追放した死霊術師が魔王となって現れました。そしてッ‼


 死霊術師を追放した。

 王国が「死霊術師など勇者パーティーに相応しくない。追放せよ」と難癖をつけてきたのだ。

 俺は勇者である以前に同じパーティーの仲間として、その命令を拒否した。

 だが、結局は押し切られてしまった。


「没落貴族のお前を勇者にしてやったのは我らだ。その指示に従えないなら他の者を勇者とする! そうすれば貴様の家族――母親はどうなるか考えてみよ!」


 ――そう言われてしまい、俺は結局、死霊術師を……友を追放した。

 父を早くに亡くし、女手一人で俺を育ててくれた母と天秤にかけたのだ。


 そんな彼が新たな魔王として自分たちの目の前に現れた時、「あぁ……これは罰なんだな……」

と思った。


「久しぶりだな勇者……これから貴様を墓場へと送ってやる」


 邪悪な笑みを浮かべる死霊術師に、かつての面影はない。

 単独で魔王を下し、新たな魔王となった死霊術師の力は本物だ。

 はっきり言って、俺たちが束になっても敵わないだろう。


 だけど最早、こいつは倒すべき敵なんだ。どれだけ力の差があろうとも、間違った道を進む友を俺は刺し違えてでも止めるんだ。

 己を奮い立たせ剣を抜く。

 戦いは始まった――!




「はい、こちら新しい四天王の暗黒司祭」

「は?」

「で、知ってると思うけど、こちら俺の友達の勇者くんね?」

「あ、あの……はじめまして……」

「あぁ、はい、はじめまして……」

「じゃ、あとは若い二人で……ごゆっくり、ね?」

「ちょっと待てコラ!」


 急展開についていけず、思わず昔のノリで立ち去ろうとする死霊術師を引き留める。

 戦いが始まったと思った瞬間、こいつは俺たちに転移の術を放った。

 目の前が暗くなったと思った瞬間、目を開けるとそこは魔王城の応接の間。

 そこでは上質なドレスを着た美しい魔族の少女が緊張した面持ちで座っており、俺は彼女と向かい合う形で座らされていたのだ。


「なぁ、これどういう事? せっかく覚悟決めてシリアスにまとめてたのに、なんで俺、お見合いとかしてんの?」

「ククククク……勇者よ、貴様を結婚と言う人生の墓場に送ってやる!」

「なに魔王っぽく言ってんの? 状況を説明しろ」

「へーへー、分かりましたよ。実はね……」


 そう言って昔のノリに戻った魔王こと死霊術師は事の経緯を話始めたのだった。


 俺たちと別れた後のこと。

 勇者パーティーを追放された手前、国に戻れば面倒ごとに合うと考えた死霊術師は、その辺をぶらついてたらしい。

 すると、ふと立ち寄った村で魔王軍の兵士が民に乱暴・狼藉を働いたのを目撃。

 それを助けたのを切欠にあれよあれよと革命軍の先導者に祭り上げられたのが発端だという。


「トップがクソだと苦労するのは民なのはどこもいっしょだなって思ったわ。まぁ、それで革命を起こしたわけよ」

「いや、でもよく魔王、倒せたな」

「そりゃ、四天王全員、魔王裏切ってこっちに合流したしね」

「四天王全員!? マジ!?」


 道理で四天王が守護するダンジョンなのに四天王いないと思ったよ!

 って言うか、魔王人望なさすぎだろ。


「なんか『消費税二十パーセントにするっ!』って言ったのが原因らしい」


 そりゃ、反乱も起きるわ。

 そうしてなんやかんやで魔王を倒した死霊術師はなんやかんやで魔王となり、なんやかんやで新生魔王として民からも慕われ、今に至る。


「で、いい加減、人間と戦争も止めたいなって思って、この状況を作ったわけだ」

「うん、そこが一番分からん! なんでお見合い!?」

「だって勇者が魔王軍の幹部たる四天王と結婚すれば、和平したも同然だろ。暗黒司祭は魔族の名門貴族の令嬢だからお前の家の復興も支援してくれるし、俺もお前と言う部下が手に入るし、誰も損しない」

「お前が一番得してない!?」


 誰が部下だ。誰が!


