだ。
「そんな……嘘だろ……昨日はあんなに愛し合ったじゃ……」
「お前の【お粗末さん】で満足する女なんかいるわけないだろ? 演技だ、演技。私をイカせたかったらオーク並みの太いのもってこい」
「トンデモネェこと言い出したぞ、この女」
「まぁ、貴様のようなクズ勇者が魔王を倒せる訳がない。精々返り討ちにあって着払いで死体を送り返されるのがオチだろう。だから我々が魔王討伐の任を引き継いでやる」
「そ、そんな……」
「あぁ、言い忘れたが貴様の横柄な態度は既に国に報告済みだ。国王からは『テメェ、クビ』と返事をいただいている。安心して逝くがいい」
「く、くそ、が……」
ガクッと力尽きる勇者。
最低な奴だったが、ここまで見事に裏切られると、いっそのこと哀れである。
「――と言う訳で支援術師くん! これからよろしく頼むよ!」
「この惨状見てよくそのセリフが吐けるな!?」
汚い手を用いてライバルを始末し、いけしゃあしゃあと言う聖騎士。
こいつ、聖騎士じゃなく暗黒騎士じゃなかろうか?
「って言うか、僕、入るって一言も――」
と言いかけた瞬間であった。
ドシュ! ドシュッ!
「「え?」」
突如弓使いが矢を放ち、女戦士と聖騎士の脳天を射抜いた。
二人はなにが起こったのか理解できないまま、その場に崩れ落ちる。
「よくやった、弓使い。さすがは我らが選んだハニトラ要員だ」
「誰!?」
呆然とする中、突如天井裏から降りてきたのは鎧に身を包んだ屈強な男たちであった。
「いや、どっから現れてんの!? あんたら誰!?」
「俺たちか? 俺たちは魔王討伐を依頼された傭兵団だ。手ごろなSランク支援術師がいると聞いて、ここ数日狙ってたんだ」
「あんたらもかい!」
どうやら自分は思いの外、自分と言う存在は価値があるようだ。
まぁ、それは置いておいて……
「って言うか、弓使い! キミ、勇者の事好きじゃなかったの!?」
「笑止、私の好みは30代後半の少し悪っぽいおじ様。こんな若造、範囲外」
……つくづく勇者が哀れである。
「まぁ、事情は知っての通りだ。Sランクの支援術師なんて滅多にいねぇ。悪いが俺たち傭兵団に入ってもらう」
「いや、だから、僕の意見は……」
と、言いかけた瞬間だった。
バキィ!
「ゴフッ!?」
「《その命! 神に還しなさい!》」
「「「ぎゃああああああああああ!?」」」
突如僧侶が弓使いの頭部をメイスで殴打。さらに傭兵たちに即死魔法を放つ。
傭兵たちが息絶えたと同時にタンスの中から神官たちが現れた。
「
「よくやった! 僧侶!」
「いや、またこのパターン!? 今度は誰だよ!?」
「我らは聖神教会! 魔王討伐の命を受け参上した! Sランク支援術師よ、我らと一緒にくるといい!」
「今なら私で童貞を捨てるチャンスがついてきますよ」
「僧侶とは思えないセリフ! いやだよ! って言うかキミ、勇者は!?」
「私のストライクゾーンは14歳以下男の子です。あんな【ポークピッツ】対象外ですよ」
「うん、アンタが一番ひどいわ!」
「いいから、我らとともに来い! 嫌なら異端者として粛清してくれる!」
最早ただのカルト教団である。
流石に身の危険を感じた支援術師は窓から脱出を図る。
――そこで気づいた。
窓にびっしりと人が張り付いていることに。
「ぎゃああああああ!? なんかいるぅぅぅぅ!?」
「な、なにやつじゃ!?」
「我ら魔王討伐の任を受けし暗殺集団! この支援術師は我らがいただく!」
「お、おのれ! そのようなこと許すか!」
「そうだ……そいつは……俺たち傭兵団のものだ……うぐ……」
「HAHAHAHAHA! よろしい! ならば戦争だ!」
「どいつもこいつも好き勝手しやがって! 勇者は俺だ!」
