追放した魔物使いが戻ってきてくれました。しかし……


「魔物使い、キミをパーティーから追放する……!」

「そ、そんな!? なんで!? いっしょに魔王を倒そうって言ったじゃないか!」

「すまない……もう、決まったことなんだ……‼」


 抗議する魔物使いに勇者が辛そうに追放を宣言する。

 顔を悔し気に歪ませ、まさに断腸の思いであると言うことは分かる。

 しかし、納得できず魔物使いが理由を尋ねると、勇者はぽつりぽつりと話始めた。


『本日限りでキミのパーティーの仲間である魔物使いは追放。代わりに貴族からの推薦である賢者を加入させる。異論は認めない』


 国の人事部から非情な決断が下されたのはつい先ほどのことだった。

 曰く『魔物使いなどと言う職業の人間をパーティーに加えておけばイメージダウンの恐れがあるから』と言う身勝手な極まりない理由だった。


 魔物使いへの偏見は根深い。

 人類の敵である魔物を従え、使役するその能力から、一部地域では迫害されることもある。

 しかし、それを何も知らない人間に言われたくなかった。

 勇者は魔物使いの人柄と彼の従えている魔物たちのことを人事に伝えた。

 返事はNO。決定事項だと無視された。


「そ、そんな……」

「おのれ! なんて身勝手な!」


 話を聞き、聖女も戦士も憤る。

 魔物使いの人柄は仲間である二人もよく知っていたからだ。


 戦闘が魔物任せになる分、自身は率先して雑用をこなしてくれたし、彼の魔物たちも自分たちのことを仲間と認識し、大けがを負ってまで庇ってくれたこともある。


「くそっ! 俺は無力だ!」


 しかし、上層部の決めたことには逆らえなかった。

 勇者と祭り上げられていても結局、自分はなにもできない。

 無力感に苛まれる勇者。


「……わかった。そういう事情なら仕方がない」


 結局、魔物使いは追放されることを承諾。

 悲しみに暮れる聖女や怒りの納まらない戦士を宥めながら、彼はこう言った。


「でも、僕はいつか帰ってくるから。王国の連中にも口を出させないほど強くなって帰ってくるから!」

「ぴぎぃ!」「ゴブ!」「ギーガガ!」


 彼の強い意志に、魔物たちも賛同する。

 スライムのスラ太郎も、ゴブリンのゴブ太郎も、ゴーレムのゴ―太郎も、いつの日か再会することを約束し、彼らは別れを告げた。


 ――そして、決戦の日。


 派遣された賢者のミスで魔王の軍勢に囲まれてしまった勇者たちは絶体絶命のピンチを迎えていた。


「ぼ、ぼくは貴族だぞ! 見逃せば、それなりの報酬をびぎゃ!」


 みっともなく命乞いをする賢者だったが、頭を四天王の一人に頭を潰されあっけなく死んだ。


 後ほど聞いた話だが、彼はどこぞの貴族の子息だったそうだ。

 魔王討伐の名誉を望み、箔付のために人事部にコネを使って無理矢理ねじ込んできたらしい。

 賢者の称号も金で買ったようで、実力も大したことはなく、行く先々でトラブルを起こしていた。


「あれでは賢者じゃなくて小賢しい者だ」と言うのは戦士の評価である。


「くそ……! ここまでか……!」

「神よ……私たちをお守りください……!」