「そんなの勝手に決めるなよ! 大体他の仲間はなんて言ってるんだよ!? あいつら国から正式に派遣されてるんだぞ!? こんなの認める訳ないよ!」


 勇者パーティーにはあと三人、仲間がいる。

 魔を滅するために遣わされた聖女、国に忠誠を誓う騎士、立身出世を求める賢者だ。

 彼らがこのお見合いに賛成するわけが……


「初めまして! 魔王様! 本日より働かせていただくこととなりました騎士改め暗黒騎士です! 今後ともよろしくお願いいたします!」

「あぁ、御苦労さま。じゃあ、あっちで新人研修受けてきて。なにか分からなかったら四天王の魔将軍に聞いてね」

「はい!」

「……」


 ……一人既に裏切っていた。


「いや騎士ぃぃぃぃ! お前、なにやってんの!? 王国への忠誠は!?」

「そんなもん溝に捨てた」

「そんなあっさりと……!」

「ふんっ、あんな国王の下で働けるか! 毎日毎日、手取り十六万なんて低賃金でコキ使いやがって! その点、魔王軍の方がよっぽど待遇がいいからな!」

「……マジか」


 どうやら忠誠心が薄いのはうちの国王も同じらしい。

 近々、反乱が起きるかもしれない……

 生き生きと新しい職場へと向かう騎士を俺は見送る事しかできなかった。


「ちなみに賢者もヘッドハンティング済みだ。開発部四天王に抜擢した」

「賢者も!? ていうか開発部四天王ってなんだ!? 四天王って部署ごとに存在すんの!?」

「俺が新しく導入したんだよ。前は四天王だけで各部署回してたみたいだからな。今は総合四天王を筆頭に騎士団四天王・人事部四天王・開発部四天王・社員食堂四天王・事務員四天王と各部署に配置してる」


 ……社員食堂四天王・事務員四天王ってなんなんだよ。

 まぁ、賢者は仕方ないか。女だからと不遇な扱い受けてたって言うし、それなら正当に実力を評価してくれる組織の方がよっぽどいい。


「だけど、聖女は? 聖女は教会から魔を滅するように言われて……」

「あ、大丈夫。聖女はここの教会の支部の大司教になってもらうってことで話はついてるから」

「どんだけええええええ!? どんだけ根回しいいの!? お前!? っていうかよく教会と話付けたな」

「あー、それね死霊術で開祖蘇らせてお願いしてもらったんだ」

「そりゃ逆らえないよ!? だって開祖だもん! 開祖に難癖つけられないもん!」


 シレっとトンデモネェことやらかした死霊術師。

 教会開祖とか聖人と認定された人間は蘇らせるのは不可能のハズなのに、可能しやがったよ。


「いや~『世界平和のために協力して』って頼んだら二つ返事でOKくれてね。とりあえず『魔族は悪しきものに非ず。魔とはすべての人間の心の中に存在する負の部分である!』ってことで融和政策を図ってる」

「……流石開祖、徳が高い」


 そしてコイツも死霊術師としてのレベル高いだろ。


「まぁ、これでパーティー内に反対してる人間はいなくなった訳だから、お見合いに集中できるだろ」

「いや、でもさぁ……あの、お互い知らぬ身だし……」

「お見合いなんてそんなもんだ。それにお前のおふくろさんも来てるんだからな。きっちり見合いしとけ」

「は?」


 見れば見合いの席から離れたところに、なぜか王国で帰りを待っているハズの母がおり、こちらの視線に気づき手を振っていた。


「いや、なんでだぁぁぁぁぁぁ!? なんで母さん、魔王城にいんだぁぁぁぁぁぁ!?」

「俺が呼んだ」

「でしょうね!? って言うか、よく呼べたね!?」

「ついでに親父さんも呼んどいた」

「は!? 親父はもう死んでるんだぞ!? なに言って……」


 すると母の隣には一体のスーツを着たスケルトンが姿を現した。


「あれ親父ぃぃぃぃぃぃ!? なに態々、死霊術で蘇らせてんの!?」

「『息子見合いするから来て』って言ったら来てくれた」

「何さっきからシレっと、生と死の境界線無視してくれてんだ!」

「息子ヨ、早ク孫ノ顔ヲ見セテクレ」

「黙っとけ!」


 せめてもっとクオリティの高い状態で蘇らせて欲しかった。

 あれじゃあただのアンデッドだ。いやアンデッドだけど。


「勇者くん! せっかくのお見合いの席なんだからリードしなくちゃ!」

「母さん……この状況下になに一つ疑問を抱かないのか……?」

「じゃあ、あとは若い者同士で」

「いや、お前も若いもんだろうが」

「ジャ、ワシハ母サン久々ニハッスルシテクルカラ、オ前モ頑張レヨ」

「親父、自重しろ!」


 そう言って、相手方のご両親と退場していく我が両親と友は席を後にし、残されたのは俺と暗黒司祭だけとなった。


 ……俺にどうしろというんだ。


 たしかに暗黒司祭は可愛い。正直に言うと好みだ。胸がデカいのも高ポイントだ。

 だが、お互いに初対面だし何をしゃべればいいかなんて分からない。

 気まずい空気の中、時間だけが流れる。

 これが友を切り捨てた男への罰だと言うのだろうか?


(とにかく今はなにかしゃべらないと……)


 そう思い、俺は定番の一言を口にする。


「あの……ご趣味は……?」

「あ、えっと……拷問器具の収集を少々……」

「……」


 ……魔族との文化の壁は思ったより厚かった。

 だが、これで終わらせる訳にはいかない。

 友のために、家族のために、俺は覚悟を決めて戦いに臨む!


 俺の戦いはこれからだ――!


「あぁ、おばさん。デートなら勇者ランドのフリーパスありますよ?」

「あら、いいわね。遊園地だなんて初めてだわ」

「ウム! 久シブリに夫婦水入ラズト行コウカ」

「いや、お前ら、俺を放っておいてなにしてんの!?」


 ……前途多難かもしれないが。




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