第411話「半グレ」対「負けと引き分けのない男」

 一方。残った二軒を池田と山下に回らせる真木。


「いいかぁ!全店舗の店長と日計表と被害額をきっちりと揃えて事務所に持ってこさせろ!」


 そう言って池田のケツを蹴り上げて真木が先に一人で事務所へと戻る。


「ちっ…、クソがっ!世良の野郎ぉ!俺に隠れて新店だとぉ!?きっちり詰めて俺の取り分は払わせる…、クソがっ!」


 『たぴおか』の事務所でソファーに座りながら腹が立っては周りの備品に当たり散らしながら一人怒鳴り散らす真木。そして事務所の冷蔵庫の中を覗き込む。


「ちっ…、ビールはあるか…」


 そう言って冷えた缶ビールを三本まとめて取り出してソファーの前のテーブルに置く。一本の缶のタブを開けて一気に飲み干す。


「ぷはーっ」


「うめえか?」


「あ?」


 一人のはずの事務所で自分の背後から声が。冷静に、同時に侵入者のその生意気な口の利き方に怒りながら振り向く真木。その瞬間。


 バキッ!


 慈道が力いっぱい振り下ろした木刀が真木の後頭部を捉える。そして折れる。


「ああ?」


 慈道の木刀を頭でモロに受けた真木が一瞬なにが起こったのか理解できず声を出す。そして慈道の部下が間一髪入れずに二発目の木刀を振り向いた真木の顔面に入れる。


 ベキぃッ!


「ガハァッ!」


 木刀は真木の鼻の上、目に並行してモロに入って折れる。そして慈道が反撃の機会を真木に与えないよう折れた木刀を力いっぱい振り下ろす。


 ザクッ!


 慈道の二撃目は体を庇った真木の左腕を捉える。鋭く尖ったドス以上の殺傷力を持った折れた木刀は真木の左手にざっくりと刺さる。真木も激痛を必死に堪える。刺さった木刀ごと人差し指の折れた右手でがっつりと掴んで自分の方へ引く。慈道も思わず木刀を離してしまう。そこへ慈道の部下も折れた木刀で刺しに来る。その攻撃を下から思い切り右足で蹴り上げる真木。


「なんだそりゃあ。おい、誰だおめえら」


 左手に刺さった木刀を抜きながら真木が言う。左手からは木刀を抜いた瞬間に血が噴き出る。それを見て思わず慈道もその部下も一瞬ひるむ。顔はマスクだけで目の下を隠している。それを見て真木が続ける。


「あ?おめえらか。タタキってのは。タタキに入るんならならよお、相手選んでやれや…。死んだぞおめえら」


 そう言って新しい缶ビールを右手一本でタブを開き、口に含む真木。そして消毒代わりにビールを思い切り左手の傷口へと吹きかける。そして左手を血とビールで濡らした手負いの真木が狂人の笑みを見せる。



「それで間宮は今どこにいんだよ?」


 タバコを吸いながら宮部が訊ねる。


「分からねえ」


 忍の言葉に呆れる宮部。


「ああ?馬鹿かおめえ。いや、馬鹿はもともとか。世良も知らねえのか」


「うん。そんなに連絡取る間柄じゃないからねえ。宮部っちパイセンのよく知っている福岡とかが知ってんじゃね?」


「ああ…、あの馬鹿もいたなあ。あいつってまだ生きてんのか」


「間宮君とこの幹部で消えたのはあ、鹿島?比留間?そしてこいつか」


 そう言いながら義経が忍を親指で指す。


「福岡は新藤が出ねえと話にならねえか…」


「新藤君?ああ、宮部っちパイセンんとこのナンバーツーだっけ」


「そうだよ。文句あっか。とりあえずウチの新藤に動いてもらうわ」


「すいませんねえ」


「あ?別にお前らのためじゃねえからな」


「実は今日ここに来たのはメインのお願いがあってね。宮部っちパイセン♡」


「あ?メインのお願いだあ?」


 義経の意外な言葉に田所もたなりんも興味津々となる。


「実はあ、この中山君があ、行くところがなくてえ。宮部っちパイセンの部屋でしばらく匿ってほしいなあって、ね」


「ふざけんなあああああああああああああああ!」


 思わず大声で義経を怒鳴りつける宮部。


「まあまあ。話だけでも聞きましょうよ。それになにか訳アリっぽいですよね。匿うのは飯塚ちゃんの部屋でもいいわけですし」


「田所さん!甘すぎです!どこまで甘すぎなんすかあ!こいつらの願いはもう聞いてやったはずですよ!間宮の件は引き受けるって言いましたよね!?それが調子ぶっこいてこの部屋に匿って欲しいですよ?!ふざけんなあああ!ですよ!」


「まあまあ。お怒りはごもっともで。それより、あ。それで匿って欲しい理由ってなんすか?中山君でしたね」


 ここで忍がこれまでのいきさつを洗いざらい話す。


「なるほど…。『肉球会』からヤキを食らい。『模索模索』から追われ。八方塞がりの状況であり。そこで匿ってくれていた世良さんが間宮に病院送りにされたと。え、でも『たぴおか』の事務所なら安全ですよね?あそこは世良さんの部下も何人かいますし。世良さんも入院中もそういう手配に抜かりはないと性格的に思いますが」


「それなんですよ」


 義経がパーラメントを咥えながら話始める。宮部も義経の喫煙にヤイヤイ言うがそれをシカトして話す。


「実は『たぴおか』ってウチの兄貴だけのもんじゃないんですよ」


「真木っすね?」


「知ってるんですか?」


「ええ。『たぴおか』の真木と言えばちょっとうるさいですよ。太陽の世良、北風の真木って呼ばれてましてね。狂犬っすよ。真木のケンカには負けと引き分けがねえって言われてるんです」


「あ…、そうなんですか。その真木さんとここに来る前に一戦交えてきまして…」


「え?義経君が?ですか?」


「はい」


「あの真木ですよね?」


「はい。まあ、途中で逃げてきたってのが正しいですけどね」


「いやいや。あの真木から逃げれたんですか?まあ…、今ここに無事でいるってことはそうなんでしょうけど…」


 ここで義経が真木に噛まれた左手の傷、ジョンソンエンドジョンソンのキズパワーパッドを見せる。そして真木の右手人差し指を折ったこと、髪の毛を掴まれたこと、噛まれたこと、逃げるまでの経緯を説明する義経。それを食い入るように話を聞く田所とたなりん。宮部だけは「俺の部屋に?絶対ない!ふざけんな!」と怒っていた。しかし心の中では「中山のボケに部屋の中のお宝を見られたら俺は死ぬ。生きていけない」と思っていた。

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