第414話夜トイレに行くのが怖いから一緒についてきて

「ふざけんなあああああああああああああああ!ウチを割ったこいつを俺の部屋で匿って欲しいだとおおおおおおお!それを俺がはいと答えるとでも思ったのかあああああああああ!」


 荒れる宮部。


「へえー。あの真木とやり合ったと…。へえー」


 興味津々な田所。


「確かにあいつはちょっとしんどいですね」


「でしょ?あいつとやり合って、まあその程度の傷で済んだことがすごいですよ。これって実質『引き分け』でしょ?」


「どうですかね。あのままやってても勝てる自信はちょっとないですかねえ」


 義経にいろいろと質問を投げかける田所。


「あいつってアホみたいにタフでしょ?それにケンカが下手というか。相手の攻撃を避ける気がないんでしょうかね。全部受けるでしょ」


「下手といいますかねえ。逆に上手いと思いましたけどね。俺の合気に合わせて素早い動きとかしませんでしたし。俺の場合、力任せできてくれればその方が楽なんですがそういうのを察知したように動いてましたねえ」


「へえー。真木も技使うようになったんすねえ」


「いや、田所さん。あいつのことにやたら詳しいですね」


「そりゃあ『肉球会』は『たぴおか』と付き合いが長いですからね。世良さん、まあ義経君のお兄さんには散々お世話になってきましたからね。その間に真木のことはたまーーーーに耳にしたり目にしたりですかね」


「正兄ぃ、あ、ウチの兄貴とはどんな感じだったんですか?」


「仲がいいというより相棒でしたね。太陽の世良と北風の真木でいいコンビでしたね。自分から見ててお兄さんの方が頭も切れるし大人でしたね。真木は…、まあ、見ての通りで変わらずの狂犬でしたね。狂犬。なんにでも吠えるし噛みつく」


「へえー。そうだったんですね」


「そうですよ。ウチの組にも噛みついてきましたからね」


「え?そうなんですか?『肉球会』さんにですか?あの人?」


「そう。あの真木です。まあウチのシノギ、広告屋や無料情報館ですね。そういう表のしっかりとしたシノギを全面的にサポートしてくれたのがお兄さんでして」


「あ、それは聞いてます。ウチの兄貴も『肉球会』さんのことを『今どき珍しい極道だ』って言ってましたね。ウチの兄貴が認めるって珍しいことなんで印象に残ってますけど」


「あ、そうなんですか。それはまた光栄ですね。まあ、それだけお兄さんにはよくしてもらってたんですね。それを真木は良しとしないと感じていたみたいでして。真木の気持ちも分かるんです。そりゃあ自分らが下積みして得た知識やノウハウを簡単に教えてもらうってのは虫が良すぎると思ったんでしょうね。当然です。自分も直接は言われてませんがわざと聞こえるように『あんなクソヤクザになにレクチャーしてんだ!』とか怒鳴られたことは結構ありましたからね」


「あの人が…。天下の『肉球会』さんの方にそんなことを怒鳴るとは…」


「『自分でシノギも出来ない乞食ヤクザが!』とも言われたことがありますね」


「へえー。よく我慢しましたね」


「我慢できるわけないじゃないですか」


「え?」


「自分はお兄さんの見えないところであいつに突っかかったことがあるんですよ」


「マジですか?それでどっちが勝ったんですか?」


「愚問ですよ。自分は元『肉球会』ですから。あんな素人にステゴロで負けるわけないでしょ」


「すごいですね。あいつに勝ったんですか?」


「まあ勝ったといいたいところですが…。途中でお兄さんの『止め』が入りましてね。それでもあの真木はホントにタフでしたね。『鞭打ち』を五発も繰り出して泣きいれなかったのは後にも先にも真木ぐらいですからね」


「へえー。それで『鞭打ち』ってなんですか?」


 ここで座ったまま義経に『鞭打ち』の説明をする田所。それを真剣に聞く義経。そんな義経に宮部が怒鳴る。


「てか聞いてんのか!おい!俺の部屋は絶対に無理だからな!」


 そこでたなりんがぼそりと口を出す。


「あのお…なり」


「あ?どうしたたなりん。たなりんもこんな余計な爆弾が近くにいたら嫌だよなあ。おらおら。そういうことだ。とっとと出ていきやがれ」


「違うなり…。その人は困っているなりね?だったらたなりんの部屋に泊まるなりか?」


「そうそう。たなりんの部屋に…っておい!お前マジか!マジで言ってんのか!?」


「だって…、つねりんのお願いなりし…。その人が困っているからつねりんも頭を下げてお願いしてるわけなりし…」


「だーかーら!こいつは頭も下げてねえだろ!?お願いじゃなくこいつらが言ってることは『夜トイレに行くのが怖いから一緒についてきて』って言ってるのとお・な・じ!ガキじゃねえんだからよ!トイレに行くのが怖えならその場で漏らしちまえっての!そういうこと!」


「たなりん…。いいのか?」


 たなりんの言葉に反応した義経が田所との会話を中断し、言う。


「待て待て待てえええええええ!いいかたなりん!こいつを部屋に匿うってことはたなりんの部屋が間宮どもに狙われるってことになるんだぞ!」


「間宮君は…たなりんの親友なり…」


「だーかーらー!ちげえんだよ!たなりんは本当のワルがどういうことをするか分かってねえ!だいたいたなりんちは家族も一緒だろ!間宮どもはそんなのお構いなしで襲ってくるぞ!どうすんだ!?たなりんのおふくろさんが半グレどもに殴られたりしたらよお!」


「…間宮君はそんなことしないなりよ…」


「たなりん!もしそうなったら俺が命にかけて守るから!」


「ほらみろ!この世良のバカも襲われる前提で言ってるだろ!利用されてんだよ!」


「…つねりんはたなりんの大事なツレなり…。そのツレが困っているのを…たなりんは無視できないなり…」


「くぅーーーーーーーーー!な・ん・で・そ・う・な・る・かなああああああああ!」


 頭を掻きむしりながら苛立つ宮部。そして。


「分かったよぉ!俺の部屋で匿ってやんよ!ただし!条件がある!俺の許可なく動くな!この部屋にいるうちは俺に無断で勝手に動くんじゃねえ!いいな!」


「さっすが宮部パイセン♡」


「すまねえ…」


「おらあ!俺は発言の許可をしてねえだろおが!勝手に喋んじゃねえ!息もすんじゃねえ!」


「あざーっす」


 そう言ってパーラメントを咥える義経。


「タバコもだあああああああ!勝手に吸うんじゃねええええええええ!」


 慈道は忍を消せとの命を間宮から受けていた。『たぴおか』事務所を襲撃すればその任務も達成できる、そんな計画に十代目『藻府藻府』頭・宮部が立ちふさがる。

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