第410話不良も世の中も捨てたもんじゃねえ

「たなりん…」


 宮部がたなりんからの思わぬ申し出に言葉をなくす。


「そうかあ。それもいいかもね」


 義経がパーラメントを咥えながら言う。それを見て宮部がキレる。


「おーこらぁ!なにどさくさに人の部屋でタバコ吸おうとしてんだよぉ!殺すぞ!」


「え?ダメなの?この部屋って禁煙?イカ臭いのをヤニの臭さでごまかしてやろうとしてんじゃん」


「誰の部屋がイカ臭いだって…。てめえはやっぱ俺にケンカ売りに来ただろ…」


「まあまあ。宮部っち君。自分も吸ってますし」


「いやあ、田所さんはいいんですよ。こいつらはダメです。舐めてるでしょう」


「そうそう。宮部っちパイセン♡」


 そういってパーラメントに火を点ける義経。


「てめえ…。あんまり調子に乗ってっとやっちまうぞ。中山ぁ、てめえがこの部屋でタバコなんざあ吸いやがったらその瞬間に俺はお前を殺す。いいな」


「ああ…」


「それでさっきの続きね。間宮君もたなりんには一目置いてると思うんだよね。三原の目をぶっ潰したのもリアルタイムで見てたのもあるんだろうけどさあ」


「なっ…!あの三原の目を!?」


 忍が思わず驚きの声をあげる。当然である。『藻府藻府』時代から三原、江戸川、天草を見てきた忍はあの三人の恐ろしさを知っていた。あの三原をこのたなりんと呼ばれるダサ坊が…、と驚く忍。義経が続ける。


「たなりんは底が見えねえところがあんだよなあ。間宮君がたなりんとラインを交換した理由も俺には分かる気がするんだなあ。同類っていうか。似てるところを感じるってのは間違いなくあると思うよ」


「ああ?たなりんと間宮が似てるだと?」


 義経の言葉に少し驚く宮部。義経のいうことがなんとなく分かる田所。


「自分にも分かる気がするっすね。たなりん君は、これは飯塚ちゃんも同じなんですが似てる部分があると思いますよ」


「へ?たなりんと飯塚さんが似てるなりか?」


「そうそう。人の力を頼らないと言いますか。どんな困難だろうとまずは自分の力でなんとかしようと考えるところとかですかね」


「なり…」


 学校でいじめに遭おうとそれを誰かの力で解決しようとは思わなかったたなりん。オタクという趣味に自分の生きる場所、活躍できる場所を見出したたなりん。そこからいろんないい出会いをしたたなりん。気が付けば『藻府藻府』のメンバーにもなり、『組チューバー』にも加入し。『藻府藻府』のメンバーからも信頼され。『組チューバー』でも楽しさを感じ。最初は恐い、関わりたくないと思っていたヤンキーと呼ばれる人種もいい人と悪い人がいて。学校では作れなかった『仲間』を学校の外で作れた。『仲間』を傷つけられたら自分が傷つけられるより腹が立つ。そんな当たり前に気が付けた。元極道の田所もいい人だと思えた。宮部は毛嫌いしているけれど義経ともたなりんは仲良しになれた。『自分には強い友達がいるんだぞ』とは違う。大切な仲間は自分が守らないと。そう考えるようになった。


「間宮君もたなりんには心の中では誰かがブレーキをかけてくれることを待っている気がするなりね。間宮君は頭もいいけどその分不器用なんだと思うなり。スーパーマンの悩みは誰にも分からないなりからね。打ち明ける相手がいないだけだと思うなりよ。間宮君だってきっと心の中では弱い部分があってなりね。たなりんが間宮君に腹を割ってぶつかってみれば分かり合える気がするでござるなりよ」


「たなりん…」


「たなりんも変われたなり。それは宮部っちに出会えたからなりよ。飯塚さんにも出会えたなり。それから『藻府藻府』のみんなにも出会えたなり。そしてつねりんにも出会えたなり。だからたなりんは変われたなりね。間宮君も同じだと思うなり。変われるなり」


 みんなが真剣な表情でたなりんの言葉に聞き入る。そして。


「そうだな。たなりん。トチ狂った間宮のボケの頭を思い切りぶん殴って目を覚まさしてやれるのはたなりんなのかもな。でもよお。たなりんは俺らの最後の切り札だ。飯塚さんもいる。まずは俺に任せてくれよ。順番だ。俺には十代目『藻府藻府』頭として先代の京山さんから受け継いだ大事なもんがあるからよお。間宮が道を踏み外したんだとして。その最初の理由は俺にあんだよ。そのせいで仲間もたくさん傷つけちまった。だから俺だ。ダメな末弟にまずはやらせてくれよ。俺があの馬鹿を死ぬほどぶん殴って止めるからよ。その時に慰めの言葉をかけてやる奴がいねえとあれだろ?」


「そうだね。ダメな宮部っちパイセンだろうとちっとは根性見せてくれるって言ってくれてるし。慰めの言葉をかけてあげる役割も必要だからねえ」


「世良ぁ…。てめえはいちいちよお…」


「いやいや。宮部っちパイセンを立ててるじゃん」


 そんな目の前でのやり取りを見ながら忍は二つのことを考えていた。「不良ってのはそんなにあめえもんじゃねえだろ」ということ。そしてもう一つは「ちっ、もっと早くにこいつらと出会えていたら。不良も世の中も捨てたもんじゃねえ」と。

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