第417話ひとろぐ

「おじき…。おじきの言ってることは間違っていません。頼まれてもねえのに人のやることにいちいち点数をつける連中はロクなもんじゃありません」


「じゃろ」


「日本広告審査機構ですね」


「はあ?」


「ま、ま。近い将来、人を評価する『ひとろぐ』まで出来るかもしれませんね」


「『ひとろぐ』かあ。そりゃあまたけったいなもんやなあ」


「その前に飯塚さんや敦に期待しましょう」


「『ひとろぐ』の前に『組チューバー』やなあ。どうせなら誰もやってない今なら『組チューバー』に『ひとろぐ』も作ってもらうか。儲かるでえ」


「ですね」


 ちなみに『ひとろぐ』は二千二十年に世に出ている。



「田所さん。電話ですか」


「あ、まあ。ちょっとですね。それよりもう夜も遅いです。たなりん君は明日も学校でしょう。解散しましょう」


「え?じゃあ俺はこいつと…」


 忍と二人きりにはならないだろうと思っていた宮部がちょっと慌てる。


「そうなりか。たなりんも帰らないとなりね」


「あ、じゃあたなりんは俺がいつも通りバイクで送ってくよ」


「宮部っちパイセン。たなりんは俺のバイクで送っていきますよ。それよりこいつをよろしくですー」


「田所さん!俺も明日は仕事です。仕事先までこいつを連れていくわけにはいきません」


「あ、大丈夫ですよ。明日の朝にはまた来ますから」


「え、いや、泊まっていった方が帰る時間を考えたらですね」


「いえいえ。飯塚ちゃんの部屋を自分は借りてますから。それに今日も帰ってパソコンを触らないとです。飯塚ちゃんがいないから余計頑張らないとですんで」


「パソコンならウチの部屋にもありますよ!」


「動画編集ソフトはないですよね。それに編集中の動画もありますんで」


「なーに言ってんすか。宮部っちパイセンはー。男に二言はないっすよねえ」


「んのやろー…。世良ぁ。あったりめえだろ。『藻府藻府』十代目宮部一郎様を舐めんじゃねえよ」


「お、かっこいいね♡じゃあたなりん。行こうぜ」


「宮部っち乙なりー」


「宮部っち君乙です」


 そう言いながら忍を残して宮部の部屋を引き上げる三人。そして。


「宮部っちパイセン♡」


「んだよ。まだなんかあんのか」


 そこで義経がふざけた表情を消して真面目な顔を宮部に見せる。


「こんなことあんたにしか頼めねえ。これは兄貴の意思だ。頼むぜ。宮部」


「…」


「彩音ちゃんに抜け駆けかましたらダメっすよー。たなりんが怒りますんで」


「…うるせえ」


 義経から漢気を買われたと察する宮部。様々な感情を抱きながら部屋に戻る。そして久しぶりにサシで忍とツラを突き合わす。


「…わるい。邪魔だったらすぐに出てくよ…」


「うるせえ。俺はてめえが死ぬほどきれえだけど引き受けた約束を破るのはもっときれえなんだよ」


「…すまねえ」


「うるせえ。てめえはさっき言った通りだ。俺の許可なしにこの部屋を勝手に動くんじゃねえ。それを破ったら俺がてめえを殺すからな」


「ああ」



「間宮ぁ。おめえはやっぱすげえわ。打ち出の小槌じゃわ」


「伊勢さん。まだ途中ですよ。喜ぶのは早えっすよ」


 『身二舞鵜須組』若頭の座をぶんどった伊勢が『蜜気魔薄組』の事務所で間宮と話す。


「でもよお。この『炎上テロ』動画を使った企業ゴロは使えるぜ。『オレオレ』や『薬』よりも効率もええ。パクられるリスクもねえ。見返りもデカい。これからはこのシノギを真似する奴が出てくるぜ。真似されてもええように特許でもとるか。おお。はっはー」


「特許もクソもないっすよ。こんなの誰でも思いつくことっす。まあこれから同じようなシノギが流行るんでしょうねえ」


 間宮がつまらなそうにタバコを吸う。伊勢は楽しそうにタバコを吸う。


「まあおめえの言う通りよ。実際に金が入って初めて喜ばんとな。でもよお、ホントにおめえはこういう嗅覚が長けてるわ」


「『逆盗撮』も所詮は焼き畑農業っすよ。新しい餌場はてめえで探していかねえと。それより次は『土名琉度組』。あそこでムチャやればいよいよ『血湯血湯会』本家が出てくるでしょう」


「あ?今になってビビったか」


「はは。まさか。それよりあそこの半グレはちっと今までとは違うでしょう。不良外国人、それに『藻府藻府』の七代目がいるって聞いてますし。まあその『藻府藻府』も今夜にでもなくなりますよ」


「あ?」


「占いっすよ。占い。前に言ったでしょ。俺の占いはよく当たるって」


「ほー、お前の占いかあ。そりゃ楽しみやな」


 今宵、『たぴおか』に続いて宮部の部屋が狙われる。

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