第4話  膠着

「本当にここなの」


 横に立つ結沙がうんざりした声を出した。


「はあ、そのはずなんですけどね」


 僕は辺りをもう一度見回して首を傾げる。

 背後には宵闇に辛うじてその姿を浮かべた鉄塔。

 そして坂の途中にある一軒の民家。

 夢で見た情景に間違いない。

 けれどそこにいるはずの、泣き腫らした顔の女子高生の姿はない。

 このパターンはいつもなら携帯電話をその彼女に渡して夢は完結するはずだった。


「ちょっと貸して。持ち主分かるかも」

「無理ですって。電源入らないし」

「大丈夫。モバイルバッテリー持ってるから」

「なんでそんなもん持ち歩いてるんですか」

「だって私のスマホすぐ充電なくなるんだもん」

「バッテリー交換したらいいじゃないですか」

「やだよ、めんどくさい」


 そう吐き捨てた結沙は僕の手からスマホを取り上げると、鞄から細長いコードを引き出して躊躇なくそれに繋げた。


「あ、ロック画面かわいい。白猫ちゃんが鍵持ってる」

「やめましょうよ、勝手に」

「顔認証か。とりあえず私でなんとかならないかな」

「なるわけないでしょ」

「やっぱ、ダメかあ。同じ高校の女子なのに」

「そんなんで解除できたらまずいです」

「じゃあ、仕方ないね。交番に届けよっか」

「いや、それだと悪夢は終わらないから」

「我慢しなさいよ、頭痛ぐらい」

「もう、他人事ひとごとだと思って」


 うんざりとため息をついたそのときだった。

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