第5話  奪還


 空には茜色が消えかけた暗い雲が浮かび、寂しげに私を見下ろしている。

 さっきまで鉄塔の背後にあった斜陽はいつのまにか姿を消し、辺りはすっかり宵闇に覆われている。

 けれどそれでもまだ私は直斗の家の前に立ち尽くしている。

 もういいよ、帰ろうよ。

 何度か胸の奥で怒りをくすぶらせている誰かにそう持ちかけてみたけれど、やはり足はその場に根を張ったように動かない。

 もしかすると私は一生このまま動けないのだろうか。

 止めどなく涙が溢れてくる。

 私が悪かったのだろうか。

 幼馴染みだと気を許してしまった私が。

 後悔が繰り返し波のように押し寄せてくる。

 そして悲痛な呟きが喉から漏れる。


 お願い。

 誰か、助けて。


 もしかするとうめきにも似たその声が地を這い、そして届いたのかも知れない。

 ふと気がつくと背後に誰かの気配があった。

 振り返ると、そこに制服姿の男女が肩を並べて立っていた。

 彼らは短い言葉を交わしながら、手に持ったなにかを受け渡している。

 それを見た私は思わず目をみはった。


 どうして。

 なぜあなたたちが持っているの。


 イルカのストラップが揺れるスマートフォン。

 それは間違いなく私のもの。

 私は嗚咽を堪え、彼らに寄るとその手元にゆっくりと顔を近づけた。

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