第394話本当の巨悪

 ヤクザのシマは昔と今では扱いが違う。また都心と地方でも違う。この関東では西の『血湯血湯会』が看板を掲げるようになってからさらに複雑化した。繁華街では雑居ビルのフロアごとにケツ持ちが異なり、最初に面倒を見ることになった組に優先権がある。それとは違って『地場』との言葉もある。『地場』とは昔からその地に看板を掲げて地元の面倒を見てきた組織のことである。関東の一本独鈷の組は『肉球会』もそうだが『地場』の組織である。では『地場』のシマに他の組織が入ってきた場合。結論として『地場』の組織と入ってきた組織が話し合いで解決する。『地場』の組織がシマウチで新しい商売を始めた人間に挨拶へ行くと別の組織の名刺を見せられ、上の人間が話し合って解決することは多い。その場合は外から入ってきた組織から『地場』の組織へケツ持ち代のいくらかを支払うことで治める。それにより『地場』の組織のメンツも立てることになり、貸しも作れる。ただ『血湯血湯会』は違った。『血湯血湯会』の代紋を出されて話をされるとよほどの組織でなければ黙って堪えるしかなかった。もちろんメンツを立てていくらかを回すことなど『血湯血湯会』はしない。それだけ『血湯血湯会』の代紋の持つ力は日本全国どこに行っても絶大だった。それは昔気質の屈強な男たちが揃った『肉球会』も同じであった。ただ『肉球会』が違ったのは「シマに生きる堅気さんが困るようなことがあれば例え『血湯血湯会』が相手だろうと引きませんよ」と考え方をしっかり示したことである。だから日本最大級の勢力を誇る『血湯血湯会』の系統である『蜜気魔薄組』相手でも筋が通らないと思った時は徹底的に争う。媚びない。そして時代がどんどん変わり暴対法により「みかじめ料」も悪であると厳しくなり。シマが金を生まない時代となり。組織は企業舎弟を持つことで金を稼ぐようになり。自分たちで真っ当な商売をするようになり。時代の流れに乗りITに長け、ネットカジノやグレーなサイトで稼ぐようになり。『肉球会』も時代の流れに取り残されないよう模索しながら世良兄の力を借りて広告業や無料情報館などを展開しそれを新しいシノギとした。ヤクザも時代の流れに従い、「金を集める」考えから「自分らで金を生み出す」考えにシフトしていった。面倒を見ている闇金や風俗などの業種から『みかじめ料』を取るよりも『商売の仕方を習う』ことを選択するようになった。堅気でも要領よく金を稼いでいる人間は多い。そういう人間に「若い衆に商売のノウハウを教えてやってください」とお願いする時代になった。それでもヤクザの本質は変わらない。金の匂いには敏感である。それをどう自分たちの組織に活かす様にと考えるかは組織によって異なる。またオリンピックにカジノなど大きな利権は大きな金が動く。結果、反社チェックを徹底するクリーンな大企業が反社のようなことを平気でやるような時代となった。徹底した拝金主義を掲げ、人件費を抑え込み、安い投資で高リターンを求め。勝ち組の大企業が企業と組めば企業も利益を簡単に出せる。政治家も企業有利に動き、負担を庶民に押し付ける。庶民も最初は文句を言うがすぐに慣れて文句を言わなくなる。そうやって3%から始まった消費税が今や10%にまで上がっても当たり前のように払う。時代は真っ当でありクリーンなはずの企業が反社のようなことを平気でやるようになり、任侠のような古臭く金にならないものは法でどんどん縛り付け生きる場所を奪われていった。企業が争う時は弁護士に丸投げで済む。顧問弁護士のリーガルチェックした文面とテンプレート化した文面で自分たちの正しさを通すのが企業である。今のこの国は一度大企業として時代の覇権を握ったものが圧倒的に強い。通信事業者がいい例である。不当請求と独占禁止法すれすれのことを平気でやる。高齢者どころか若者でもITの専門的知識をしっかり持ったものは少ない。通信事業者が黒い仕事を代理店に丸投げし本体は部署を多数設けることで顧客の声は絶対に表に出ない。法外な料金がかかるナビダイヤルにかけてくるクレーマーは少ない。チャットで問題解決などしない。試しに大手通信事業者の本社に電話問い合わせをしてみれば分かる。名ばかりの部署をたらい回しにされた挙句に問題解決など絶対にしない。総務省に問い合わせても「そういうお声は多いのですが…」で終わる。そういうことがヤクザの存在理由にはならないが不器用で昔気質な『肉球会』のような存在が必要とされるのも時代に理由があった。


 真木がヤクザもん三人を半殺しにした事件はまだ「たぴおか」を立ち上げて間もない頃だった。最初のきっかけは融資によるトラブルであった。

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