第373話眠りの冴羽

「飯塚ちゃん」


「あ、田所のあんさん…」


「聞きましたよー。無茶しましたねえ。飯塚の兄弟は」


「田所のあんさん…」


「大丈夫でござるか!?兄者!」


「あ…、たなりん…」


「宮部っちから全部聞いたでござるよ。あの間宮君を庇って。うー、さすがは三兄弟の長兄なり!」


「ここは…」


「あ、動いちゃだめですよ。飯塚ちゃん。病院っすよ。生きてるのが奇跡なぐらいの重症でしたよ」


「え…。マジですか…」


「というのは言い過ぎっすかね。バイクの怪我より間宮にやられた傷の方が酷いかもっす」


「そうなんですか。あ、いて」


「ほらほら。今はあんまり無理せずっすよ。みんなも来てますよ」


「え?みんなですか?」


「飯塚さん!」


 飯塚が気付くとそこには十代目『藻府藻府』メンバーたちが。


「宮部っち…」


「ったくもおー。飯塚さんは無茶しすぎっすよ!カッコつけすぎです!」


「そんな訳じゃあ」


「なんであの時あんな奴を庇ったんですか?」


「え?なんでだろ…?」


「はいはい。宮部。あとがつっかえてんぜ」


「飯塚さん!」


 長谷部以外の『藻府藻府』のメンバー。二ちゃんやコージ、エコに冴羽に宗助に勝。


「あの間宮とタイマン張ったんですよね!しかも事故った間宮の盾になり!もー!どこまでもカッコいいっす!どんだけっすか!!」


「飯塚さんの仇は俺が取りますんで!」


「あ、いや。それはまあ自分で」


「うおお!飯塚さんはリターンマッチで間宮を殺す気満々だ!事故で庇ったのも自らの手でぶちのめすためですよね!?」


「あはは、あは…」


「でもよく宮部っちたちはあの間宮を追跡できましたね」


「あ、それなり。たなりんはその時、田所さんと家で『がーるがん2』に没頭してたなりよ」


「あれいいっすよねえ。特にVRのが。VR版以外はただのゲームっすよ」


「田所のあんさん…」


 そこで宮部が今回の件を説明する。


「実は長谷部が病院の世話になってから間宮の行動は交代で張ってたんですよ。世良のアニキの方もいろいろあったみたいで。それにヤクザもんとの行動。あの野郎が『蜜気魔薄組』の事務所に入っていった時はなにかあると。そしたら案の定、あそこのトップの伊勢とが揃いまして。あの二人が揃うのって珍しいしぶったたくチャンスでしたからね。もう一人のあのおっさんが、まあ堅気じゃないってのはなんとなく分かってましたが。まさか…でしたね」


 宮部の言葉に田所が付け加える。


「ええ。コージ君や冴羽君のバイクに取り付けていたドラレコで確認しましたがあの男は関谷って言いまして。『蜜気魔薄組』の上の『身二舞鵜須組』の親分っすよ。世良のアニキの方からもいろいろ聞いてましたんで。間宮は関谷の親分の下、『身二舞鵜須組』若頭の小泉ってのに接触してます」


「それは…」


「ええ。間宮が『蜜気魔薄組』に続いて『身二舞鵜須組』を食いにいったんでしょう。あのガキ、たいしたタマっすね。日本最大の『血湯血湯』の看板相手にどんどん食い込んでいってますからね」


「そうなんですか?」


「ええ。そもそも『肉球会』に上等こいてきてた時点で命知らずっすね」


「でもよお。宮部。それに田所さん」


 『藻府藻府』ナンバーツーの新藤が言う。


「その『身二舞鵜須組』の関谷親分と一緒にいて。裏ではナンバーツーの若頭と接触してんですよね?」


「それな。うーん。なにか企んでたのは分かるんすが…」


 その時。冴羽がいきなり病院の床にへたり込む。


「ん?どうした冴羽?」


「こ、これは…」


「ん?」


「で、でたあー!『眠りの冴羽』だ!」


「え?『眠りの冴羽』なりか!?」


 そして床にへたり込んだ状態で俯いたまま話始める冴羽。


「えー皆さん。これはいたって簡単なトリックです」


「トリック?」


「勝君でしたね」


 『眠りの冴羽』に指名された勝が返事をする。


「あ、はい」


「勝君がもし十代目『藻府藻府』を乗っ取ろうと思えばトップの宮部氏とナンバーツーの新藤氏の両方に取り入りますか?」


「え、あ、いや。どっちか片方かなあ」


「でしょうね。両方にいい顔して外部から取り入ろうとすれば怪しまれます」


「(おい。外部からって。勝も十代目『藻府藻府』じゃん)」


「江古田君。なにか言いたいことがある時は挙手してからお願いします」


「あ、すいません」


 ここから『眠りの冴羽』の推理が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る