第409話え?

「おい。タタキって一体いくらいかれた?」


 客用の椅子に座った真木がそう言いながらタバコを咥える。


「あ、まだ把握してません…」


「ああ?把握してねえだと?だったら今から数えろや」


 灰皿など無用とばかりに真木がタバコの灰を床に落とす。ようやく日計表と店の財布を照らし合わせる店長と名乗る男。しばらくもう一人の従業員への質問タイムとなる。


「どういう状況でそいつらは店に入ってきた。あと何人だった」


「はい…。二人組です。マスクをしてました…。二連れの客は普通に来ますし、マスクの客も珍しくはありませんでしたので…。最初は一般客と同じように振舞ってまして…。あ、そういえば聞かれました。『他に客はいないのか?待たないのか?』と…。土曜は朝から夕方まで客の流れはありますが夜になると流れは止まりますので。予約の客がポロポロとで、あとのフリーは女子もほぼ全員出払ってますから…。多少待ってでも遊ぶ客だけが…。そんな時に来られたので…。最初は二連れなので同じタイミングで戻る女子が二人いましたんで…。待ってもらえるかと思ってまして…。そしたらいきなり一人が待合で待っていたお客さんに向かっていきまして…。もう一人が受付で喚き散らし初めまして…」


「ああ?喚き散らしただと?それぐれえで金出すんか?」


「すいません!でも二人とも異常にガタイがよかったのと…」


「よかったのと?なんだ?」


「はい…。見た目も堅気に見えないような風貌でして…」


「アホかぁ!見た目でビビりやがって。それで」


「待合の客もどうなったか分からない状態で『騒げば殺す。歯向かったら殺す』と脅されまして…。あとは言いなりでガムテープでグルグルと縛られました…」


「おい!計算はまだか!」


 日計表と財布を照らし合わせている店長と名乗る男を怒鳴りつける真木。


「は、はい!だいたい計算できました!店の釣り銭が十万円と精算済みの早番女子の分の店落ち分が雑費含めて二十四万円、遅番の未精算の女子給と店落ち込みの金額が指名料も含めて五十五万で八十九万円です!」


「んだとお…?」


「女子から預かっていた財布とかの貴重品は取られてません」


「うるせえ!馬鹿か!九十万もまるまる獲られてなに言ってんだ?お前その穴ぁ、どう埋めるつもりだ?」


「…埋めると…言われましても…」


「真木さん。今はこいつらを詰めるよりも…」


「詰めるよりもなんだ?おお?」


「ウチの店は全店舗に防犯カメラを数台取り付けてます」


「ほお、防犯カメラを数台取り付けてるかあ。それで」


「それをすべてチェックすれば犯人が例えマスクをしていたとしても証拠になります」


「証拠になってどうすんだ?」


「それは…、所轄の警察に被害届を出して…、顔が映っていれば…」


「映っていれば?捕まえてくれるってか?それで。獲られた金も無事に戻ってくるってか?あ?」


「それは…やってみないと分かりませんが…」


 真木が受付用の机を思い切り蹴り飛ばす。


 ガンッ!


「馬鹿か!おめえ!どこまでお花畑の脳みそしてんだあ!俺らの仕事はタタキに遭おうとデコは捜査もしねえよ!」


「…それは、防犯カメラの映像を提出してもですか…?」


「池田ぁ!いつまでノンキ垂れとるぅ!」


 真木の怒りが拳となって再び池田と山下を襲う。現場の従業員もそれをただ黙って見ているしかなかった。そして。


「あと二軒分。事務所にいったん戻る。各店の責任者に日計表と被害額を明確に出させて事務所に集合させろぉ!」


 そう言って真木が吸っていた火の点いたタバコを壁に投げつける。



「ちょっといいなりか?」


 重い話をしていた宮部の部屋でたなりんが発言する。


「ん?たなりん、なに?」


 義経がたなりんへと発言を促す。


「うん。さっきから話をたなりんなりに聞いてたなりね。もちろんたなりんの知らないことの方が多かったから話が飛んで頭に入ってくる感覚なりけど。それでも聞いていると間宮君を止めて欲しいってことなりよね」


「ん、ああ。そうだね。たなりんも間宮君とは何度か顔も合わせてるし話もしてるよな。ラインも交換してんだったよな」


「してるなりね…」


 たなりんの発言に最初は場違いなオタクとたなりんを見ていた忍が驚いた表情を見せる。


「なに驚いてんだよ。中山ぁ。てめえと違ってウチのたなりんは間宮と五分の付き合いしてんだよ」


「マジか?あの間宮と五分の付き合い、いや、あの間宮が五分の付き合いをするのか?」


「だったら今からでもあの間宮のボケに直接聞いてみろ。たなりんさんって方にお会いしたんですがマックにパシらせていいですかってな。お前その場でヤキ食らうぞ」


「なっ…」


 忍が信じられないという表情を見せる中、たなりんが続ける。


「その…、間宮君を止めるって話なりけど…」


「おお。ちっと暴走が過ぎてるみてえだしな。ここで俺らが止めねえとそのまま突っ走っちまうだろうなあ。その先にあるのは。勝手にくたばるのはいいけど。いろんなもんを巻き込んじまってることもあるしな。この場にいねえけど飯塚さんならあいつの前に立ちふさがるんだろうな。事実、バイクで飛んだあいつを庇って入院してるのもあるしよお。京山さんでも同じことすんだろうなあ」


「それなりけど…、そのぉ…、そのぉ…、たなりんが間宮君に話をしてみるわけにはいかないなりか?」


「え?」


 宮部の部屋にいた人間がたなりんの言葉に固まる。

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