第457話飲み放題!触り放題!くちゅくちゅし放題のニュルニュルし放題でおひとり様一時間三千円

「いいですか。カメラのバッテリーはもって二時間ですよ。そしてさりげなくカメラの電源をオンにするのは慣れてないと不自然に見えますんで」


「分かりました。田所さん」


「それで絶対に『不自然な動きをしない』です。今回は固定型ではなく『装着型』ですからね。どうしてもカメラの映りを気にして不自然な動きをしてしまいがちなんです。あくまでも『自然に』です。『自然に』」


「はい、分かりました。田所さん」


「ナチュラーだよ。ナチュラー」


「うるせえ。冴羽。お前が言うな」


 売人との約束の場所へ向かう田所と新藤と冴羽。移動しながら田所からレクチャーを受ける。


「コツは『大丈夫、ちゃんと撮れてる』と思い込むことですからね」


「はい」


「新藤ぉー。『撮れてませんでした』じゃ通らねえぜえー」


「うるせえ。冴羽」


「そうですよ。冴羽君。あんまりプレッシャーをかけると動きに『不自然』がどうしても出るもんなんです」


「あのぉ…、撮ってるのがバレてもぶん殴ればオッケーじゃないですか?」


「新藤君。ユーザーが求めているのは『リアル』ですよ。『リアル』です。そんな『バレても殴ればオッケー』では『リアル』は撮れませんよ。それに撮影中は『いかにも危険な人に勇気を絞り出して接触してみましたよ!みんなぁ!俺、頑張ったよぉ!怖かったよぉー!でも頑張って撮ったんだよぉー!みんな褒めてぇ!』ってぐらいの方が視聴者も共感するもんです」


「ぎゃははは。そうそう。『ビビりの新藤』を前面に出さねえとだぜ」


「おいこら。誰が『ビビりの新藤』じゃあ」


「まあまあ。でも冴羽君の言ってることは間違ってません。『ビビりの新藤』ぐらいでいけばちょうどいいんですよ」


「そうそう。ちゃんとやれよ」


「くそがぁ…」


 そして約束の場所の近くへと到着する三人。


「じゃあ約束の時間にはちょっと時間がありますが。新藤君はあそこへ。その前にカメラの電源をオンにしてください。緑のランプが点滅して消えれば撮影中って合図です」


「はい。あ、緑のランプが点滅して消えました」


「じゃあ大丈夫です。ポーチ型の方はあんまり触らない。眼鏡型は自分の視点とカメラが同じになりますからね。どっちかがしっかり撮れてれば大丈夫ですから」


「この眼鏡型は…、フレームの内側のランプが、緑色で点滅してますけど。これは相手にバレないもんなんですか?」


「はい。絶対にバレません。眼鏡型はそうやってフレームの内側で緑色のランプが『撮ってますよ』を教えてくれるのです。視線を動かさなくても確認できるんです。逆に眼鏡型は殴られればアウトです。壊れますからね」


「はい。了解です」


「では自分と冴羽君はここで待機していますから。なにかあればすぐに乱入しますから」


「俺一人で大丈夫だと思いますが…」


「ダメです。今回のミッションは動画を撮ることと売人をかっさらって話を聞きだすです。自分らの地元なら出来ることもここは土地勘もないところですんで。相手だってバックに見張りがいるかもですから」


「分かりました」


 そして眼鏡型カメラとポーチ型カメラを装着して売人との待ち合わせ場所へと向かう。


「大丈夫ですかねえ。あのビビりは」


「大丈夫ですよ。なにしろ副総長でしょう。新藤君は大丈夫ですよ」


 そう言いながら「大丈夫かなあ」と新藤を遠巻きに見守る田所と冴羽。その時。


「お兄さん!お兄さん!今日は飲みですか?」


「あ?」


「飲み屋探してますか?いい店知ってますよ」


「え?これは…」


「おひとり様飲み放題で一時間三千円です!かわいい子いますよ!」


「飲み放題ってのはビールや高いお酒も飲み放題で一時間一人三千円っすか?」


「はい!もちろんです!」


「ミロもあんのかよお」


「はい?ミロですか?あのココアみたいなあのミロですか?」


「ミロっつったらそのミロしかねえだろ」


「はい!もちろんです!ミロも飲み放題です!」


「田所さん!これは行くっきゃないでしょう」


「冴羽君。我々は大事なミッション中であり」


「大事なミッション中?そうなんですか?」


「いやいや!こっちの話です!いいお店を探すというミッション中でして!」


「だったら僕を信じてくださいよぉー。本当にいいお店ですからぁー。飲み放題!触り放題!くちゅくちゅし放題のニュルニュルし放題でおひとり様一時間三千円ですから!」


「えー、でも女の子の飲んだものは別料金とか言うんじゃないですかぁ?」


「大丈夫です!明朗会計ですから!」


「氷がバカ高いんじゃないですかぁ?」


「スーパーで買った氷ですから!」


「チャージ料が高いんじゃないですかぁ?」


「チャージ料は頂きませんから!」


「おつまみが柿ピーで数万円するんじゃないですかぁ?」


「柿ピーは百円です!それも込みです!」


「だったら…、ねえ」


 田所と冴羽の二人は現場の新藤を一人置き去りにしてぼったくりバーへ行ってしまう。そして誰にも気付かれずに田所はすでに新しいカメラを回していた。

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