第364話本気のベルギー

 間宮が放った木刀がコージの乗る単車の前輪目掛けて飛ぶ。的確なコントロール。


「飛べや」


 そう確信した瞬間。コージが左手に持った木刀で間宮の放ったそれを打ち返す。


「『藻府藻府』のイチローを舐めんじゃねええええええええええええ!てめえがどぎたねえことをしてくんのは織り込み済みじゃあああああ!」


「伊勢さん。エモノ持ってないんすか」


 間宮の問いに答える伊勢。


「エモノ?あ、持ってねえなあ」


「関谷さんは持ってねえの?」


「あ?手ぶらじゃ」


「ちっ、使えねえなあ」


 そう言って間宮がアイスピックを取り出す。嫌な思い出が頭をよぎる。世良の兄へこいつを投げたこと。記憶はリンクする。世良義正をやっちまったこと。


「うぜえな…」


「あ?なんか言ったか?」


 カーチェイスを繰り広げる中、伊勢の言葉をシカトし間宮の次の一投。


「コージ!気ぃつけろ!次くんぞ!!」


「ああ!新藤!エコ!冴羽ぁ!そっちも気ぃつけろ!」


「ああ!」


「本気のベルギーぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 そしてここでコージが神業を見せる。間宮が放った二投目。アイスピックはコージの単車の前輪ではなくコージの額目掛けて飛ぶ。それを単車で走りながら、近距離からの全力アイスピックを木刀の側面ではなく打撃部分で受け止める。


 カツッ!


 まるでスローモーションのように左手を巧みに動かし正確にアイスピックの針の部分を瞬きせずに見ながらカツッである。まるで卓球でボールを打ち返すように簡単に。木刀を縦にし、迫ってくるアイスピックの針を直視しながら針と顔面の中間に木刀の打撃部分を持ってくる。


「おらああああああああああ!『全力で投げたアイスピックを木刀で受け止めてみたあ!しかも単車で走りながらああああ!』撮れ高最高ぉぉぉぉぉぉぉ!どんどんこいやあ!」


「ちっ、クソが。おい、運ちゃん。車ごと体当たりかませや」


「そんなことしたら…、このスピードだと死にますよ…」


「馬鹿かあんた。殺すんだよ。ハナから」


「しゃーねえなあ。ガキ相手に。後始末は頼むぜ」


 そう言いながら伊勢が拳銃を取り出す。


「ひいいい!そ、それホンモノですか!」


「あ?おもちゃや。おもちゃ。てめえは何も見てない、聞いてない。客を乗せて言われた通りに走る。それがお前の仕事だろ?」


 そう言って伊勢が猛スピードで走るタクシーのフロントガラスが粉々になり強風が車内へと吹き付ける中、新藤目掛けて両手で拳銃を握り締める。


「『たーげっとおん』じゃねえよ。こういう場合は『ロックオン』ちゅーんだよ」


 そう言いながら伊勢がトリガーをゆっくりと引く。しっかりと狙いを定めながら。拳銃をむやみやたらに乱射しても当たらない。銃はとにかくしっかりと狙いを定めること。銃の先端と銃身、そして自分の目とターゲットを結ぶラインを一直線にすること。そうすることで命中率は格段と上がる。条件の悪い中、伊勢が新藤を『ロックオン』する。引き金も一気に引かない。一気に引くとそれだけブレが生じる。狙いがぶれないよう、拳銃が震えないようゆっくりと引き金を引く伊勢。その瞬間。


「本気のベルギーぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 冴羽が手にしたスパナを伊勢目掛けてぶん投げる。スパナは伊勢が引き金を引く直前に伊勢の顔面を捉える。


 ゴンッ!


 伊勢の後頭部が後ろへと弾かれる。


「な、なにが!?だ、だ、大丈夫ですか?」


 運転手の声にブチ切れた伊勢がスパナの直撃した額を抑えながら頭を戻す。


「ガキがぁ…。どけ!俺があのガキどもぁひき殺してやんよ!」


 拳銃を片手に怒りで顔面を真っ赤にした伊勢がタクシーのハンドルを強引に操ろうとする。大きく蛇行する。


「コージ!エコ!冴羽ぁ!次の作戦だ!車両からいったん離れろ!」


「新藤ぉ!もお少しだぜ!やっちまおうぜ!」


「指示通りだ!主役の登場だ。ちっ、いいとこどりだぜ。この野郎」


 『藻府藻府』少数精鋭部隊の四台の単車とタクシーがカーチェイスを繰り広げる中、もう一台の単車が後ろから猛スピードで迫る。それを確認した新藤の言葉。


「お待たせしましたぁ!『組チューバー』参上ぉ!」


 飯塚をケツに乗せた宮部が猛スピードでタクシーへ迫る。

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