第450話族と旅
「世良ぁ」
真木が闇医者のもとを訪ねる。
「真木…」
「あぁ、ちっと腕をな。『肉球会』の神内さんにここに行けとな。ちっとたまにはお前と膝付け合わせて話せとな」
「てめえなに寝ぼけたこと言ってんだ」
「あ?」
「うちの山下が事務所の前で刺されれた」
「あ?なんだと?」
「アイスピックでめった刺しで今も意識が戻らねえ」
「なんだそりゃ…、あのガキか…」
「ああ。間違いなくそうだろう。半グレ『模索模索』の間宮だ。『肉球会』の頭補佐も同じやり方で前にやられてる。先に言っておく。俺らがなにをしようとなにを論じたところで山下が無事に戻ってくる保証もねえ」
「俺がここを飛び出して暴れることを読んでるってことか」
「そうだ!いいかよく聞け。俺らはガキのケンカは卒業した立場だ。あの間宮はそういうのを許してくれないようだ。関係ねえとシカトかましてるとこの様だ。てめえに降りかかる火の粉はてめえで振り払わねえといけねえみてえだ。それにもっと早く気付くべきだった。それに気付けねえから山下がやられた」
「…まだやられた訳じゃねえだろ」
「ああ。そうだな」
世良兄が先にタバコに手を付ける。それを見て真木も同じくタバコを取り出す。
「話せや」
「なに?」
「お前は病人で俺は動ける。だったら俺がお前の考えで動く。だからお前の情報と考えを俺に言え」
「真木…」
かつて『たぴおか』を作った北風と太陽がもう一度手を組む。
『土名琉度組』事務所にて。
「関谷」
『土名琉度組』組長である緋山が関谷に声を掛ける。
「なんでしょう。おやじ」
「お前、最近あれやてな。本家の近藤さんにご足労頂いたらしいな」
「事後報告になってすいません。あの件は身内の不手際でして。その尻拭いでしたが、相手の方に近藤さんと兄弟分の方がいらっしゃいまして」
「そうか」
「今日の会合でもいろいろ言われましたが」
「お前の上納が増えて焦っとるもんも多いんやろう。俺はなんの文句もない。出処聞かねえのが俺らの約束事やろ」
「すいません。まあ、時代に合った商売を」
「庇うわけやないが今の時代、うまくシノげねえ連中は八方塞がりになっとる。昔ながらのシノギは根こそぎ潰されとる。『あいてー』ってのか」
「すいません。『アイティー』ですか」
「そうや。そういうのに対応出来んもんは下に頭下げて分けてもらう。それが我慢ならんで無茶しようにも組から止められる」
「シマには半グレや不良外国人もおります。今はそういう連中を上手く使うのも一つの手段かと」
「今までは連中もウチに頭下げてやってきた。金が大きいなってきてヤクザを舐め腐っとる連中も増えてきた」
「わしらにはこの国では人権もクソもありませんからね。連中はケンカ売ってきて旗色が悪ぅなれば平気でサツに泣き入れます。見栄も筋もなく外見をかなぐり捨てて実を取るんが連中の今のやり方でしょう」
「まあカシラの話もたまには聞いたってくれや。わりいな」
「はい」
「とにかく今のまま気張ってくれや。なんかあれば言ってこい」
「はい」
S県。『土名琉度組』のシマに『藻府藻府』先乗り部隊として潜入した田所、新藤、冴羽の三人。
「たまには新鮮でいいっすねえ。『旅』ですよ。これは」
「田所さん。これは『旅』じゃありません。『族』です。チームの大事な任務ですから」
大丈夫かなあと思う新藤。え?田所さんってあの昔に俺の前でタバコ吸ってた中坊を厚生させるために漢を見せてたあの田所さんだよな?とも思う新藤。でもパンチパーマを7:3に分けてるのはあの田所さんしかいねえよなあとも思う新藤。
「なんてったってビビンバあ!新藤!俺らの単車は!?」
「冴羽ぁ。なんども言わせんなよな。あとから持ってきてくれるって宮部が言ってたろ。それに足代も宿代も貰ってるし。なんかあればタクシーに乗ればいいだろ」
「新藤よぉ。俺ら族だぜ?ここはS県だぜ?いめーじだうん、いめーじだうん、いめーじだんだんだん」
「うるせえよ!俺らが先乗りしてる意味を考えろ。目立ってどうすんだ。後から合流するあいつらのためにいろいろ調べといてよお」
「なに調べんだ?」
「そりゃあ…、この街の勢力図とかよ。『値弧値弧會』のこととかよお。些細なことでもいいんだよ。どういうシノギをしているだとか。頭はどいつで『土名琉度組』とどういう風に付き合ってるとかよぉ」
「どうやって調べんだ?」
「だから…、田所さんにもついてきて貰ったんだよ」
「あ?自分すか?」
「そうです。ここは情報の専門家である田所さんのお力を十分に発揮してください!よろしくお願いします!」
「そっすねえ。やることは皆さんのやり方とあんまり変わらんと思いますよ」
「え?そのやり方とは?」
「目に入る気に入らねえ奴をぶん殴るんすよ」
そう言って田所が目の前の方向を指さす。そこには薬の売人らしき男が。
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