第408話北風から嵐へ
現場から池田の携帯へと立て続けに連絡が入る。
「なに?店に強盗だと…」
嫌な記憶が蘇る池田。土曜の夜に緊急事態は続く。
「あ?そこもやられただと!?」
そして三軒目も。
「なんだと!?」
対処しようにも池田の体はひとつだけ。山下に連絡し事務所へ来るようにと伝える。そして。ここで池田が迷う。病院にいる世良兄に連絡すべきか。それともあの乱暴な真木に連絡すべきか。真木に連絡すればどうなるかぐらい想像がつく。怒声と拳が飛んで来るに違いない。かといって世良兄に余計な心配をかけたくない。世良兄の性格なら病院を飛び出して這ってでもここに来る。迷っている暇はない。真木の携帯を鳴らす池田。
「なんだあ?」
数コールで真木が電話に出る。
「すいません。うちの店がタタキに遭いました」
「んだとぉ?てめえ!てめえは無傷で報告かぁ!」
「すいません!俺も現場からついさっき連絡を受けたばかりでして…」
「すいませんじゃねんだよ!今から十分で行く!山下も呼んどけやぁ!」
「はい!」
そして十分後。まず『たぴおか』の事務所に真木が現れる。
「てめえ!」
一発。義経が折った人差し指などお構いなしで右手でぶん殴る真木。吹っ飛ぶ池田。
「山下も呼んどけっつたろうがあ!なんでいねえぇ!」
吹っ飛んだ池田にガンガン蹴りを入れる真木。
「すいません!すいません!勘弁してください!」
そしてようやく『たぴおか』の事務所に山下が現れる。
「池田さん!店は!?」
「店はじゃねんだよ!」
今度は山下が吹っ飛ぶ。真木の左手裏拳が山下の顔面を捉える。事務所の車輪付きの椅子ごと派手な音をたてて山下が倒れ込む。
「おい!池田ぁ!店はどこがやられた!?」
「三軒ともほぼ同時にやられました…」
「ああ?三軒とも?おい。今なんつった?」
「え…、いや、三軒とも…と」
真木の怒りがさらにヒートアップする。
「おい…、三軒ともだと?おい。うちの店は二軒じゃねえのか?ああ?」
「え、いや…」
「世良ぁ…、あの野郎ぉ…、俺に隠れて店やってやがったのかあ…」
「あ、いや…、それは…」
真木が言い訳しようとする池田に渾身のフックを入れる。池田が腹を抑え、呻きながら這いつくばる。
「おい。俺の知らねえその三軒目の店に案内しろや。山下ぁ。車回せや」
「…はい」
真木が池田と山下をつれて現場へと向かう。
車で十五分ほどの場所、繁華街近くで車を止める山下。
「ここかぁ。ウチの店と目と鼻の先じゃねえか。世良の野郎ぉ…。人に隠れててめえだけ美味い汁吸いやがってよ。おらあ!案内しろやぁ!」
「はい…!」
腹を押さえながら池田がよろよろと先頭を行く。一階に居酒屋の入ったマンション。管理人室の前を通ってエレベーターの前へと歩く。管理人は不在であった。
「こんな居住用のマンションで大家の許可が出たのかよ」
風営法により、届け出確認書には物件の大家の承諾書が必要である。大家が「この建物で風俗営業を営んでもいいよ」と書面に明記したものである。多少のボロマンションであろうと「大家の承諾書が出る物件」となるとその家賃は通常の家賃に五万から十万上乗せしようと借りては引く手あまたとなる。またホテヘルだろうとデリヘルだろうと人の出入りは普通の部屋よりも激しくなる。そうなると当然他の住人から苦情も出る。その為、目先の金に転んで「承諾書」を書く大家はなかなかいないのも現実である。風俗店が一軒でも入ったマンションは表から見えなくとも他にも多くの業者が借りていると言っていい。見えなくともそのマンションは『風俗マンション』となっていることが多い。待機所と電話受付所と二部屋横並びで借りる業者も多い。待機所にも大家の承諾書は必要となる。待機所の賃貸借契約書も届け出確認書には添付する必要がある。
「既得権を持った受付所が売りに出てたそうでして…。最近買ったのがここです…」
「ふんっ。ホテヘルか。ホテルはウチの店と同じところを使ってんだろ。タタキは逃がしたのか」
「はい…。従業員もその場にいた客もガムテープで縛り上げられたみたいでして…」
「うるせえ!余計なこと言うんじゃねえ!俺が聞いたことだけに答えてろやボケぇ!」
そして五階で降りる三人。
「501です…」
池田の言葉でそのまま真木がずかずかと一人で歩きだしそのまま501号室の扉を開ける。その後から池田と山下が続く。部屋の中を土足で上がっていく真木。靴を脱いで上がる池田と山下。そして奥の受付部屋へと進む。中では二人の男がビビった様子で震えていた。
「おい。兄ちゃんらが責任者か」
「あ、あ、ああ…」
「ああじゃ分からん。俺はこの店のオーナーだ」
池田がここで横から会話に入る。
「この人の言う通りだ…。もう安心しろ…。俺に電話してきたことを洗いざらい喋れ…」
「池田さん…。はい。自分がこの店の店長です」
ここから真木の尋問が始まる。
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