第395話街宣車が横付け

 世良兄と真木が独立して「たぴおか」を立ち上げる際に迷ったこと。


『ケツ持ちをどうするか』


 世良兄の考えは「それを払って済むならそれぐらいの金額なら払ってもいい」であり、真木の考えは「そんな金を払う必要は一ミリもない。そんな金があれば俺がケツを持つ」だった。今でこそ『みかじめ料』は支払った方も受け取った方も罰せられるようになっているが現実はどうか。夜の商売や裏社会で商売をするものは払っている人間が多い。『みかじめ料』イコール『その商いはどこが面倒を見ているか』ではなく『もしトラブルが起きて。相手が筋モンを出してくればそこが出る』を意味する。金額は安くて月額五万から。高いところだと二十万でも三十万でも言い値がその値段になる。昔からの付き合いでそのまま払っているところも多い。それだけヤクザもんとの付き合いをある日突然切ることは難しい。


「闇金はともかく、風俗をやるならエリアはおのずと広くなる。だったらその店ごとの地場に払えばいい。その土地はどこが仕切っているかは分かるだろう」


 世良兄の言葉。


「ああ?馬鹿かお前。今時そんな金払う奴がいるのか。揉めたら揉めた時に考えればいいだろ。ハナからクソ真面目に払ってたら舐められるだろうが」


 真木の言葉。


 ちなみに『みかじめ料』は月会費みたいなものである。毎月会費を払っているからといって問題が起きて動いてくれるわけではない。問題が起こって組織の力を借りるなら別料金。月々の『みかじめ料』は掛け捨ての保険料に似ている。問題が起こって力を借りるための保険料。しかも有事の際は別途でそれなりの金を払う。だったら今の時代、払わずに商売を始めればいいという考えになる。


 結局はケツ持ちナシで「たぴおか」を始めた。そもそも前に勤めていた闇金とバッティングしたら相当揉めると分かっていたが世良兄も「そうそうぶつかるもんではない」との思いもあった。余所とぶつかっても堅気どうしのいざこざで済む、と。広告屋の角田からよっぽどのことがない限り同業同士でバッティングはないと聞いていたのもあった。ちょっと昔ならそういうのはあったとも聞いた。西の『血湯血湯会』が出て来れば厄介であると。『血湯血湯会』をバックにしているところはかなりムチャをする時代があった。そういうところに税務署が入れば翌日には税務署の前に街宣車が横付けした。そして税金の件はなかったことになるのを実際に目の前で見たこともあった。今は関東でも『血湯血湯会』の看板は増えた。闇金を営んでいると当然のようにヤクザもんが高利だろうと借りにくる。当然である。彼らは銀行からも借りれない。正規の金融機関からは借りられない。カードも作れないからリボ払いも出来ない。それでも日銭に困るのは他の債務者と同じである。


「ヤクザは闇金にとっていい客である」


 これは間違った考え方である。ヤクザであろうと他の債務者と変わりはない。トイチの高利貸し相手だと開き直るものも多い。


「あ?電話しろだと?」


「〇〇さん。今日が期日っすよねえ。約束守ってくれないと困りますよ。信用して貸してんだからさあ」


「ねえもんはねえからよ。とれるもんならとってみろよ。ああ?」


 ここで引き下がっていたら闇金はやれない。


「元金が無理ならジャンプでいいっすから。払ってもらわねえと飯食えねえんすよ」


「飯食いたいならご馳走してやろうか」


「○○さん。そういう話じゃないっしょ。今日払えねえなら上に話を持っていくだけっすよ」


 違法な闇金相手にはヤクザもんも平気で組の名前や看板を出す。恫喝も当たり前。そこで引いてたら商売にならない。そうなると分かっていて金を貸している。ケツ持ちのいない闇金が本職相手に金を貸すには怖いとか危ないとか言ってられない。真木も普通に引かない。なにがなんでも金を工面させる。そして真木は弱みを突かれることとなる。当時付き合っていた真木の女が何者かに暴行を受けた。それも集団に。相手の弱いところを攻撃することはこの世界の常とう手段である。ただ、それは攻撃を受けて初めて気が付くことがほとんどであり。真木も知らせを聞くまではそんなことは一ミリも想像したことがなかった。知らせを聞いた真木は鬼と化した。

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