第415話一日二十四割の利息

 慈道は目の前の真木を見ながら思っていた。


(なんだこいつ…!折れた木刀で刺されてんだぜ…。闇金ふぜいにこんな野郎がいんのかよ…)


 慈道が見てきた闇金のイメージ。見た目や怒声で相手を威嚇する人間がやたら多い。だが実際には金を一番と考える人間ばかり。自分より弱い人間にはとことん強い人間ばかり。しかし真木は違った。そして立ち会った時に修羅場をそれなりに潜ってきたものにだけ分かる感覚がある。間宮とタイマンを張った時と同じ感覚。


『こいつには勝てねえ』


 慈道が連れてる部下も決して弱くはない。その辺の小僧とやり合ってもそうそう負けないだろう。そんな人間を連れての二対一でも真木相手では分が悪い、と。


「ちょうどええ。お前ら、集金だぁ。ウチの店から金つまんだよなあ。つまんでねえとは言わせねえ。元金に利息、慰謝料と事務所の修理費、その他諸々。諸経費込みで一本で勘弁したる」


 手負いの真木と相対しながら慈道の頭の中では次の行動を考えていた。『たぴおか』の事務所を襲った真の目的。中山忍はここにいるはず。どこだ。目の前の化け物を倒す意味はない。やり過ごせばいい。部下と二人でいきなり木刀でボコにすればすんなり忍の居場所を得られると思っていた。それがまさかの反撃。まさかのモンスター。襲撃は五分で終わる、そう計画していた。まさかのイレギュラー。


「…ここに中山ってガキがいるだろ。そいつを出せば俺らは黙って帰る」


「あーーーん!?黙って帰るだあ!?条件は俺が出してんだぁ!てめえら俺をあんま怒らせるなよ。利息は俺の機嫌次第で変動する。今の舐めた言葉はムカつくなあ。一本から二本に倍増だ」


「あ?そんな金払うと思ってんのか?」


「払う。払うんだよ。俺にそう言われた奴はどんなに強がろうと全員払うんだよ。例外はねえ」


「じゃあ初めての経験になる。俺らがこの事務所に入って五分経っても出てこなければ非常事態の合図と決めてある。外で待機してる連中が十人。一斉に中に入ってくる。腕に自信があるみたいだが十二対一ではどうかな」


 それを聞いて真木が血に染まった左手をだらりと垂らしながら右手でタバコを取り出してそれを咥える。そして。


「待ってやるよ。あとちょっとだろ。めんどくせえ。全員この場に呼べや。十二人か?だったら利息も六倍や。十二本な。俺は回収するっつったらするぜ。おう兄ちゃん」


 そう言い終わる瞬間、真木が吸っていたタバコを右手中指で弾く。それに気を取られた慈道の部下が隙を見せる。それを逃さず間を詰めた真木が慈道の部下の髪を掴んで引きずり倒す。


 ブチブチブチブチ!


「あああああ!」


 慈道もすぐに『ここから撤退する』へと意識を切り替える。ケツのポケットから取り出したスプレーを真木へと向けて発射する。それを本能で血だらけの左手をあげて顔を守る真木。


(ちっ、催涙スプレーかあ?舐めた真似しやがって…)


 催涙スプレーを顔で受けると終わる。激痛と視力の喪失。回復まで時間もかかる。その隙に人差し指に力が入らない右手から慈道の部下が抜け出す。


「ふけるぞ!」


 慈道の声に慈道の部下もそれに従う。二人は真木に背を向けて『たぴおか』から去ろうとする。


「なんだそりゃあ」


 ぶっ壊れた左手も使って真木が両手で近くにあった椅子を掴んで逃げる二人目掛けてぶん投げる。


「ぐあっ!」


 椅子は慈道の部下の背中にめり込む。そしてその場に倒れ込む慈道の部下。慈道は部下を置き去りにしたまま『たぴおか』の事務所から飛び出す。残された男をすぐに捕獲する真木。


「こらこら。無駄だよ。仲間がくんじゃねえのか?利息はさらに倍だ。二十四本な」


 マスクで目の下が隠れている男の目が絶望の目になる。狂気の笑みを浮かべた真木は一瞬で男の右腕をへし折ってしまう。男の悲鳴が『たぴおか』の事務所に響き渡る。



「敦。元気でやってるか」


 住友からの電話を受ける田所。


「かしら。元気でやってます。今日はどうしました?」


「ああ。ちっとな」


 『肉球会』へと持ち込まれた動画の説明をする住友。


「まさか…ですね。そんなことが…」


「そうや。そんなことがや。でも実際に起こってんだよ」


「ですね…」


「それで動画を持ち込んできたのは堅気の社長さんや。わしらが表立って動けんことや」


「…組チューバーで動けってことですね?」


「そうなる。すまんなあ。忙しいところに」


「いえ。そんなあ…。かしらが謝らんでください。それにこれも自分らの『役』です」


「敦。ええ若いもんに育っとるなあ」


「ありがとうございます!」


 宮部の部屋で電話を受けた田所。今は部屋の隣の狭く汚いキッチンで話をしている。


「ん?なんか騒がしいな。出先か?」


「すいません。組チューバーの打ち合わせ中でして。はい」


「そうか。この後、ラインで問題の動画もすぐに送る」


「はい!すぐに対応します」


「おやじ直々のご指名や。きばれ」


「え?おやじ直々ですか?はい!この田所!しっかりと期待に応えます!」


「頼むぞ」


 そう言って電話を切る住友。そしてラインを開いて動画を送る。それを後ろから見ていた二ノ宮が住友へと声をかける。


「組チューバーか…」


「あ、おじき。そうです。田所ですよ」


 そこから二ノ宮の愚痴が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る