第413話こんなもんシノギとは言わん。犯罪じゃあ!

「わしの考えも兄弟やかしらとほぼおんなじや。動画でやってることだけを見ればガキのいたずらや。周りの大人が『こらっ』言うたら終わる話や。それが今の時代、企業殺しまでになりよる。ネットとSNSでここまでの時代になるかあ。それでこの手の動画に金を払ろうたら前例になるやろ。後ろで糸引いてるもんが喜んで第二、第三の鉄砲玉か、上手いこと言うな。無邪気な鉄砲玉を送ってくるやろ。キリがない。ここは毅然とした態度を示さんことにはつけあがるやろ」


「そうですね。でもここで金の要求を突っぱねれば動画は世に出るってことですか」


「お前ら。コピーもしていない。オリジナルはこれ一本と言うてる動画がなんでここにあるか分かるか?」


「あ…。まさか『寿司食いねえ』の社長さんが金をすでに払ったとかですか?」


「ん?それはまだや。企業も慎重になっとる。トップだけで決められることでもない。すぐに答えが貰えるとは動画を持ち込んだ小僧たちも思うとらんやろ。わしも平和が一番、堅気さんが一番と考えたんやが。この問題はそう単純な問題でもない。まずは『コピーもしていない』、『オリジナルはこれ一本』と言われてた動画がすでにその企業の社長さんの手元にもあるってことや。それが何を意味するか?」


「要求された金を払ったところで動画が世に出ない保証はないってことですね」


「そうや。動画は話を持ち込んだ小僧どもがタダで手放すわけがない。見せるのは一度で充分や。そこで社内会議で結論を出したいとなるわな。首謀者が分かっとらん現時点でも一つの動画で五千万から一億の値が付く動画や。そこでスマホからスマホに動画を送った。ここで動画はすでに拡散されとるわけや。企業でも現トップを良しと思わない存在もおるわけや」


「つまり、金を払っても動画が世に出る可能性は残るってことですね」


「普通に考えたらそうや。別に金を要求していないのにこれでなかったことにしてくれと大金を渡される。そうなるとまあ個人では出せん金額や。いくら企業のトップでもおいそれと使える金額ではない。そして法的に有効な契約を結んだとして。そんな契約書を表に出せるか?」


「そんなもんなんですか?」


 ここで住友が説明する。


「ここで金を出したとして。それは企業の不祥事隠しと受け取られる。それに金を受け取った人間が反社の人間だったらもっと問題になる」


「不祥事隠しって言いましても…。勝手にガキが余計なことして勝手に動画を撮っただけですやろ…」


「でも金は企業側から勝手に払ろうたとなれば。そんな金を要求するつもりは一ミリもなかったというやろ」


「それなら金を払わんってことで」


「それが理想や。ただ、そうなると荒れるぞ。動画を持ち込んだ小僧どもも言うやろ。『そうですか。じゃあ他にこの動画を必要としてる人もいますんで』と。今のニュースの報道みてみい。企業は断固として謝罪は受け入れんと。被害届を所轄に提出して民事、刑事の両方で争うと言うてる。そうなると困るのは誰や?ガキのケツ拭くんは誰や?」


「そのガキの両親、身内ってことになりますね…」


「そうや。動画を持ち込んだ小僧ども。それを裏で糸引いてる奴にとって結果はどうでもええんや。企業が金を出せばその企業は自分らの財布となる。便利なATMになる。企業が金を出さんかったら動画に映っとるガキを生贄にすればええ。企業の株価も下がる。インサイダーで儲けたらええ。SNSで動画一本を上げるだけや。指一本で億の金が転がり込んでくる」


「エグいシノギですね…」


「こんなもんシノギとは言わん。犯罪じゃあ!」


 神内の珍しく厳しい口調に一瞬沈黙する昔気質で屈強な肉球会の組員たち。そしてその沈黙を住友が破る。


「そうですね。ちょっと昔ならこういうわりいことする輩は自分らが出張ってお仕置きすれば済んだんでしょうが。悔しいが『時代』って言葉をどうしても使っちまう。ネットにはシマの線引きもねえ。この国のお偉いさんは俺らみたいな存在を排除にかかった。それが今の現実。悪知恵の働く素人が俺ら以上の悪さし放題で。こういう行為こそが暴力でしょう」


「かしらの言いたいことも分かる。それでも俺らは『クズ』じゃ。『クズ』が理屈こねててめえの存在意義を主張しても言い訳にしかならん。『クズ』は肯定されるもんじゃねえ。てめえらもそれを分かったうえで本気でこの道選んだんやろう」


「すいません」


「構わん。お前が言いてえことを言うことでわけえもんも納得できる。普段忘れとることを教わる」


「ありがとうございます」


「それで…。この件はどう動きますか。バックを調べてぶったたいた方が早いと思いますが」


「裕木。それもええ。けどなあ、ウチにはこういう時にうってつけの部署があるんを忘れたか?」


「部署ですか?」


「そうや」


 裕木をはじめ、他の組員たちも「?」の表情を見せる。そこでただ一人、京山だけが気付き、その名を口にする。


「組チューバー…ですか」


「そうや。堅気には堅気を。悪党には力で。わしらが出来んことが出来るスーパーマンが揃ったあの漢たちや」


 その日のうちに田所の携帯へと住友から連絡がいく。問題となっている動画も送られることとなる。

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