第375話いい奴
とある工場跡。
「ご苦労様です」
「ん?お前は確か…」
「はい。『身二舞鵜須組』さんにお世話になってます半グレで頭をやってます慈道です」
この状態になっても腰の据わった関谷。そして小泉の姿を目にする。すべてを察する関谷。
「小泉。お前こんなところでなにしとんや」
「いえ…」
間宮と伊勢も車を降りる。
「おう。お疲れ。タクシーの運ちゃん。メーターはねえよな」
「いえ!お金なんていいです!私はこれで帰ってもいいですよね」
「間宮ぁ。どうする」
「あ、いいっすよ。帰って。でも車はこっちで処理しますんで。歩いて帰ってください」
「歩いてって…。ここはいったいどこなんですか…?」
「さあ。歩いてたらバス停かタクシーでも見つかるんじゃねえの。テクテク歩いてりゃあなんかしらにぶつかるわ。まあ念のため言うとくけど今日の記憶は忘れろ。ええか。今日のことが外に漏れりゃあ。誰かに漏れりゃあお前がどんな言い訳しようとお前が喋ったと判断する。そうなりゃあ…どうなるか分かるな」
「言いません!喋りません!忘れます!忘れます!忘れますから!では私はここで」
そしてそそくさとその場から走って立ち去るタクシーの運転手。
「おーい。暴走族に襲われましたって言うんやでー」
伊勢が逃げるように走るタクシーの運転手の背中へ向かって言う。そして振り向いて続ける。
「さあ主役が揃ったところで話を始めますか。『身二舞鵜須組』の組長さんにカシラまで揃ったんですからね」
「伊勢ぇ、てめえ…」
「小泉さん。そう怖い顔せんでくださいよ」
「慈道。お前のその傷は」
慈道の顔面に残った頭から血が流れた痕を見て間宮が言う。
「なんでもありません。自分が勝手にすっころんだだけです」
「そうか…」
「それよりも間宮。人をこんなとこまで連れてきてなんのもてなしもナシってのはないやろなあ」
「それはありません。『身二舞鵜須組』の親分さんと若頭さんのお二人にご足労いただいてなんのおもてなしもナシってのはさすがに失礼すぎるかと。おもてなしですが裏はたくさんあるんじゃないっすか」
「間宮ぁ…。てめえ…」
伊勢が拳銃を取り出し、銃口を小泉に向ける。
「ここからは余計なことを勝手に喋るのは控えていただけますでしょうか。あんまりムカつくこと言ってると死にますよ」
義経を誘って二人きりで「ホビーショップみえね屋」へ遊びに来ていたたなりん。
「あ、つねりん。こっちなりよー」
「ん。ああ、たなりん」
「今日は『ありすし』の発売日なりよ。もっとテンション爆上げでいくなりよー」
「あ、ああ。そうだね」
「つねりんももちろん『DXバージョン』を狙いなりでござるよね」
「あ、まあ。もちろんだ」
「四千五百円と八千五百円で四千円の違いがあるなりが、商品は四千円以上のお得が詰まってるなりからね。アヘ顔やちんこをイメージしたあの遊び心がまた我々の心をくすぐってくるなりねえー」
「ああ。そうだなあ」
そしてレジにて箱がめちゃくちゃデカい『ありすしⅮXバージョン』をそれぞれ購入するたなりんと義経。そして店内スペースでおしるこを購入して椅子に座って飲み始める二人。
「どうしたなりか?つねりん」
「え?別に。いつも通りだよ」
「いや。なんか元気ないなりよ。つねりんならこの素晴らしき『ありすしDXバージョン』発売日にはテンション爆上げでいろいろと話も弾むと思っていたでござるが」
「そんなことねえよ。さあ。この素晴らしき『ありすしDXバージョン』をお互い無事ゲットしたことにかんぱーい!」
「お兄さんのことなりね」
「たなりん…。なんでそれを…。…まあ飯塚さんや宮部センパイとつるんでたら隠せねえか…」
「ごめんなり」
「別にたなりんが謝ることじゃねえよ。ああー。神宮司彩音ちゃんは元気かなあー。オフ会かあ。鑑賞会だっけ。早くやりたいよなあ」
「あ、う、うう。つねりん」
「なに?」
ここでたなりんが本音をぶつける。
「間宮君はいい奴なりよ」
思いもよらなかったたなりんの言葉に一瞬答えに詰まる義経。そして観念したかのように話始める。
「だよなあ…。間宮君はいい奴だ。その通りだ。たなりん。まあ、たなりんより俺の方が付き合いはちょっとだけ長いけどさあ。あいつって昔から変わってねえっていうか。いや変わったかな。根っこの部分は変わってねえか」
「実は…、たなりんは学校では他の人とあんまり上手く付き合うことが出来てなくて…」
「学校行ってないからあんま分かんねえけど、まあなんとなく分かるよ」
「友達がいないと数で群れてる人間が調子に乗るところなりよ」
「でもたなりんならそんなガキどもシカトでしょ」
「シカトしててもたまに火の粉が降りかかるのも事実なりよ。ちょっと前にたなりんを恐喝して金銭を奪おうとした群れてる人間がいたなりね。そしたらなにも言ってないのに間宮君がそいつらに天誅を与えてくれたみたいで。やりすぎかは今でもたなりんには分からないなりけど。たなりんの味方になってくれたことは事実なりよ。嬉しかったなりねえ。あの時は」
「たなりん…」
二人の会話は続く。
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