 戦士も聖女も死を覚悟した、その時であった。


「お待たせ! みんな! 助けに来たよ!」


 魔物使いが帰ってきてくれたのだ。

 どうやら別れた後、単独で修業を積み、約束を果たしに来てくれたらしい。

 その姿に全員が涙ぐむ。


「僕の仲間に手は出させない! いけ! 魔物たちよ!」


 その凛とした姿、いったいどれだけの研鑽を積んできたのかは分からない。

 彼の指示に従い、魔物たちは魔王の軍勢に突進していった。

 彼らの姿もまた、見違えるほどで……


「……おかしいな、あれ」

「どうしたんだい? 勇者」

「いや、おかしいんだよなぁ、あれ、スラ太郎だよね?」

「そうだよ」


 勇者の視線の先にいるスライムのスラ太郎は身軽さを活かし、魔王軍の兵士たちを次々に討ち取っていた。

 だが、問題はその姿である。


「……なぁに、あれぇ?」


 かつてキュートで愛らしいスライムだったスラ太郎は、まぁ、何と言うことでしょう。

 スライムの身体の下にムッキムキのマッチョボディが組み込まれておりました。


「うん、おかしいな。なんか変な成長遂げてるなスラ太郎」

「え? そうかな? いつも通りの姿だけど」

「いつも通りなのは頭部だけだな。ボディがすんげぇ鍛え上げられてるな!」


 鉄柱のような上腕二頭筋。鬼の形相が浮かび上がるまでに鍛え上げられた背筋。そして雄々しい大・胸・筋!

 鍛え抜かれた肉体美をさらけ出したその生物に最早、かつてのスラ太郎の面影はなかった。

 顔以外。


「あの後、スラ太郎は自分の非力さを嘆き、高名な武道家に弟子入りしたんだ」

「弟子入りしたんだ、じゃねぇよ。どんだけ鍛え上げたらああなるの? もうあれモンスターちゃう、クリーチャーや!」

「クリーチャーとモンスター、どう違うんでしょうか?」

「知らねぇよ! 自分で考えろや!」

「んとねぇ、怪物寄りなのがモンスターで生物寄りなのがクリーチャーかな?」

「なんで、そんなこと知ってんの!?」


 そうこうしているうちに、スラ太郎は次々と敵を討ち取っていく。

 魔王軍も攻撃するも、鍛え上げられた筋肉に傷一つ付けられることはなかった。

 それどころか……


「ぴぎぃ!」

「ぐわっ! な、なんだこれはびぎゃぼえぐびゃああああああ!?」


 スラ太郎が指で兵士の頭部を軽く突いた瞬間、肉体が膨張。兵士はそのまま絶叫し破裂し死んでいった。


「ふむ……中々やるなスラ太郎。あの素晴らしい肉体と言い我が騎士団にスカウトしたいくらいだ」

「いや、あれ見て感想そんだけ!? やばいよ! スラ太郎、なんらかの暗殺拳取得してるよ!」


 こんな時に至極真面目な感想を呟く戦士に勇者がツッコむ。

 それとほぼ同時に、四天王がスラ太郎めがけてツッコんできた。


「おのれ! このまま好きにさせておけるか!」

「あのスライムを討ち取れ!」

「いや、あれ、スライムなのか!?」

「知らんが、そうらしい!」

「やばい! 四天王勢ぞろいだ!」


 いくらマッチョになったスラ太郎といえども、分が悪い。

 加勢に行こうと勇者が残された力を振り絞り駆けだした。


 パァン!


