第412話寿司に唾を塗りたくる簡単なお仕事です

「おやじ。今日はなんの集まりですか?」


 緊急招集がかけられた『肉球会』に昔気質で屈強な全組員が集まる。


「みんなこのパソコンの周りに集まってくれるか。学」


「はい」


 神内の言葉で学が用意したノートパソコンの周りに集まる昔気質で屈強な組員たち。そして学が一本の動画を再生する。


「あ、これは…」


「最近よく見ますね。この動画を」


 学がノートパソコンで再生させた動画は未成年が回転寿司で回っているお寿司やテーブルに備え付けられている湯飲みや醤油などにいたずらをしているものである。そして神内が言う。


「住友。あとの仕切りはお前がやってくれ」


「はい。この動画はみんなもテレビやニュースで見たと思います。まあ昔からある『バイトテロ』みたいなもんですね。これはまあ『回転寿司テロ』とか『ペロテロ』ですか。いろいろと言われてるみたいです」


 そこで舎弟頭の二ノ宮が言う。


「けったクソわりぃ」


「ん?おじき。どうしました」


「こんなのガキがいたずらしただけやないか。騒ぎすぎじゃい」


「まあ、自分もおじきと同じような考えですが。その辺の責任も分かっていないガキが軽はずみでやったことでしょう。でも今はネット社会でして。風評被害が出ます。実際に企業の株価にも影響が出てます。自分もたかがガキのしたことと思ってますが世論はそうではありません。このガキに損害賠償をきっちり払わせろとの声が多数です」


「まあ、仕方ないとも思いますね。自己責任って言葉もありますので」


「かーっ、ほんまにクソが。わしがガキん時は学校の校舎の三階からガラス割って机放り投げたった。パチ屋の台のガラスも割ったった」


「ああ、おじき。パチ屋の台のガラスって安いですよね。確か一万円しなかったですね」


「なんや。裕木。お前も割ったんかい」


「ええ。海で朝一1500ハマり食らいまして」


「いいですか」


「あ、すまんすまん」


「それで学。次の動画を」


「はい」


 住友に言われ、次の動画をノートパソコンで再生させる学。それをみんなで覗き込む昔気質で屈強な『肉球会』の組員たち。


「ああ…、似たような動画ですね」


 学が操作するノートパソコンには、回っている寿司に唾を塗りたくり、鼻くそを塗りたくり、股間に手を入れ「あからさまにチ〇ポを今触りましたよー」という手で回転している寿司を触ってはバカ騒ぎしている若者の姿が。


「はあー。こいつもバカですねえ…。あれ?この寿司屋って…」


「そう。この動画はウチのシマウチの回転寿司屋『寿司食いねえ』と『ざぎんですーしー』で撮られた動画です」


「え?『寿司食いねえ』ってのは分かりますが。『ざぎんですーしー』もやられたんですか?」


「ああ。それでこの動画はまだ世には出ていない」


「え?」


「おやじが懇意にされてる方の紹介でウチにこの動画が回ってきたわけだ」


「回転寿司だけにですね」


「健司。茶化してんじゃねえよ」


「すいません」


「それで世に出ていないそんな動画がなんでウチに来たんですか?」


「それな。単刀直入に言う。恐喝や」


「な!」


「なるほどなるほど。今度はそう来たか。で。強請ってきてんのはどこや」


 舎弟頭の二ノ宮が言う。それに住友が答える。


「それがただの堅気の小僧なんです」


「堅気の小僧やと?そんなわけあるかい!絶対バックがおるはずやる!」


「ええ。自分もそう思います。ただこの件が厄介なのは今の段階で正確に言えばこの動画を持ち込んだ人間は恐喝に当たる言葉を一切使ってない。みんなも知ってるように『寿司食いねえ』も『ざぎんですーしー』も全国展開している企業です。もちろん株式も上場してます。それが何を意味するか」


「ただのおふざけ動画に数千万から一億の値が付くってことですか」


「そう。そして黒幕は今のところ分かりませんがこのやり方の上手いところは動画を持ち込んできた時に『こういう動画がたまたま手に入った。コピーは存在しない。オリジナルはこれ一本のみである。これを欲しがっている人間は他にもいる。だから困っている。どうすればいいかご意見をお聞きしたい』と企業へと話を持ち掛けたところです」


「なるほどですね。言葉だけなら恐喝にはなりませんね」


「そうだ。動画を見せられてそう言われたら企業が取る選択はひとつだけ。『その動画を買い取りたい』となる」


「でも待てや。そんなん自作自演でいくらでもやれるやろ。そのたびに数千万?から一億やと?そんなん企業ゴロと変わらんやろが」


「そうなんです。これはもう自分らの業界でいうところの『鉄砲玉』です。動画が世に出れば映っているガキは世論にボロクソ叩かれるでしょう。それでもそういう『鉄砲玉』がおるってことです。その数が分からんってことです。恐らくですが金を払えば味をしめた黒幕が第二、第三の『鉄砲玉』を飛ばしてくるでしょう。それに『動画のコピーは存在しない。オリジナルはこれ一本』という言葉も嘘は言ってません。ただ。今、ラインで動画を一本、二ノ宮のおじきへ送りました」


 ぴろん。


「ああ。来てるな。ん?なんやこれ」


 二ノ宮のおじきが住友から送られた動画を開く。アニメのエンディング動画である。


「すいません。最近のお気に入りの『中索萬(ちゅんそーまん)』のエンディングを撮りまして。その動画です。まあそれはさておき。ラインで動画を送ればそれは『コピー』になりますでしょうか?」


「あ」


「お察しの通りで。動画をコピーはしていない。オリジナルはこれ一本。でもそれを誰かに送った。それを勝手にスマホやパソコンに落とすかまでは知らないと言われたらそれまでです」


「なるほど…」


「この件。おやじは金を払ったら終わりやとお考えです。そうですね。おやじ」


 ここで神内が口を開く。

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