第396話てめえは息がくせえから寝てろ
真木からの着信。携帯に出る世良兄。
「どうした?」
開口一番に異変に気付く世良兄。
「ヤクザもんを三人半殺しにしてもうた。金は利息分だけは回収した」
真木のそんなセリフの後からジッポライターの音がスマホ越しに聞こえた。
「ヤクザもんを?お前今どこだ」
「繁華街の○○って店の裏だ。ふうー」
タバコの煙を吐き出す呼吸音が聞こえる。繁華街の喧騒は聞こえない。○○は小さなスナック。事務所からは近い。
「すぐに行く。なにかあればまた電話しろ」
そう言って「たぴおか」の事務所をすぐに出る世良兄。事務所にたまたまいた義経が言う。
「正兄ぃ。どったの?トラブル?」
義経の言葉に返事をせず現地へ走る世良兄。義経も世良兄の後を追う。五分ほど走って○○の店前につく。真木は確か電話で店の裏と言っていた。店の横に裏へと続く小さなスペースが。それに沿って店裏へ向かう世良兄。義経も興味本位で続く。そして。
「おう。意外と早かったな」
午後十時を過ぎた暗闇の中、街のネオンに照らされて顔面が血に染まった真木がタバコを咥えているのが見える。そしてその足元に倒れ込んだ三人の男の姿。
「お前…。殺っちまったのか?」
「あ?あれぐらいでは死なんだろう。殺すつもりでやったんで死んでるかもな」
自暴自棄に近い言い方でそう口にする真木は何度もタバコを右手と口とを往復させる。アドレナリンがマックスの状態の自分を落ち着かせるように何度も。世良兄が倒れている男たちの呼吸を確認する。三人とも声を出さないが呼吸をしている。死んでいない。
「真木。あとの処理は俺がやっとく。お前は今すぐここからふけろ」
「あ?なんで俺がふけなきゃなんねえ。こいつらの仲間がきたらそいつらも俺がやってやんぜ」
「金の回収でここまでやる必要があったのか。一体なにがあった?」
「馬鹿かおめえ。ヤクザもん相手だろうと金はきっちり回収しねえと舐められるだろ。舐められたら俺らの稼業はしめえだろ。飯が食えなくなるだろ」
「俺の質問に答えろ。一体なにがあった?」
「正兄ぃ。こいつらやべえよ。すぐに病院に連れて行かねえと。刺し傷の出血があんよ」
「おい真木」
真木の胸倉を掴む世良兄。
ニチャ。
ここで異変に気付く世良兄。真木の胸倉を掴んだ右手を見る。赤い鮮血で右手が染まる。生暖かくべったりとした感触。
「お前…」
真木の腹は刃物で刺されていた。それに気付いた世良兄に余裕を見せるようにゆっくりと旨そうにタバコを吸う真木。
「あ?俺も腹と足か。刺されちまったかな」
「こいつは○○組の人間だろ。お前ホントに何やってんだよ…」
世良兄もこんなバイオレンスな取り立てなど初めてだった。今までそういうのは威嚇にのみ使うことであり。実際に暴力を使うことなどなかった。現実として手を出せば回収出来るものも出来なくなる。だからこそ腕力がものを言うのは学生までと思っていた。
「じゃあどうすんだよ。脅してもすかしても金を返さねえクズ相手から回収するにはよお」
「本人が返さねえならそいつの身内に払ってもらうだけだろが!相手がヤクザもんだったら上に話を持っていけば済むだろうが!」
「話し合いで終わる話じゃねえんだよ…」
「あ?」
「こいつらぶっ殺さなきゃあ俺の気が済まねえんだよ!おらどけぇ!病院に連れて行くだと?だったらこいつらが死ぬまで何度でも殺してやるよおおお!」
「やめろお!」
世良兄へ突っかかろうとする手負いの真木の後頭部へ義経が握り込んだ両手の側頭をハンマーのように叩きこむ。真木の体が沈み込む。
「正兄ぃ。真木さんの言う通りだ。真木さんも腹と太腿を刺されてる。こっちも早く病院に連れてった方がいいよ」
「…、同じ病院じゃ不味いな…」
世良兄がそんなことを考えている間に義経が倒れている男たちを再度見る。三人の男の一人が何かを言おうとする。
「…クソが、あのアマ…何度でも犯したる…」
「ちょっと待て。義経。これはなにか喋ってくれそうだな。お前は真木の方を見てろ」
そして男に話しかける世良兄。
「…舐めやがって、殺したらあ…」
「あんたの気の済むようにやらせてやるよ。その前に。あんたら真木の女を輪姦したのか」
「…やってやった。あのアマぁ…いい声で鳴いてた…。最後にゃヨガってあのアマの方から…」
その言葉を確認した世良兄が男の顔面に拳を叩き下ろす。
「てめえは息がくせえから寝てろ」
そう言って倒れている男たちのポケットからスマホを探しだし緊急時ダイヤルボタンを押す。
「事件ですか。事故ですか」
「ケンカみたいです。場所は住所が○○〇〇の○○。○○って店の裏です。血だらけで三人の男が倒れてます」
そう言ってスマホを地面に放り投げる世良兄。
「おい。真木を連れて行く。肩を貸してくれ。義経」
「こいつらは」
「通報はしといた。あとはGPSで辿り着くだろ。いくぞ」
「でも刃物の傷だぜ。その辺にドスが落ちてんじゃねえの。サツがうるせえんじゃねえの」
「あ。サツはこんな点数にならねえことでは基本動かねえよ。こいつらもサツにすがるマネはしねえ。酔った身内同士のケンカで処理して終わる。ウチに話を捻じ込んでくる可能性もねえ」
「そうなの?」
「普通ならな。ほら行くぞ。すぐに誰かしらが来る」
世良兄が言った最後のセリフ。『普通ならな』。相棒の真木の女が?だったらこのまま終わらせるわけにはいかない。真木を肩で担ぎながら世良兄の目には力強い炎が燃えていた。
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