「がふっ!?」

「……へ?」


 しかし、それよりも早く、破裂音が響き渡り、四天王の一体がその場に崩れ落ちた。

 銃撃されたのだろう。見れば眉間に弾痕がある。


「ぴぎゃ!?」「ぐあっ!?」「あぎゃ!?」


 続けざまにパァン! パァン! パァン! と三発。

 四天王の頭部に銃弾が撃ち込まれた。

 見事なまでのヘッドショットである。


「な、なにが……」


 目の前の出来事が理解できず固まる勇者。その背後に一体の魔物が姿を現れる。


「ナイスショット……相変わらずだね、ゴブ太郎」

「……任務完了」

「ご、ゴブ太郎!?」


 そこにいたのはゴブリンのゴブ太郎だった。

 しかし、それが同一人物(魔物)と理解できなかった。


 まるでこの世の地獄を見てきたかのような鋭い目つき。

 スラ太郎と見劣りしないまでに鍛え上げられた肉体にスーツを纏い、慣れた手つきでライフルに次弾装填するその姿は、まさに一流の殺し屋だった。


「ゴブ太郎は有名な暗殺者に弟子入りして、プロの暗殺者になったんだ。裏の世界では『ゴブゴ13』とか『ゴブリンスナイパー』の異名で恐れられているよ」

「間違ってる……お前、魔物の育て方間違ってるよ……」

「依頼料は指定の口座に振り込んでおけ」

「依頼料ってなに!? お前らそんなドライな関係だったの!?」


 かつての人懐っこい彼はどこへ……時の流れは残酷である。


「おのれ、勇者どもめ! とんだ伏兵を隠しておったとは……! ならば我が自ら引導を渡してしんぜよう!」

「ま、魔王!」

「ついに来るか……‼」

「よし! 出番だ、ゴー太郎‼」


 ついに姿を現した魔王に、勇者は聖剣を構えた。

 同時に魔物使いもゴーレムのゴー太郎を召喚する。


「ゴォォォォォォ!」

「おぉ! ゴー太郎は流石に変わってないな!」

「ゴー!」


 変わらない存在にちょっと安心する勇者。

 しかし、そうは問屋が卸さない。


「よし! ブレイブフォーメーションだ!」

「へ?」


 すると空から何かがこちらに向かってくる。


「あ、あれは?」

「五体のゴーレム!?」

「まさか……」


 勇者の予感的中。五体のゴーレムはそのままバラバラになり変形していく。そして……


「完成! ゴーレムオー‼」

『ゴォォォォォォォ‼』


 全長五〇メートルはあろう超巨大ゴーレムに合体したのであった。


「完全にファンタジーとしての世界観殺しにかかってる!」

「ゴー太郎はある高名な錬金術師に改造してもらったんだ!」

「改造っていうか魔改造だろ、これ!」

「いけゴー太郎! 魔王軍を殲滅しろ!」

『ゴーレムオー‼』


 魔物使いの指示に従い、ゴー太郎……改めゴーレムオーは魔王軍を蹂躙する。

 右手から放たれるロケットパンチ。左手のドリルアーム。胸から発射されるビーム光線。

 それらによって、魔王軍は最早壊滅状態である。


「もう、どっちが悪か分かんねぇ……」


 目の前の地獄絵図を前に勇者は呟く。

 心境的に「もう、こいつだけでいいんじゃないかな?」って感じなのである。

 すると、今まで事の成り行きを見守っていた聖女が魔物使いに尋ねた。


「後で、ゴーレムオーに乗せてもらっていいですか!?」

「なぜにこのタイミングで!?」

「いいよー」

「っしゃあ!」

「キャラ変わってません!?」


 搭乗許可を貰えてガッツポーズする聖女。

 どうやら少年の心を持っているらしい。聖女なのに。

 そうこうしているうちに、魔王軍は壊滅状態と化した。

 死屍累々の屍山血河。これを築いたのが三体の魔物であるというのが驚きだ。


「おのれぇぇぇぇぇぇ! よくも我が軍勢を! こうなれば貴様だけでもぉぉぉぉぉぉ‼」

「! しまった! 危ない!」


 いつの間にか接近していた魔王が魔物使いに殴りかかる。

 勇者が聖剣を、戦士が槍を手にして駆けるも間に合わない。

 聖女も同じだ。防御障壁の詠唱には時間がない。


「くそ! 魔物使い! 逃げろぉぉぉぉぉぉ!」

「遅い! これで終わりだ!」


 魔王の巨大な鉄拳が無情にも魔物使いに振り下ろされた。

 かに見えた……


「遅い、それは残像だ」

「なっ!?」

「お返しだ」


 その場にいた一同が仰天する。

 魔王が殴り倒したのは残像であった。

 完全に頭上を取られた魔王が防御するよりも早く、魔物使いは手刀を繰り出し。


「きえええええええええええ!」

「ぎゃああああああああああ‼」


 一刀両断。

 魔王は真っ二つに裂かれ、その場に倒れ伏した。

 呆気に取られる勇者たちを背に、魔物使いは呟いた。


「愚かな。魔物使いである僕が従える魔物よりも弱いと思ったか?」

「いや、マジでお前ひとりで十分じゃんんんんんん‼」


 こうして世界は救われた。


 余談ではあるが、今回の件で人事担当者が何者かに射殺されるという事件が発生したが真相は闇の中である。

 王国は巨大合体ゴーレムと言う軍事力を手にしようと、新たな魔王となった魔物使いと勇者一行と戦うことになるのだが、それはまた、別の話である。


 Fin


「いや、終われるかぁぁぁぁぁぁ‼」

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