窓を蹴破り乱入してきた暗殺者と対峙する教団。そこに復活した勇者・聖騎士・傭兵が加わりバトルロワイヤルの火ぶたが切って落とされた。
「もうやだああああああ! お家帰るうううううう!」
飛び交う魔法・斬撃・弓矢・ナイフを掻い潜り、その場から支援術師は逃げ出した。
……しかし、彼の不幸はここからであった。
逃げたところで「魔王の領域攻略にはSランク支援術師が必要不可欠」と言う事実が消える訳ではない。
彼の身柄を狙うパーティーは数多く存在し、逃亡生活を余儀なくされたのだ。
ある者は町の宿屋に潜り込んで――
「我ら独立義勇軍! 支援術師よ! 我らと共に魔王を倒そうぞ!」
「ぎゃああああああ!」
やむを得ず野宿生活を送るも噂を聞きつけた連中が現れ――
「我々は自然保護隊! さぁ、魔王退治に出発だ!」
「いやだああああああ!」
どこに行っても追われる身となった。
「お墓の中からこんにちは! 我ら戦乙女隊! 魔王退治に協力して!」
「いやこれ戦乙女の登場の仕方じゃないよね!? アンデッドの出現方法だよね!?」
こうして支援術師の逃亡生活は続いた。
日に日に増える追手に支援術師は身体共に限界が近づいていた。
そして、ある日……
「おう、支援術師! いい加減戻って来いよ! 俺の名声の為に!」
「HAHAHAHAHA! 我らと共に魔王を倒そう!」
「ふざけんじゃねぇ! あいつの身柄は俺たちがもらう!」
「いい加減にしないと故郷の家族も異端者にしますよ? いいんですか?」
「くそう……なんで、こうなるんだよぉ……」
ついに崖の上へと追い詰められてしまった支援術師は泣きながら自問する。
目の前には自分を狙う追手たち。下は荒ぶる海。最早逃げ場はない。
それでもにじり寄る追手たちから距離を取るため、後ずさる。
――それがいけなかったのだ。
「あ」
極度の疲労でバランスを崩したのに加え、足場が脆かったのだろう。
崖から足を踏み外してしまった。
「あぁぁぁぁぁ~……」
支援術師はそのまま海へと落下。荒波へと呑まれ消えていった。
「船長! 目が覚めやしたぜ! どうしやす!?」
「とりあえず、消化にいいものを出してあげて。話はその後よ」
「へい! 分かりやした!」
「……ここは、どこ?」
気が付けば支援術師は船の中にいた。
どうやら、あの後奇跡的に助かったようだ。
「おう、兄ちゃん、とりあえず腹減ってるだろ! スープでも飲みな!」
そう言って屈強な大男からスープを受け取り、いわれるまま支援術師はスープをすする。
「……おいしい」
味付けは塩のみで、具もそんなに入っていないが、それでも久しぶりの食事に、支援術師は涙した。
食事を終えると、一人の少女が姿を現した。
話を聞けば、どうやらこの船は商船で、少女はなんと船長らしい。
数か月前、病に倒れた父の代わりに船長に継いだという。
「引き継いだはいいんだけど、ちょっと人手が足りなくってね……」
「そ、それだったら、僕、手伝いますよ! こう見えて支援術師だったし! 一通りのことはできます!」
「本当!? じゃあ、お願いするわね」
こうして、支援術師は船で働くこととなった。
海と丘では勝手が違い、最初は手間取ったものの、すぐに慣れ、炊事洗濯なんでもござれ、さらには船医や砲手まで任せられるようになった。
ほどなくして支援術師は少女と恋仲に落ち、共に大海原を行くパートナーとなる。
やがて、冒険譚に憧れた支援術師は舞台を海へと変えて、名を上げることとなり新大陸の発見や海賊船相手の大立ち回りを演じることになるが、また別の話である。
……一方、支援術師を失った連中はやむを得ず魔王の領域に挑むも全滅。
全員、死体となって着払いで送り返されたとさ。
とっぴんぱらりのぷぅ。
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