第365話ここは東京だぜ
「この音は…、宮部ぇ…」
後ろを振り返りタクシーへと迫りくる宮部を確認する間宮。そしてしっかりとヘルメットを被って後部シートに乗った男の存在にも。
「飯塚…さん?」
「おう!?なんか言ったか!?」
ブチ切れながら運転手からハンドルを奪おうとする伊勢が言う。
「いや。それより後ろから真打ちっすよ。前後と囲まれちゃいましたね。伊勢さん。どうします?」
「あ!?後ろだと!?」
ハンドルから手を離し拳銃を握ったまま助手席から後ろを振り返る伊勢。片手で振り落とされないようタンデムバーをしっかりと握り締めながらもう片方の手に持ったスピーカーで飯塚が叫ぶ。
「前を走るタクシー!〇〇ナンバー〇の〇〇〇〇!左に寄せて止まりなさい!無駄な抵抗はやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
やっぱり飯塚だ。間宮がそう心の中で口にする。
「カーチェイスはやめだ。分がわりい。走り屋五人相手に三人乗っけたタクシーの運ちゃんじゃあ。ね。無理があるわ」
「なんだと!?間宮!てめえ自分で何言ってるか分かってんのか!?ここは高速だぞ!?」
「そっすよ。まさか『ここは東京だぜ』とは言いませんよ」
「こっちは関谷のおっさんさらってる途中なんだぜ。それにこっからの足はどうすんだ」
「こんなボロボロのタクシーじゃあ目立つしあれでしょ。乗り換えっすよ」
「乗り換えか。そりゃあいい。おい。関谷の親分さん。あんた変なこと考えんなよ。丸腰だろうがおりゃあ逃げるあんたは容赦なく弾くぜ。『血湯血湯』の代紋に背くことになろうがな」
「好きにせえ」
「わ、わ、私はどうなるんでしょうか!?ここまでやったんですからもうすべて免除してくれますよね!?」
「あ?だとよ。間宮。どうする?この運ちゃん」
「まあ。仕事はまだ途中っすよ。最後の仕事をやり終えたらチャラでいいっすよ」
「だってよ。とりあえず止めろ」
「は、はいいい!」
高速道路で停車するタクシー。それに合わせて『藻府藻府』の五人も単車を止める。新藤が後ろに回り車止めの役をする。
「新藤!コージとエコと冴羽を先にいかせろ!あとは俺とお前と飯塚さんの三人いりゃあ大丈夫だろ?」
単車に跨ったまま宮部が叫ぶ。
「だな!コージ!エコ!冴羽ぁ!聞いた通りだ!聞こえたな!」
「ああ」
「んだよー。宮部と飯塚さんがいいとこどりかよー」
「灯りをつけましょぼんぼり煮ぃー!『ぼんぼり煮』ってなんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「いいからいけ!高速機動隊がくんぜ。こいつらはマッポにゃ渡せねえ」
宮部の言葉を聞いていた間宮たちがタクシーから降りてくる。
「ほおー。『誰』が『誰』をマッポにゃ渡せねえって?」
伊勢が拳銃片手に宮部を睨む。
「バカだろあんた。ここにあんたら以外誰がいる?」
宮部もいつも飯塚に見せている顔、たなりんに飛び蹴りを食らっておちゃらけている時の顔は出さない。十代目『藻府藻府』頭としての修羅の顔を見せる。「クールにキチガイをやれる顔」。拳銃の弾なんぞそうそう当たらねえと恐怖は一切ない。
「コージ!エコッ!冴羽ぁ!」
新藤の声で三人はその場から立ち去る。
「新藤!車止め頼む!マッポが来たらすぐに言え!」
「りょうかい」
「なんや。この兄ちゃんら二人が相手してくれるんかい。『弱』そうやのお。いや『微』じゃ。扇風機にゃ『弱』より下に『微』があるやろ。あれや」
「伊勢さん。やってる暇はないっすよ。乗り換えっすから」
宮部と飯塚から視線をそらさずに間宮が言う。
「ああそっか。せやったなあ。乗り換えや。おい運ちゃん。好きな車止めて来い」
「はい?」
「好きな車をぶんどってこいっつってんだ!」
「伊勢さん。運ちゃん一人じゃあ無理っすよ。それに関谷の親分も大事な人質っす。まさか高速道路の上からは逃げられんでしょうが」
「せやなあ」
「こいつらの相手は俺がするんで。足だけ用意してもらえますか」
相変わらず宮部と飯塚と対峙したまま伊勢との会話を続ける間宮。そしてその会話も伊勢の言葉で終わる。
「おう。じゃあきばれや」
そして久しぶりの再会を果たした二人。間宮が最初に声をかける。
「お久しぶりっすね。飯塚さん。再会の場所がまさかこんなところとは想像もしなかったっすが」
「想像?まさかお前からそんな言葉を聞くとはな。それこそ予想外だよ。間宮ぁ」
呼び捨てに間宮のこめかみが反応する。
「間宮?…飯塚さん。あんたぁ、前に俺が言ったこと覚えてねえの?」
「忘れるわけねえだろ。今度会った時は俺を殺るっつってたよな。前までの俺ならビビッてたかもなあ」
「足が震えてるぜ。センパイ」
「うるせええええええええええ!間宮ぁ!お前はいったいどれだけ大切な人を裏切ってきたあ!傷つけてきたあああああああ!」
飯塚の本気の怒りが、咆哮が闇に響き渡る。
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